第4話 最強選手の詰ませ方
第4話 最強選手の詰ませ方
道具をセッティングしている悠太に、由佳が近づいて話しかけてきた。
由佳
「そのユニフォーム、男子が着るん初めて見たわーエラい似合ってるなぁ!」
悠太
「どこがだよ。明らかに女性用って感じでダセェだろ!」
由佳
「そんなことあらへんよ!ほら!もっとこうした方がええんちゃう?」
そう言って悠太のユニフォームのシャツの裾を全部ズボンから出す由佳
悠太
「うわぁ!何すんだ!どこにシャツ出してユニフォーム着る奴がいるんだよ!」
由佳
「あははは!似合っとるでー!」
ユニフォームのシャツをズボンにしまいながら由佳を睨みつける悠太
悠太
「…皮肉たっぷりなその喋り方…お前、京都の人間か?」
由佳
「おおお!よく分かったなぁ!さっすが入学する学校間違えた天才はんやわぁ!」
悠太
「うるせぇよ!からかってんのか!」
悠太の肩をポンと叩く由佳
由佳
「まぁまぁ。2ヶ月の縁なんやし。楽しく過ごそうやー悠太くん♡」
悠太の頰を突っつき逃げるように去る由佳。
練習が始まる。葵の指示と時間管理で投球練習、打撃練習が始まるが、どちらも悠太の時間は昨日より短くなっていた。その代わりに真琴の投球練習や、由佳の打撃練習の時間が長くなっている。一つ一つの練習の片付けや準備等の雑務をかなり押し付けられる悠太
葵
「男子なんだから当然でしょ!有り余る体力は存分に使ってもらうわ!」
悠太
「フン!気にいらねぇんだか何だか知らねぇがこのぐらい大したことねぇよ!」
練習が終わり、寮に戻っても冷遇は続く。洗濯の順番は1番最後、夕食も葵、由佳、真琴が席を占領しているため時間をずらして1人での食事、最後に食事をしたため食器洗いを葵に命じられ、ついでに女子と共用は不潔だからと風呂掃除とトイレ掃除も追加で命じられた。
トイレ掃除をしている悠太。独り言を呟く
悠太
「チッ!休む時間がねぇな!これも男女の体力差の言い訳か?フン!女子ってのはどこまでも貧弱だな!」
その独り言を聞いていた葵。便器を洗う悠太を背後から蹴る。
悠太
「イテッ!」
葵
「グチグチ言うな!とっとと洗え!共用なんだから終わったら使う子がいるでしょ!」
悠太
「うるせぇなぁ…そんなにか弱き女の子のために善意でやってやってんだから感謝ぐらいしろよ。」
葵
「感謝ぁ!?これは共同生活のルールよ!あんたがここにいる以上は守ってもらうから!」
そう言って立ち去る葵。
翌日の練習。1年生は外周として長距離走を行うことに。既に三角コーンでルートが用意されているが、葵が先導して走り、悠太に最後尾を走るように指示。その際に三角コーンを全て回収するように命じた。
悠太
「抱えて走れってか!?」
葵
「そうよ。ハンデだから。そうでもしないと女子はみんな抜かされちゃうわ。ならそのぐらい出来るでしょ?男子クン。」
悠太
「フン!確かに鈍足女連中に合わせる気なんかないからな!このぐらいやってやらぁ!」
こうして長距離走を終え、葵と1年生たちが悠太を除きゴールのグラウンドに到着する。
彩花
「ふぃー!疲れた!」
葵
「奴は案の定ついてこれてないわね!さぁて、ハンデを負った奴はどんなトンデモタイムを叩き出すのか…」
結衣
「来ました!」
葵
「え?」
すると持ちづらそうに大量の三角コーンを抱えた悠太がグラウンドに到着した。
悠太
「あーずーっと変な姿勢で走ってたわ。後遺症残んないか心配だな。」
葵に近づく悠太
悠太
「三角コーン、10個。ちゃーんと全部運んだぜ。ちょうど良いハンデをありがとよ!」
葵
(これを抱えて長距離走って、この早さ…!?)
