おつとめ
翌日から、房江の奉公が始まった。
置屋の中は廊下が縦横に走り、幼い房江には、どこがどこへ続いているのかもわからぬほど複雑であった。
磨き上げられた長い廊下はどこまでも続くように見え、それだけで房江は気が遠くなった。
朝はその広く長い床拭きから始まった。
雑巾を持つ手はすぐに冷たくなり、庭の井戸から汲んでくる水は、あかぎれの切れた指にしみて、ひりひりと痛んだ。
真冬の木枯らしも厳しかった。
房江は小さな体を縮めながら、ただ夢中で働いた。
最初は自分がどこを拭いているのかもわからず、年上の女中からたびたび叱られた。
房江は年上の女中が怖くてたまらなかった。
「ほら、あんた、ここも拭き残しがあるでしょ」
「申し訳ありません」
あまりの辛さに、置屋の広い敷地内の庭の木に隠れては、泣き出すことが多かった。
家族と過ごした日々が懐かしかった。
ふるさとが恋しかった。
床拭きの後は皿洗いの仕事が待っていた。
房江の奉公先は由緒ある置屋で、流しには山のような皿があった。
大きな皿から小さな皿まで、一枚一枚洗い上げていくと、
床拭きのときと同じように手が痛くてたまらなかった。
房江には、気が遠くなるように思えた。
置屋から逃げ出してしまいたいとも思った。
おつとめは辛かった。
桜のつぼみが開いた。
つらい日々の中にも、うつろいはあった。
手際もよくなり、心にもゆとりが生まれてきた。
置屋の同じ年ごろの女中とも仲良くなっていった。
ある日、その娘がそっと手ぬぐいを貸してくれたことがあった。
房江はうれしかった。
その子といる時だけは、房江もほっとすることができた。




