障子の音
早いもので、一年の月日が過ぎた。
房江は年ごろになるにつれ、器量の良さが目立つようになった。
目元のやわらかさや白い肌は、置屋の者たちの目にも留まった。
房江も芸者の見習いとして、厳しい教えを受けた。
礼儀作法から始まり、三味線、踊り、特に言葉遣いなどの客の扱いについて、年上の芸者から教わったのである。
それは厳しいものであった。
三味線は房江が手先の器用さゆえに、上達が早かった。
さまざまな曲を覚えていった。
踊りも伝統的なものであったが、器量の良さと体の美しさから、妖艶たる輝きを放っていた。
しかし、客の扱いがどうしても上手くいかなかった。
性分が大人しかったこともあり、自らすすんで話す事が苦手であった。
しかし、その不器用さがかえって初々しく、次第に客からも好かれていった。
房江は客相手が終わると、いつもため息をついていた。
心の中で哲夫の姿を追った。
追っても追っても、姿がまるでかげろうのように消えていった。
それでも、哲夫のことを想い続けた。
哲夫も房江が愛しかった。
房江が客相手をしているのを見ると、心が騒いで仕方がなかった。
そんな折だった。
房江は女将から部屋を移るようにと言われた。
芸者見習いとしての立場が少し変わったためであった。
彼女は年長の芸者たちの部屋の棟で、日々を過ごすことになった。
今までの部屋より広かった。
部屋の向こうの棟に哲夫がいる部屋があった。
房江が客の相手を終え、部屋へ戻って何気なく障子を開けると、向こうに哲夫の姿が見えた。
哲夫も外を見ていて、房江の姿が目に入った。
目があった。
房江は胸がいてもたってもいられなかった。
それは哲夫も同じだった。
しかし、房江は恥ずかしくて障子を閉めた。
池から魚が飛び上がる音が静かに響いた。
房江は閉じた障子にそっと手を当てた。




