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第7話 変わりゆく日常

悠太が自分たちのいじめを受けた腹いせに、同級生の将来有望な捕手を根暗だから従わせたいと言う理由で門限を破らせてまで外へ連れ出した。そんな悠太の発言に顔つきが険しくなった葵。


「アンタは男。美咲は女。人気のない夜にそういう行動をしたという事実。犯行未遂と言ってもいいわ。」


続けて悠太を追い詰める葵


「男に二言はない、と、そう言ったわねアンタ。だったら話は早い。このことを監督に報告して自首しなさい。そしてこの部から!学校から出て行きなさい!」


ヒートアップする葵。すると、その様子を聞いていたキャプテンの凛が現れる。


「…問題の原因、事の発端は門限破りか?」


「キャプテン!?」


「悠太が美咲を夜に外に連れ込んで何をしたか、それは当事者にしか分かるまい。それよりも、それ以前の…門限破りの点について私は気になることがある。……葵、門限破りをした部員が発覚した際に取る行動、本来のものと違くないか?」


ギクッとする葵。さらに続ける凛。


「本来は…門限破りを発覚次第、門限破りをした者がその場にいなければ速やかに私と監督に報告するべきではないのか?これは門限破りをした者の安全を確保するための措置でもある。なのにそれをしなかった理由は?」


「……」


答えられない葵。その様子を見て凛がさらに続ける。


「…答えられないということは…私は確信したよ葵。お前自身も昨日門限破りをしたのだな!」


核心を突かれて冷や汗を流す葵ら3人。実は昨晩、夜に葵ら3人が野球道具を持ってグラウンドへ向かう様子を見ていたのは凛だった。凛は3人が出ていったのを確認すると、玄関の下駄箱へ向かい悠太もいないことを確認。それで昨晩、何が起きたかを察していた。


「……って、これじゃあ私もルール違反だな。お前たちの門限破りを目撃したにも関わらず野放しにした。」


続けて葵たちに詰める凛


「お前たち3人の悠太に対する行動は火を見るより明らかだ。ただお前たちの感情も蔑ろに出来ない以上、キャプテンとして私は静観する姿勢を取っていた。これが正解かどうかも私には分からんがな。ただ一つだけ、自分たちの行動を棚に上げてまで相手を責めるのは絶対に違うと私は思う。」


追い詰められて震える3人にさらに追い討ちをかける凛


「今回の件、お前たちが監督に告げようと言うのなら私からもお前たちの話をするが…」


慌てて返事をする葵

 

「わ、わ、分かりましたキャプテン!もう美咲も男子も責めません!門限を破ってしまい申し訳ございませんでした!」


深々と凛に頭を下げる葵


真琴・由佳

「申し訳ございませんでした!」


葵に次ぐ形で謝罪する真琴と由佳


「門限を破って…か、まぁいい。私もルールを破ってる。直に他の部員も集まるだろう。お前たち3人は朝食会場のダイニングに行ってろ。」


「は、はい!」


そう言って、逃げるようにダイニングへ向かった葵たち3人。居間に残されたのは悠太と美咲。


「さて、お前たち、特に美咲は…」


心配するように美咲に尋ねる凛、すると美咲は食い気味に答える。


美咲

「あー!キャプテン!私は大丈夫です!悠太くんとも特に問題なくて!何かされてるとかでもないので!門限破りも自主的ですし…以後気をつけます…。」


「……美咲自身がそう言うなら別に良いのだが、なんかあったらすぐに言えよ。私に対してが難しかったら監督に対してでも良い。」


美咲

「はい!了解しました!ありがとうございます!」


「…で、次は悠太、お前だが…」


悠太

「…美咲がそれで良いって言うなら、俺から言うことは特にねぇよ。」


「では葵らとの件はどうだ?」


悠太

「火を見るより明らかなんだろ?それが全てだ。」


それを聞いて少し考える凛。そして悠太に問いかける。


「なぁ、お前は…」


気づくと悠太は勝手にダイニングに向かおうとしていた。


「悠太!」


悠太

「…さっき正解が分からないって言ったよな。それ、俺も馬鹿だから分かってねぇから。だからそのままで問題ないと思うぞ。」


そう言い残して悠太はダイニングへ向かった。


「…」


その日の練習は、ばつが悪いのか、葵たちは悠太にあまり嫌がらせをしてこなかった。そして門限を過ぎた夜。悠太は1人こっそりと寮を抜け出してブルペンに向かった。


悠太

(門限の件がどうこう言われようが、こればっかりは日課だからやめられねぇな!元々大阪桜苑に行くためには今の練習量じゃ少なすぎる!もっと投げねぇと!…それに…昨日という例外を除けば…俺が門限を破ってることは()()()()()で絶対にバレねぇよ!ハハハ!)


上機嫌でブルペンに来た悠太。ネットに向かって投げ込む。美咲のミットに投げ込んでた昨日と違って若干の物足りなさを感じるものの、昨日が特別だったのだと自分に言い聞かせて黙々と投げ続ける。


すると突然、ブルペンに何者かが近づく物音が聞こえた。


悠太

(!?まずい!今朝門限の件で色々あったあとに問題になるのは!隠れなきゃ!)


