第12話 こうなったからにはチームは…
悠太が負傷した左腕の診断結果は全治1ヶ月。選手生命が絶たれるほどの重症ではなく、1ヶ月経ってしまえば元の出力で投げられるほどの継承で済んだ。しかししばらくの間は絶対安静。ノースローを命じられた。
悠太
「…となると…先に編入の期限が来るな…比較的軽症だったのは何よりだが…桜苑へのアピールが不安だ…。」
花蓮
「…ごめんなさい。こうなってしまったこと、監督として責任を感じてるわ。」
悠太
「なぜ謝る?俺がよそ見したから自業自得…」
花蓮
「それ本当?」
悠太
「…。」
悠太が誤魔化そうとするも花蓮は疑う。観念して正直に起きたことを話した悠太。
花蓮
「…なるほど…やっぱり葵ちゃんね。」
悠太
「でもそれだって!俺が悪態ついたりしたからアイツを怒らせたんだ!結果自業自得だろ!」
花蓮
「…彼女が何であんなに君のこと嫌うか知ってる?」
悠太
「え。」
花蓮
「…彼女、子供の頃父親が逃げたのよ。母親に散々迷惑かけてね。それ以来、かなり男性不信になって、だから共学でも男に負けんばかりのかなり気の強い女子が集まるここにやってきたってワケ。」
悠太
「…そうだったのか。」
花蓮
「とはいえチームを編成したのは私…そんな彼女と君を同じチームにして…他のチームメイトを介して少しでも打ちとければと思ったんだけど…その前にこういうことが起きてしまった…。」
悠太
「…あんたらしくねぇなぁ。じゃあせめてあの副キャプテンへの罰はなしにしてやってくれよ。これでチームに亀裂なんて生じたら目も当てられん。」
花蓮
「…分かった。被害者の意見ってことで尊重しておく。にしても君、随分チームのことを考えてるんだね。前とは大違いだ。」
悠太
「んな!」
少し照れる悠太
悠太
「た、たまたま縁が出来たってだけだ!どうせ編入することには変わらな…。」
そして思い出したかのように編入の話をする悠太。
悠太
「ってそうだよ!編入!問題はここだ!最近こそ日中も練習できるようになったが、入部当初はそれがまともに出来なかった!日中の練習でカメラ回してたろ?でもこのままじゃアピール不足になっちまう!」
花蓮
「あーそのことか。うーん、でもアピールについては大丈夫なんじゃないかな?」
悠太
「?」
花蓮
「私、ついこの間、中間評価として桜苑の北谷監督に君の情報諸々送ったのよね。もちろんその映像も含めて。」
悠太
「!…北谷監督!テレビでもよく聞く名門桜苑の名将!」
花蓮
「すっごい評価してたよ。最初からウチに来れば良かったのにって。」
悠太
「おおおお!そうなのか!くぅー!俺の凡ミスさえなければ!悔やまれるぜ!」
名門の志望校桜苑が評価していることを知り興奮する悠太を横目に微笑む花蓮
花蓮
(ま、本当は毎晩君が門限破ってブルペンで美咲ちゃんと練習してる映像も渡したからだけどねー)
実は夜のブルペンの悠太と美咲の様子を隠し撮りしていた花蓮。彼女は何もかもお見通しなのであった。
花蓮
「編入の正式決定は向こうの受け入れ体制が整ってからだから変わりはない。つまり、編入を目指すなもう少しの期間だけここにいてもらうことにはなるわ。ただこういうことが起きた以上強要はできないけど。どうする?」
悠太
「あぁ、俺がこうなって居心地悪くないか心配してくれてんのか。問題ねぇよ。それよりも桜苑のチャンスがあるならここで予定通り全うしたい。」
花蓮
「…分かった。」
病院から寮への帰り道の車内。しばらく互いに無言の時間が続くが、悠太が口を開く。
悠太
「そういえば…前に話してたよな…女子が男子と同じ高校野球の大会に出る方法。不可能じゃないって。」
花蓮
「え?」
急に別の話になり驚く花蓮。以前、美咲の夢を聞いた時からずっとこのことは気になっていた悠太。
花蓮
「制度上はやろうと思えば可能だけど、筋力とか危険性から難しいよって話?」
悠太
「そうそれ。俺、調べたんだよ。具体的な話は忘れたんだけど、なんか地方大会なら前例があるみたいじゃねぇか。女子選手が男子と同じ大会に出るってやつ。」
花蓮
「……。確かにそうらしいね。」
悠太
「単刀直入に聞こう。この高校はそれは出来ないのか?」
花蓮
「…現状は厳しい。」
悠太
「!」
花蓮
「まぁ…やっぱりレベルの差があるね。」
悠太
「…俺が入学した時は、この野球部は女子甲子園五連覇の常連で実力があって…俺に対してこの野球部でも男子と同じ甲子園に行ける可能性がある…なんて話をしてたが?」
花蓮
「状況が変わったじゃない。君は桜苑に編入予定でしょ?」
悠太
「あ。」
花蓮
「君がいるかいないかで戦力は全然違うよ。」
悠太
「…。」
花蓮
(…そういや夜のブルペンで美咲ちゃんとそんなこと話し合ってたっけ。だから気になったのか…。)
花蓮の言葉を聞いて、声に出さずとも露骨に落ち込む悠太に対して、花蓮は気を利かせて話し続ける。
花蓮
