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赤い満月の雫  作者: 月原 悠
幼少のころ

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4/5

置屋

馬車から降りると、房江は驚いた。


そこには色鮮やかな建物が並び、見たこともない町が広がっていた。

提灯の灯りが、あちこちでぼんやりとともっていた。

青森の小さな村とは、まるで違っていた。


嘉助とも別れの時が来た。

短い間であったが、房江を可愛がってくれた。

そのぬくもりにふれると、房江の胸にふるさとの気配がふとよみがえった。


馬車から降りると、置屋の女将が出迎えた。

房江は、そこで奉公することになっていた。


「嘉助はん、お疲れさま。あらまあ、今日来た娘は器量がええやないの」

「そうでしょう。女将」

「これやったら、立派な芸者になるやろなあ」

「そうですな。皆、器量のええ子ばかりですよ」

「いつもありがとうねえ、嘉助はん。これ、取っとくれやす」

「ありがとうございます」


嘉助は礼金を受け取って去って行った。

その後ろ姿が見えなくなると、房江はひとりになった気がした。


華やかな町であった。

けれど、目の前にいる女将の姿は、笑っているのに、

目の奥だけが少しも笑っていないように見えた。

狐の面をかぶっているようで、房江にはどこか怖かった。


女将は房江に話しかけた。


「今日から、あんたはここで寝泊まりするんやよ。

部屋も広うてあったかいし、ご飯もたらふく食べられるさかい、安心しなはれ」

「うん」

「うんやあらしまへん。これからは、はい、言わなあかんのや」

「はい」

「そうそう、頭のええ子やこと。さあさあ、中にお入り」

「はい」


女将に連れられて、房江は自分の部屋へと向かった。

一人で住むには十分であった。

中には小さな囲炉裏まであった。

その囲炉裏は青森の実家とは違って立派で、そばにはみかんがおいてあった。


房江はそれを口にした。

甘さが口の中いっぱいに広がった。

馬車の冷たい空気の中から抜け出るようであった。

けれど、その甘さまで、どこか知らない家のもののように思えた。


部屋には小さな窓もあった。

房江はしばらく外の景色を見た。

五つに重なった塔や立派な家が立ち並び、灯りの彩りの美しさに驚いた。

青森の小さな村とはちがった。


明日から奉公が始まることになっていた。

不安もあった。

部屋の中は温かかったものの、家族はいない。

一人で過ごしていかないといけないと思うと、胸の奥がうずいた。


到着した夜は不安であった。

なかなか寝付けなかった。

壁にあった鬼の面が、房江にはひどく恐ろしく見えた。

夜は長かった。


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