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赤い満月の雫  作者: 月原 悠
幼少のころ

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2/3

淡雪

時はさらに、房江の幼い頃へとさかのぼる。

春の訪れはまだ初々しく、淡雪の降る青森の小さな町で、

房江は明治の終わりごろに生まれた。


からだはやや小さかったが、産声はたしかだった。

末娘であった。

両親と五人の兄妹に囲まれ、大切に育てられた。

成長するにつれ、器量の良さはしだいに目立つようになった。


兄妹の喧嘩も少なくなかったが、房江は控えめで優しかったため、

争いの中へ深く入ってゆくことはなかった。

それでも、家の中にはどこかぬくもりが残っていた。


やがて、小学校へ通うことになった。

ろくにお弁当も持ってゆけぬ日もあった。

布に包んだ空の弁当箱だけを持たされることもあった。

おとなしい子だった。

それで、いじめられることもあった。


「房江、今日も弁当はないのか?」

「そうよ」

「お前の家は貧乏だからな」

「そんなことはないわ」

「もう、そんなに言わないで」

「おれの弁当の梅干しでもやろうか」

「いらないわ」


房江は黙っていた。

貧しさは深く、一日に一度しか食べられぬ日もあった。


父はからだが不自由で、母は病気がちであった。

やがて、その家に不幸が落ちた。

姉は、ろくに食べることもできぬまま死んだ。

父は途方に暮れ、囲炉裏の火を見つめたまま、

長いこと口を開かなかった。

火だけが、赤く揺れていた。


そんな折、嘉助という男が現れた。

房江の器量を見込んで、京の町へ奉公に出す話を持ちかけた。


房江の父は、家族のことを思い、房江を奉公に出すことにした。

まとまった金も入るのであった。

かわいい娘であった。

手放すのはつらかった。

しかし、それよりほかになかった。


房江は、父の前では何も言わなかった。

雪の降る庭を、ただ見ていた。


雪が降っていた。

その雪までが、どこか暗く見えた。

貧しさは深かった。

その苦しさには果てがなかった。


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