「方法って意味ならね。ウチみたいな野球部は普通にエントリーするんじゃ参加は出来ない。やっぱり運営側も安全面を考慮すると何かあると困るからって、エントリーした部活とその構成部員は性別もそうだし、身体的に問題ないことを確認しないといけない。」
悠太
「なるほど…運営側もそういうのはあるんだな。」
花蓮
「ただそこで完全に禁じると差別的で良くないんだろうね。特例ってのは存在するよ。君がさっき言ってた、どこかの地方大会に女性選手が出たのもそれにあたる。」
悠太
「!」
花蓮
「その方法は試験試合。手頃な地方大会参加校を相手に試合をして、運営委員にそのパフォーマンスを評価されたら地方大会に出られるの。ウチの場合はおそらく3試合で5名の運営部員の前で認められたらOKになる。」
悠太
「そんな特例があったのか!初耳だぜ!じゃあそこに勝てば…。」
花蓮
「ただ勝つだけじゃだめ。試合に出た全女性選手の安全が保証されると認められるパフォーマンスじゃないとダメなの。だからウチの場合は凛とか、葵とかは実力があるから男子と戦えて、その2人のおかげで試合には勝てても、他の選手次第で地方大会に参加出来ない可能性は全然あり得る。」
悠太
「そう…なのか…。」
花蓮
「私は流石に全部員がそこまでのレベルだとは思えないのよね。そして何より大事なこと。男子と同じ甲子園に挑戦するということは物理的に女子甲子園には参加出来ないということになる。」
悠太
「!そうか、開催時期か。」
花蓮
「そう。仮に今年、男子と同じ甲子園に挑むとして、女子甲子園六連覇を捨ててまで挑みたいと全部員が思えるかどうか。特に凛キャプテン。」
悠太
「キャプテン?」
花蓮
「彼女は今年が最後の夏…この夏に女子甲子園史上初となる大会三年連続最優秀選手の名誉がかかっている。」
悠太
「三年連続!?女子離れしてるとは思ったが、そんなに凄い奴だったのか!」
花蓮
「…これまでのこの野球部への彼女の貢献度を考えると私の口から諦めて男子と同じ甲子園を目指してくれとは言えないな。」
悠太
「…なるほどな。」
こうして車は寮に到着する。さっそくリハビリを開始する悠太。花蓮は凛と相談して葵の処遇を決めた。悠太の意見を尊重して、今回はお咎めなし。しかし、次に悠太にいじめ紛いの行為をしたことが発覚したら練習参加停止処分となることを本人に伝えた。形式上は普段と変わらない練習を行う一同。しかし、葵は他の部員からの冷たい視線を浴びる。
居ても立っても居られなくなった葵は、その日の夜にこっそりと悠太を居間に呼び出す。
悠太
「どうした?こんな腕だから夜練は出来ないぞ?」
ニヤけながら冗談を言う悠太だが、対して神妙な面持ちの葵。
葵
「もうあんなことはしない。次やったら練習参加停止だって。」
悠太
「あぁ…」
葵
「…ごめんなさい。」
悠太に対して深々と頭を下げる葵
葵
「今回のことだけじゃない。今までやってきた全てのことに対して…。それが積み重なってこうなってしまったから…。軽傷とは聞いたけど、それでもあなたへの影響は大きいはず…。」
悠太
「…いや、そもそものきっかけは俺が悪態をついたから…それでチームの輪を乱したからだ。お前は人一倍正義感が強かっただけだ。監督から聞いたよ。お前が俺のこと嫌っていた理由。」
葵
「!」
悠太
「俺もようやく理解できたよ。お前のことも、チームのことも。理解が足りなかったから起きた事故に過ぎないんだ。…だからお前はそんなに気にするな。」
葵
「…」
葵を許した悠太。しかし重たい空気感が漂う。
悠太
「そういや練習は?普通に出来てんのか?」
葵
「…あんたが庇ってくれたおかげでお咎めなしってことにはなってる。…ただ…。」
言葉を詰まらせて苦い顔をする葵。その葵の様子を見て練習の状況を察する悠太。
悠太
「…まだまだ至らぬところもあるとは思うが…俺はここしばらくでだいぶこの野球部のことが分かってきた。偶然だがこうやって縁も出来たんだ。このままギスギスした野球部ほったらかして自分は編入でトンズラってのも寝覚めが悪い…。」
すると悠太は決意する。
悠太
「よし!何とかするか!副キャプテン!あんた、もし俺に謝罪の気持ちがあるなら明日以降俺の指示に従って動いてくれるか?」
葵
「え?」
そして翌日の練習の時間。既にグラウンドに集まってアップを始めている部員。そこに遅れて来るように悠太が葵を連れてやってきた。
葵
「ちょっと!あんた!全体練習に参加する気!?昨日の今日で包帯くっつけた状態で何する気なのよ!」
悠太
「いいから黙ってろ!おーい!お前らー!」
悠太と葵に気づく部員たち。
凛
「なんだ?お前はリハビリの別メニューのはずでは?」
悠太
「今日からしばらく俺が練習メニューを決めることになった。」
部員たち
「!?」
悠太
「もちろん監督に許可は得てる。俺が動けない分みっちり俺の言うことに従ってもらうぞ!そう、全員な!」
そう言って葵の方に目線を向けて笑う悠太。悠太の意図はいかに…?




