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 梯子を登り切った先に広がっていた光景は、殺風景だった。天井の下、今は床となっているものの下には必要無いだろう観葉植物まであったのに、ここには何も無い。あるとすれば壁に埋め込まれたタイマーだけ。そのタイマーが表示するのは、残りの試験時間。


(残り、6分と少し)


 そして上がってきてすぐには気付かなかったけれど、気になったものが1つ。


「ねぇ、あれがそうなんじゃ無い?」


 男の子に言われて視線を向けた先、新たな天井に1つの箱が紐で括られてぶら下がっている。


「そう、ですね。おそらくは」


 だが問題はあの箱をどう取るかだ。ジャンプしても届く距離では無いし、何も無いこの部屋では踏み台になりそうなものはない。仮にあったとしても、10メートル以上はありそうな天井までは届かない。

 どうしたものかと部屋を見回していると、躊躇いがちに声をかけられる。


「あの、咲雪花さん。わたしとれるかもしれません」


 声をかけてきたのは、茉莉彩さんだ。無事にスーツケースも引き上げることが出来たようでスーツケースを持っている。


「えっと、じゃあ、お願いします」


 どうやって、と聞く事は無粋だと判断した。


「はい!」


 スーツケースを床に置いてそれを開けた彼女は、中からシルバーのハンドガンを取り出す。

 弾を装填した彼女は、十数メートル先の天井に向かって構える。


 パシュッ!


 空気が抜けるような音がした直後、天井から下がっていた紐が切れて箱が地面へと落ちてきた。あっと思った時には、箱は白蓮さんの手の中にあった。


「流石ですね。お見事です」


「えへへ。ありがとうございます」


 1発で、それもかなり細い紐へ命中させた彼女は、ジョーさんに褒められて照れくさそうに、だがなんでもないことのようにはにかんでいる。

 驚きに声も出ない私は、白蓮さんの声に我にかえる。


「貴女の予想通りね。ここに9個の宝石を嵌め込む場所があるわ」


 箱の上部に9つの穴がある。何となく蓋に力を入れてみたけれど、びくともしない。

 さて、ではどこに何を入れたらいいのだろう?

 明らかにここと見てわかるのはテツさんの赤い宝石とジョーさんのエメラルド、史埜さんの雫状のモルガナイト、白蓮さんの青色のかかった緑の宝石だ。

 ひとまず分かっている4つを嵌め込んで考える。

 

(残った穴は5つ。朔弥君のブルームーンストーンと茉莉彩さんのレインボームーンストーンは色が違うだけでその他の違いはわからない。私のピンクダイヤモンドと男の子のオレンジダイヤモンドもそう。花鈴さんのルビーは、それより少し大きいからここ、かな?)


 案の定、ルビーはピタリと隙間なく収まった。あと4つ。

 どういう並びなのだろう。縦横3つずつ並んでいる穴は、下3つと右端が埋まっている。真ん中がダイヤモンド、その上と左にムーンストーン、左上がダイヤモンドだ。


(誕生日順じゃ、無いんだよなぁ。年齢順、でも無さそうなんだよね。それならどんな順番なんだろう)


「もしかしたら、これはここなんじゃ無いか?」


 隣で覗き込んでいた朔弥君が私の手から1つ拾い上げて嵌め込む。ピンクダイヤモンドだ。開けるまでわからないけど、それなら左上はオレンジダイヤモンド。


「あ、じゃあ多分これはここだと思います。これはこっちですね」


 今度は茉莉彩さんが私の手から拾い上げて嵌める。

 蓋をスライドすると、なんの引っかかりもなく動いた。


「これが、鍵」


 あっさり解けてしまった箱の中に入っていたのは、なんで事もないシンプルなシルバーの鍵。箱から取り出したそれは、とても軽かった。

 鍵を手に、私は一点を見つめる。自然と皆んなの視線は、私達がこの部屋に入ってきた時と同じ位置へと向かう。

 初めモニターには天井が落ちてくるとしか表示されていなかった。だから私は()()()()が落ちてくるのだろうと錯覚していた。だがそうではなかった。地下室があると気づいて、落ちてくるのは天井だけではなく、上にある部屋そのものが落ちてくるのではないかと予想した。それは当たっていて、現にさっきまでは無かったものがここにある。

 初めにあった入り口と同じ場所に立ち、鍵を差し込む。

 さっきまで何も無かったそこには、ドアノブがついていた。

 鍵穴に差し込んでゆっくり回す。


 カチャリ。


 軽い音を立てて、呆気なくそれは開いた。これで、外に出れる。


「開いた……皆さん、開きました!外に出られ、ます……」


 嬉しさを隠すことなく振り向いた先に広がる光景に、体が固まった。

 私以外の8人は、既に部屋から出る準備が整っていた。

 そして彼らから放たれる、つい数秒前まで無かった圧に、恐怖で体が震える。

 さっきまで私を心配していた彼らは殺し屋のようでないと思っていた。ぬいぐるみを前に相好が緩んでいた少女も、私の推理に仕切りに感心していた彼女も、そして私が無事だったことに泣きそうなほど喜んでいた幼馴染の姿も。そのどれもが今は何処にも無かった。


「あ……」


 あるのは、全身武装して、殺気を放つ8人の殺し屋の姿だった。


 試験終了まで、残り3分52秒。

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