咄嗟に隠れる悠太。昨日、美咲がブルペンのロッカーから防具を取り出していたことを思い出しロッカーの影に隠れようとするも、間違ってぶつかってしまい美咲の防具が散乱する。


悠太

「うわああ!ヤベェ!」


慌てて片付けようとする悠太。すると背後から…


美咲

「ねぇ。私の防具に何してんの?」


じっと悠太を凝視する美咲。ブルペンに近づいてきてたのは美咲だった。


悠太

「なんだ、美咲か。悪い、隠れようと思ったら落としちまって、今片付ける。」


すると自分の防具を手に取る美咲


美咲

「大丈夫。そのまんま使うから。」


ハッと思い出した悠太


悠太

「いや!美咲!ていうか何しに来たんだよ!門限は!俺はバレないけどお前はまずいだろ!」


美咲

「何って。昨日と同じよ。アンタの球を捕りに来たの。…あと、門限破りもバレない。アンタと同じトリック使ったから。」


悠太

「!」


美咲

「ずっと疑問に思ってたのよね。アンタは昨日だけに限らず毎晩門限破ってここに来てたのに、何で私の門限破りがバレたんだろって。そりゃ、副キャプテンも昨日たまたま門限破ってたってのはあるけど、キャプテンもチェックしてたって。下駄箱。」


防具を着けながら話し続ける美咲


美咲

「あれで判断しているなら…さっきアンタの下駄箱を確認したらゴミ袋に入れられてもまだ今日の練習で使ったほどアンタが大事にしていたスパイク、別のスパイクに入れ替わってたから。私も置いておいた。予備のスパイク。」


美咲の観察力の高さに思わず苦笑いをする悠太


悠太

「ハハッ!観察力すげぇな。」


美咲

「捕手の癖ってやつ?普段からよく見てんのよ。特に投手は。」


悠太

「へーそりゃ立派な捕手だ。」


防具を着け終わった美咲がブルペン内の定位置にしゃがみこむ。

 

美咲

「ほら。何モタモタしてんの?立派な捕手が待ってるわよ。」


悠太

「言うねぇ」


ニヤリと笑いながら昨日同様に投げ始める悠太。今日は変化球も交えながら投げる。


美咲

(あの直球の球威に加えて、この変化球!これだけ武器があると、アウトのバリエーションが豊富だから、ちょっと腕に自信がある打者も翻弄できる!)


悠太

(こいつ…!俺の変化球も初見で捕れんのか!捕れずに逸らすキャッチャーばかりでランナーがいるとロクに使えないこともあったが、こいつが捕手なら使えるのか?)


いよいよお互いが、もしもバッテリーを組めたらと実践的な妄想までし始める2人。その後も、この夜のブルペン練習は毎晩続いた。


葵たちは凛に注意をされたことで、自らが門限を破ってまで悠太をいじめることはなくなった。しかし悠太に対して写真をダシにプレッシャーをかけ続けるのは相変わらずであり、ここまで仲良くなった美咲とも、この夜のブルペンでしかほとんど会話が出来なかった。


そのためか、美咲はとある日の夜のブルペンでバットを持ってきて悠太に打撃の相談をした。

打者としても抜群のセンスを誇る悠太、おまけに指導力もあり、悠太のアドバイスによって日中の練習中における美咲のパフォーマンスは劇的に改善した。その様子を見ていた彩花が美咲に話しかける。


彩花

「ミサ!むっちゃ打撃良くなっとるやん!変化球対応完璧や!」


美咲

「そ、そう?」


彩花

「誰かから聞いたんか?それとも独学?ええなぁ。ウチ全然変化球打てんねん。せや!ミサ教えてくれへん?」


美咲

「分かった。」


こうして悠太からの受け売りで打撃アドバイスをそのまま彩花に伝えようとする美咲。しかしそもそもの打撃フォームの違いからか、思うように伝えられない美咲。


彩花

「なかなか難しいなぁ。やっぱミサは天才肌なんやろか。」


考え込む美咲、そして彩花にある提案をする。


美咲

「今日の夜さ…ちょっといい?」


彩花

「夜?」


その日の夜、悠太はいつも通りのトリックを使ってバレないようにブルペンへ向かう。門限破りがバレないようにと、美咲とは共に向かわず、時間をずらして動くようにしている。

また、悠太がブルペンに先に着くと、美咲の到着を待つ前に投げてしまう可能性があるため、自分が先に行くから後から来るようにと美咲に言いつけられている。


悠太

(球数を管理するのも捕手の仕事って…おせっかいだなぁ…)

 

そう思いながら悠太がブルペンに近づくと中から2人の話し声が聞こえる。片方は美咲だがもう片方はよく分からない。まさか美咲がブルペンにいることで門限破りがバレたのかと、咄嗟に身を隠しながら話し声に聞き耳を立てる悠太。


彩花

「いやぁ、こんな方法で毎晩門限を破ってたとは!お主も悪よのう美咲はん!」


ニヤニヤと笑いながら美咲をからかう彩花。


美咲

「いや!これは悠太が考えた案だから!私は真似しただけ!」


彩花

「しかし驚いたなぁ。会話禁止や言われてても2人はこうしてバレずに会話しとった訳や。夜に男女2人きりで水入らずの仲、ウチがお邪魔しちゃってホンマに良かったん?」


美咲

「そんなんじゃないってば!ただ練習してただけ!」


楽しく話し合う美咲と彩花の前に不思議そうに悠太が現れる。


悠太

「お前は…同級生の部員ってことか?美咲が呼んだのか?」


彩花

「何や!名前覚えてへんのか!こっちはアンタが目立ってる有名人やから覚えてるで!高橋悠太君!ウチは高木彩花!同じクラスなんやから名前ぐらい覚えとき!まぁ話したことはあらへんけどな!」


少し戸惑いつつも答える悠太。


悠太

「あぁ…よろしく彩花。確か…内野手だよな?ブルペンに何しに来たんだ?」


するとニッと歯を見せて笑いながら答える彩花


彩花

「バッティング!教えてくれや!天才選手はん!」


悠太

「!?」


このブルペンで偶発的に生じた悠太と美咲のバッテリー。それは孤独だった悠太の大阪桃園での日常を大きく変えるきっかけとなっていった。


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