= 運命 =
■運命
僕は彼女のマンションの近くで待っていた。
夜になっても次の日の朝になっても彼女の姿はなかった。
それでも僕は彼女を待った。
その時の僕はただのストーカーでしかなかった。
あの日からもう1ヶ月近く経っている。
もしかしたらもう他の場所に引っ越してしまったかもしれない。
僕は次の日も自分の家には帰らず彼女を待った。
そんな2日目の夜、彼女がコンビニから出てくるのを見つけ駆け寄った。
『ケンちゃん…』
彼女は僕に気がついてくれた。
『ナミ、待ち伏せしてごめん、話したい事があるんだ』
彼女は一瞬驚いた表情をしたが、僕を部屋にあげてくれた。
部屋に向かう途中会話は無く気まずい空気だけが漂った。
『ケンちゃん、、いつからいたの?』
『えっと…昨日の昼間かな、、』
『それってストーカーじゃん!すぐにシャワーを浴びてきなさい!』
彼女が笑顔で気まずい雰囲気を変えてくれた。
僕は何をやっているんだろう。
散々彼女を傷つけ、さらにストーカーになり、部屋に上がりこんでシャワーまで借りている。
シャワーからあがると、やっぱりバスタオルと新しい下着、彼女のTシャツと短パンが畳んで置いてあった。
でも今日のTシャツは男物のような柄だった。
リビングに戻ると彼女はまたコーヒーを煎れて待っていてくれた。
彼女はコーヒーを豆から挽く。
リビングにはコーヒーの香りが漂っていた。
『なんか、ごめん迷惑かけちゃって…』
『あのままずっとマンションの前で待たれるより2日目に捕獲できて良かったよ!』
彼女は前と変わらず僕に接してくれた。
『ナミ、あのさ、』
『ワタシね、元々あの日でケンちゃんとお別れするつもりだったんだ。』
僕が話そうとすると彼女がそれを止めるように話してきた。
『だからわざとうるさいクラブに行って、大音量の中で酔ったフリして、
ワタシはオカマでーすって言って別れようとしたの。
でも言えなかった…好きとしか言えなかったの…』
僕は自分の気持ちを伝えようとしていたのに、彼女の話を聞いてしまった。
『あんな別れ方になっちゃってごめんね…ケンちゃんの事傷つけちゃったよね…』
『そんな事ない、俺の方こそ黙って出て行っちゃって、本当にごめん、
あれから色々考えて、やっぱりナミの事好きだから、、』
彼女は笑顔のまま涙を流していた。
『ありがとう、あれからワタシも何度もケンちゃんにメールしようと思ったけど出来なかった、
1週間経って、2週間経って、ケンちゃんからも連絡が来なくて、
ちゃんと気持ちの整理をしてたつもりだったけど、、
今日ケンちゃんの顔見たらやっぱりすぐには忘れられないなって思っちゃった…』
『今日まで連絡しなくてごめん…』
『いいの、気にしないで、慣れっこだから。いつも皆そうだったから。
ワタシが男だって知ると皆ワタシを傷つけないように去っていくんだ。
ワタシが騙してたんだから仕方が無いんだよ…
でもケンちゃんは戻って来てくれたんだね… それだけで十分嬉しかった。』
彼女は泣いたままでもずっと笑顔だった。
『ワタシね、来週、フィリピンに行くんだ。念願の性転換手術を受けに行くの。
もうお店も辞たんだ。この部屋も今週いっぱいで引っ越すの。
だからもしケンちゃんが来てくれるのが来週だったら会えなかったんだよ。
なんか凄いね、これが運命ってやつなのかなっとか思っちゃったよ。』
ナミの言うとおり僕がここに来るのが来週だったらもう二度と会えなかったかもしれないと思うと、
僕は物凄く安堵した。
『性転換手術をしたら日本でも戸籍を女に変更出来るんだよ!
そうしたらどうどうと女として色んな仕事が出来るし、今までみたいな後ろめたさはちょっとなくなるかな!?
ワタシは新しいワタシに生まれ変われるの!』
僕も性転換手術を受けたら性別を男から女に変更出来る事は知っていた。
『今までのワタシはワタシでちゃんと心に閉まっておくんだ。
過去を引きずるとかじゃなくて、それも新しく生まれ変わったワタシの一部だから。』
『ナミ、俺はナミが新しく生まれ変わっても、どんなナミでも好きだよ。』
『ありがとう、今のワタシはまだ自信が持てないけど、
きっと生まれ変わったらちゃんとケンちゃんの気持ちを受け止められる気がする。』
彼女は今までどれだけの心の傷をおってきたのだろう。
その傷の一つが僕の責任である事は確かだ。
でも今の彼女はしっかりと前を向いている。
今までの事もしっかりと受け止めて前を向いて歩こうとしている。
『俺、来週ナミがフィリピンに行く時に車で送っていくよ。それで日本に帰って来る時は必ず迎えに行く。
今までのナミの最後の姿と新しいナミの姿をしっかりと見て、それでナミの事を受け止めるから。』
僕はナミの性別が女に変更された日にプロポーズをするつもりでいる。
でも今はその事はナミには伝えないでおこうと思う。




