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もう一つのカギ 1

 テレビの数字は、非情にも数を減らしている。それでも残り1分もあってよかったとぬいぐるみのテーブルまで駆け寄る。1体1体はそこまで大きくないとはいえ、1度に持つには限りがある。4体の人形を抱えて穴に戻る。穴に4体を一度に放り込んで、また戻って4体を抱える。


 『命に等しいものを守る』。それは自分の誕生石を身に着けているぬいぐるみを守る、ということではないか?そして、天井が落ちてきた後の脱出口に鍵がないとも限らない。そして万が一鍵があるとすれば、誕生石となる9つの宝石が鍵そのもの、もしくは鍵を見つけ出すために必要なものではないか?

 どちらにしろ9つの宝石とぬいぐるみは必要になる。もっと、もっと早くに気づいていればよかったと後悔しても遅い。8体を地下室に投げ入れて、最後の1体のもとへと向かう。残り時間50秒を切っている。


(よかった。ギリギリ、間に合いそう)


 安堵の溜息をついて最後の1体、ブルームーンストーンを首からかけたぬいぐるみを手にする。


(朔弥君の、誕生石)


 振り向いて穴に向かおうとしたら、何かに行く手を阻まれた。

 倒れそうになる体を何とか持ちこたえて、振り向いた先には信じたく無い光景が待ち受けていた。


「うそ、嘘でしょう?!」


 スカートの裾が、テーブルについている傷にスカートの裾が引っ掛かっていた。モニターに目をやると残り時間30秒。ぬいぐるみを置いて取ろうとするけど汗がにじんで震える手は言うことを聞いてくれない。

 残り、20秒。


(いっそのこと、ぬいぐるみだけでも穴に‥‥‥!)


 そうは思うけれど、コントロール力が皆無の私に、たとえ数メートルだけでも離れた穴にぬいぐるみを投げ入れる自信はない。


(あと15秒しかない)


 躊躇っていても時間は待ってくれない。

 テーブルは地味に重く、10秒だけでは穴までたどり着けない。仮にたどり着いてもテーブルをくっつけたまま穴には入ることはできない。


(迷っている暇はない。やるしかないんだ‥‥‥!)


 残り、10秒。

 ぬいぐるみを投げ入れることができたとしても、わたしは床と落ちてきた天井に挟まれて死ぬことは間違いない。それでも私を認めてくれた8人の命だけでも救いたい。

 そう思って息を吐きだして、ぬいぐるみを投げ入れる準備をしようとした私の視界に、きらりと光る何かが映った。


「ごめん。弁償ならきちんとするから」


「さ、くや君?」


 声で誰だかわかったけど顔までは確認できなかった。視界に映り込んだのはクマのぬいぐるみからかかる、宝石だった。彼に渡されたぬいぐるみを呆然と受け取る。

 手早く彼が何かを取り出して、私のスカートの裾を切ったことを確認してからモニターへと視線を向ける。

 視界に映ったモニターの数字は、2秒。

 震える私の脚では、穴まで辿り着けないかもしれない。


(無理だ……)


 そう思ったのと、私の身体が床を離れたのは同時だった。


 試験終了まで残り10分2秒。天井が落ちるまで、残り2秒。

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