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赤い満月の雫  作者: 月原 悠
幼少のころ

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3/4

奉公先へと

奉公に出る日の朝は、雪が激しく降っていた。

まるで房江の辛さが、そのまま空いっぱいにひろがって、

降ってくるようであった。


青森は寒かった。

房江は家の手伝いをして育ったので、手はあかぎれしていた。

その小さな手が、痛々しく見えた。


外には馬車が既に用意されていた。

馬車はさほど大きくはなく、

そこには房江と同じように、京へ奉公する娘たちが、もう数人乗っていた。


房江が馬車に乗り込むと、家族が見送りに立った。


「房江、元気でいるんだぞ」

「お父さん、お母さん……」

「房江……、すまんなあ」

「お父さん、お母さん……」

「気をつけて行くんだぞ……」


家族みんなが泣いていた。

房江も泣いていた。

その涙まで、白く凍りついてしまいそうであった。


房江は、馬車の中で見知らぬ者達としばらく一緒にいるのかと思うと、

ひどく心細かった。


「そろそろ、お嬢ちゃん、出発するよ」

「うん」

「お父さん、お母さん……」

「房江……」


声は、遠い山にこだまするようであった。

房江も家族も、互いが見えなくなるまで、馬車の中と雪の中とで、手を振り続けた。


房江の心細さを見て、嘉助が声をかけた。

その声は、冷えた空気の中で、やわらかく房江の胸にしみた。


「お嬢ちゃん、大丈夫だよ。もう少しすると京に着くよ」

「おじちゃんは誰、京とはどういうところ?」

「ああ、私は嘉助という。京は華やかなところだよ。

賑やかでうまいものもある。お嬢ちゃんも、これからそこへ行くんだ」

「本当? おじちゃん?」

「ああ、本当だよ。だから安心するんだ」

「うん」


房江は小さくうなずいた。

やがて海が見えてきて、雪はその海の上にも降り、白い波が静かに寄せていた。

それを見ていると、房江は少しだけ心がやわらいだ。


海沿いをゆくうちに、京の町が次第に見えてきた。


「お嬢ちゃん、もうすぐだよ。じきに暖かくなるからね」

「うん」


嘉助はやさしかった。

房江には、そのやさしさだけが頼りであった。


やがて、馬車は京に到着した。


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