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8人の殺し屋と一般人

「あの、その…えぇっと…」


 拝啓 天国にいるお父さんお母さん。私は今、絶体絶命の大ピンチです。就職試験に来た今日が最期の思い出となるやもしれまれん。


 試験時間は残り40分ほど。あと40分でここから出なければ死ぬかもしれない時に、私は試験が終わる前に死ぬ運命にあるのではないかと思っている。


 部屋の中にいる人間は私を含めた9人。そして私以外は現役の殺し屋。彼らにはそれぞれ得意分野、得意な道具があるらしい。そしてそれぞれが顔見知りでもあるようだ。

 そんな中で私のことを知っている人は誰もいない。いや、正確には知っている人が1名いるけれど、その彼も今の私のことは知らないはずだ。

 私はつい先月まで普通のOLをしていた。父を小学生の頃、母を1年前に亡くしてから、妹と二人暮らしをしていた。狭いアパートでのささやかな生活でも、妹と2人仲良く幸せに暮らしてきた。そんな私たちを襲ったのが、高校卒業してすぐに入社した、私の勤める会社の倒産。社会人となって5年目で職を失ってしまった私は、まだ高校生の妹を養うために仕事を探していた。そんな時に見つけたのがある求人サイトに登載されていたもの。


『月給200万。事務職募集中。初心者大歓迎!』


 月に200万は怪しいと思いつつも、お金が必要だった私は迷うことなくサイト経由で応募した。そして届いた封筒の中身に従って来たのがここだ。

 つまり、私は殺し屋でも何でもない一般人だ。殺しなど生まれてこの方した事がない。

 そんな私が今殺し屋8人に囲まれて問われている。


【得意な道具は何か?】


 もちろん殺しに。そんなものあるはずがない。だが正直に言えば殺されかねない。


「あの、ぅ‥‥‥その‥‥‥」


 何て答えるのが正解か分からない。ううん、正解なんて無いのかもしれない。


「わたし、は‥‥‥」


「彼女はね、俺の古い知り合いだ。こう見えて頭が回るから、サポート役としてどうかと思って誘ったんだ」


 助け舟を出してくれたのは、美青年。顔見知りの彼だ。


「頭が回るだと?それは殺しに必要な事か?」


「まったく、貴方みたいな馬鹿が殺し屋をやっていけていることが不思議でならないわ」


「まあまあ。えっと、つまりきみは事務要員として応募してきたわけね」


 体格のいい男性の口にした疑問にすかさず嚙みついた銀髪の女性をなだめた史埜さんが、私に近づいて視線を合わせる。彼女の武器は縄ということしかわからないけれど、それだけしかわからないからこそ恐ろしく感じるものがある。後ずさってしまいそうになる足を、どうにかその場に留めて顔をあげる。


「はいっ!私が役に立つかわかりませんが、頑張ります!」


「いや、役に立たない人間なんかいらないから」


 自分を奮い立たせて宣言したのに、すぐさまそれはミニスカートの少年によって切り捨てられた。

 砕け散りそうになる心を何とか寄せ集めて、OL時代に作り慣れた笑顔を顔に貼り付ける。


「まぁ、役に立つか立たないかは今にわかるでしょう」


「ん?あっそういうこと。確かに、今はあたしたちが役立たずだもんね!」


 どうやら赤髪の女性は思ったことを考える前にそのまま口にしてしまうらしい。部屋の中の空気が一気に10度近く冷えたように感じる。当の本人は「あれ、みんなどーしたの?」なんて首をかしげているが。


「ま、そういうことね。ってわけで、あとは任せたわ」


 そういったきり銀髪の女性は床に座り込んでしまった。その隣に何も言わずにミニスカートの少年が腰掛ける。ミニスカートで胡坐をかいて頬杖を突いているのに、なんだか様になっている。


「うむ!よろしく頼んだぞ!」


「そうですね。何かわかれば教えてください」


「ワタシも頭使うのは得意じゃないから任せる」


 気づけば9人中5人が床に座り込んでいる。誰も部屋にある1つだけの椅子に座ってはいないけれど。

 さて、任された私はというと、非常に困り果てていた。確かに私は殺しなどできない。けれど言われるほど頭が回るわけでもない。つまり私にこの部屋の9人の命を任されても、助かる保証はない。ただもっと問題なのは今そのことを正直に言えないことだ。もし正直に言ってしまったら試験が終わる前に目の前の彼らに殺される。

 今死ぬか、生きる希望をもって数十分後に死ぬか。

 迷った私は、後者を選んだ。


「精一杯、頑張らせていただきます」


 天井が落ちるまで、残り37分42秒。

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