しばらくして。ブルペンで投球練習が始まる。相変わらず自分の順番が来ず、手持ち無沙汰になる。真琴が投げている。すると突然真琴が悠太に声をかける。
真琴
「暇そうやな男子。ならちょいと打席立ってみいへんか?」
悠太
「ほう…随分棒球を放っているが、打ち返して良いのか?」
真琴
「生意気な!打てるもんなら打ってみな!」
こうして悠太が打席に立つ
真琴
「いくでぇ」
ニヤリと笑いながら投げる真琴。すると、悠太に擦りそうなほどインコーススレスレの球を放る。
悠太
「危ね!」
その後も、あわやデッドボールになりそうなボールを放る真琴。何とか避ける悠太。勿論これは真琴がわざとやっている。
真琴
「ハハハ!やっぱ打者がおるとちゃうなぁ!お前も頑張って避けとるなぁ!」
悠太
「はぁ…はぁ…このノーコンクソ女が!」
真琴
「…!ノーコンやと!」
すると、さらに危険な球を投げる真琴。笑いながら投げ続ける。
真琴
「すまんなぁ!ノーコンで!」
必死で避ける悠太
悠太
「ぐっ!こいつ!」
練習終了後、寮内、葵の部屋にて。真琴、由佳が集まっていた。
葵
「…どうよ?効果は?」
由佳
「うーん…」
真琴
「なんて言うか…アイツ特有のキャラクター、クソ生意気な態度、超人並みのフィジカルで、抵抗はしつつもあまり手応えはない感じやな…。」
葵
「やっぱりそうよね!三角コーン10個持って普通に追いつかれるとは思わなかったわ…」
由佳
「ほなもっと刺激的な方法にせなな。うちが人肌脱いだる。こうやって…」
すると上の服を脱ぎ始める由佳。その様子を見て笑って突っ込む真琴と葵
真琴
「ハハハ!おい由佳!何してんねん!」
葵
「由佳のアスリート離れした抜群のプロポーションの色仕掛けは私ら女子には意味ないわよ!……ん?色仕掛け?」
真琴
「!」
葵と真琴を指差す由佳
由佳
「せや!アイツは男!うちのハニートラップで魅力して退学に追い込んだる!」
真琴
「なるほどな。」
葵
「でもちょっとリスキーね…アイツもそれは十分警戒してるはず…もし弁明の末、私たちが仕組んだと監督やキャプテンにバレたら…」
由佳
「えーエエ案やと思たんやけどなぁ」
真琴
「うーん。」
葵
「そうだ!じゃあアイツを黙らせれば良いんだ!」
真琴
「公にせんってこと?それじゃ退学せぇへんのちゃう?」
葵
「心理的に追い詰めるのよ!アイツを!作戦は……」
こうして葵は真琴と由佳に作戦を話した。
翌日。練習の時間が始まる。葵の指示で集合する1年生。
葵
「はい集合!ん?」
悩んでる様子の悠太がいる。
悠太
「おっかしぃなぁ。どこ行ったんだか。」
葵
「おい!お前!何でベルトしてないんだよ!露出魔にでもなる気か!変態クソ野郎!」
悠太
「誰がなるか!失くしたんだよ!なぁ!誰か知らねぇか?」
1年生たち
「…」
葵の言いつけを守って返事をしない1年生たち。しかし中には首を横に振る者もいて、本当に1年生たちは何も知らない様子だった。
葵
「はぁ…世話がやける…おーい!みんなー!先輩方!こいつのベルト知りませんかー?」
遠くにいる2年生と3年生に伝える葵。ウォーミングアップ中の凛が振り返る。
凛
「む。見てはいないな。」
真琴
「あ!もしかしたら由佳がさっきそれっぽいの拾って寮に持って行ってたかも!」
葵
「…だってよ。」
悠太
「おう!サンキュー!」
こうして寮に向かった悠太。悠太が見えなくなったのを葵は横目で確認すると…
葵
「で、このメニューを消化し終わったら次は…あ!」
急に何かを思い出す葵
葵
「私も忘れ物してた!もう!アイツにあんなこと言った手前、面目ないわね。ごめんみんな。私も取りに行かなきゃ!」
ざわざわする1年生たち
葵
「だから…ここから先の指示は…理佐ー!」
上道理佐(2年2組 ポジション:キャッチャー 出身地:兵庫)
「んー?どしたん葵?」
するとポケットに入れてたとある紙を理佐に渡す葵
葵
「1年の練習、見といてもらって良い?これ、練習メニュー」
理佐
「りょうかーい」
こうして葵も寮へと向かった。
一方、グラウンドの別の場所では、他の2年生と3年生は各自でウォーミングアップをしている。そこから悠太が寮に向かうためにグラウンドを出る様子を確認した真琴。悠太の姿が見えなくなると…
真琴
「イテテテ。ちょっとお腹の調子が…すみませんキャプテン、トイレ行ってきてもいいですか?」
凛
「構わん。」
真琴
「失礼します!」
こう言って真琴もグラウンドを出て行った。
寮に到着した悠太。練習中のため、中は薄暗くがらんとしている。
悠太
(ここに俺のベルトを拾った由佳……あの京都女がいるんだな……玄関にはいないのか…入れ違ったか?いや、グラウンドから寮までの道は一本道だから、だとしたらすれ違ってるはず。絶対この寮の中にはいるな。)
悠太
「おーーい!京都女!俺のベルト持ってんだろ?受け取りに来たぞー!」
悠太が由佳を叫んで呼ぶ。しかし返事はない。
悠太
(…奴の部屋にでも行くか?)
こうして寮のマップから由佳の部屋を探してそこに向かう悠太。
悠太
(…よくよく考えると奴がグラウンドまでの道中で俺のベルトを拾ったってどういうことだ?俺はいつも寮でベルトをつけてからグラウンドに向かうのに…。今日は寮の時点でベルトがなかったから仕方なくベルトをつけずにグラウンドに行ったが…)
なぜベルトを紛失したのか。悠太は疑問に思いつつも由佳の部屋に到着する。扉を開けると誰もいない。
悠太
「うーん…じゃあどこにいるんだ?うわっ!」
由佳の部屋を覗き込んでいた悠太が突然何者かに背中を押されて意図せず由佳の部屋の中へ、そしてガチャと鍵の締まった音がした。不思議に思い顔を見上げる悠太、すると目の前には悠太のベルトを持った由佳が立っていた。
悠太
「何すんだ!…ってお前か!あ!ベルト!サンキューな!」
咄嗟に手を伸ばして自分のベルトを受け取ろうとする悠太。しかし由佳は悠太のベルトを雑に自分の後ろに投げ捨てた。
悠太
「!?」
由佳
「…男女2人きりの薄暗い部屋の密室…もっと…楽しいことしよや…」
そう言って上の服を脱ぎ出す由佳。
悠太
「うわうわうわ!何やってんだお前!」
咄嗟に悠太は見るまいと手で目を覆い隠そうとするが、その手を勢いよく由佳が掴む。そして勢いそのまま、由佳が悠太を自分のベッドに押し倒した。
由佳
「これから起こること…しーっかり目に焼き付けとくんやで♡」
上半身裸の由佳に押し倒されて身動きが取れない悠太。これから何が起こるのか…自分の選択は本当に正しかったのか…これから思い知らされることとなる悠太。輝かしい夢への道のりに不穏な空気が漂い始めた瞬間だった。