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殺し屋の試験 2

 テツさんが扉を引いて、真っ先に飛び込んでいたのは15センチくらいのナイフ3本。

 初めは何が起きたのか理解できなかったけれど、史埜さんが手にしている縄ひとつで3つのナイフを受けていて、それが飛び込んできたと理解できた。 

 でも私に理解できたのはそこまでだった。


「うおおぉぉぉおお!!」


 勢いよく扉を開けると、テツさんが飛び出していく。

 軽い身のこなしでそれに続いたミニスカートの男の子と、その後を追うようにジョーさんと花鈴さんが駆け出していく。

 それを援護するように、部屋の入り口で茉莉彩さんが銃を構えて引き金を引いている。


 キンッ!ガン!ドゴッ!


 部屋の外から聞こえる音は、10秒くらいで止む。

 音が止まった瞬間、今度は史埜さんと白蓮さんが駆け出していく。

 1拍置いて茉莉彩さんが、その後に朔弥くんと、彼に手を引かれる私が続く。

 部屋を出る直前に、残りの時間を確認すると2分17秒だった。


 部屋を出た瞬間、広がっていた光景に息を呑む。数メートル先の階段まで、20人以上はいるであろう黒スーツを身に纏った人が転がっている。涎を垂らして眠っている者もいれば、脚や腕から血を流す者。殴られて気絶している者もいる。

 そして床に転がる彼らを運んでいく白い服を纏った人々。彼らは私達の行手を阻むことはないけれど、手際よく倒れている人達を回収している。


「ここからは貴方達が先に行きなさい」


 階段まで朔弥君と私が辿り着いて、私の後ろに白蓮さんと史埜さん、茉莉彩さんがまわる。

 階段にも数え切れないほどの人が転がっている。白い服の人達は階段の方までやってきて片っ端から回収していく。


 ダンッ!ガキィン!ドガッ!


 さっきまでは前からしか聞こえていなかった音が、今度は後ろから聞こえる。

 部屋から出て10秒経ったかどうかなのに、運動不足の私は既に息が上がっている。階段に転がっている人間を避けて走らなければならないから余計に疲れる。

 階段の折り返し地点に来て、1階の光景が目に入る。

 そこには黒いスーツの人間が50人以上、先に行った彼らを囲んでいた。

 だが圧倒的な人数の差にも彼らは怯むことはない。片っ端から眠らせ、気絶させ、脚や腕を動かない程度に切っている。次から次へと人は倒れてどこかへ運ばれていくのに、4人は倒れるどころか、遠目に見ても傷ひとつついていないことがわかる。

 その時、1階から10人くらいの黒スーツの人間が駆け上がって来た。既に階段の半ばまで降りていた私達は、それでも止まらない。私に止まりたい気持ちがあっても、私の手を引く朔弥君が止まることは許さない。

 彼は左手で私の手を掴みつつ、右手にナイフを握って次々に襲ってくる人に致命傷にはならない、それでも深めの傷を付けていく。

 次々と倒れる黒スーツの人と、その人達を回収に来る白い服の人を横目に、私達は1階にたどり着く。1階の戦闘は既に大方終わっていた。その時だった。


「「朔弥!」」「朔弥さん!」


「え」


 白蓮さんと史埜さんと茉莉彩さんが叫んだのと、それを私が認識する前に彼が私を強く引っ張ったのはほぼ同時だった。

 気付けば目の前には朔弥君の胸があった。


「大丈夫、全てお見通しだ」


 頭の上から彼の声が聞こえてきたことで、漸く彼に抱き寄せられた事に気づく。床には白い服の男性が横たわっていた。

 だがそれにたじろいている余裕はなかった。

 ラストスパートというように、先に1階へと来ていた4人と合流して、彼らが黒スーツの人と、数人の白い服の人を倒していくのを横目に、外へと繋がる入り口を目指す。

 普通に走れば5秒で行けるところを、迫り来る人々を倒し、床に転がる人間を避け、転がる黒スーツの人を回収に来る白い服の人を避けて、そこに混じって私たちに襲いかかる人を見分けて倒す事をしているから、酷く長い時間のように感じる。

 ジョーさんが押しボタン式の自動ドアを開けて、まずはテツさんとミニスカートの男の子、その次に朔弥君と私、花鈴さん、茉莉彩さん、白蓮さん、史埜さん、ジョーさんの順で外へと駆け出す。

 出てしまうと、建物の中で起きていたことが夢だったかのように、日常の音で溢れている。それでも夢ではない。私の心臓は激しく脈を打って、息は上がり背中は1月というのにぐっしょり汗で濡れている。

 数秒前の喧騒が嘘だったかのように、私達を静寂が包み込んでいる。それでも私を囲む8人は警戒を解かない。


(あ、さっきの箱の蓋)


 緊迫の空気に包まれた中で、唐突に浮かんだのはさっきの宝石の並び。真ん中のピンクダイヤモンドを囲むように、8つの宝石が円を作っているそれと同じ並び。


 パチ、パチ、パチ、パチ。


 不意に耳に両掌を打ちつける音が届く。

 音のした先へと目を向けると、紺色のスーツに銀縁の眼鏡をかけ、髪を七三になでつけた男性がゆったりした足取りで、さっきまで私達がいた建物から向かってくる。


「流石。フリーとは言えボスが見込んだ方々だ。うちが誇る精鋭200人以上を1分程で突破してしまうとは」


「おっさん誰?」


 まだ警戒心を解いていないことが伺えるのは、いつ相手が仕掛けてきてもすぐに反応できるように構えているだけではない。優しい花鈴さんの声しか知らない私にとって、酷く冷たい声色は彼女のものと認識するのに時間を要した。


「おやおや。技術は素晴らしいですが態度がなってませんね。ま、あなた方はそれでいいのですが」


 演技のように目を大きくさせた男性は、すぐに薄い笑みを浮かべて、私と目が合った。

 思わず肩を震わせた私は、朔弥君の背中に庇われる。


「おお、怖い怖い」


 本当に思っているのか分からない、おどけたような口調で眼鏡の男性は両手を頭の横に上げる。顔に薄い笑みを浮かべたまま、私達全員を見遣って彼は口を開く。


「私は秦野(はたの)と申し上げます。今回の試験の試験官で、霞幽(かゆう)商事代表取締役です。時間は、あと20秒程ありますがもう良いでしょう。私達は皆さんを歓迎します」

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