お告げ鳥
〈ぴゆうちやんは鎌鼬の仔夏つ洟 涙次〉
【ⅰ】
きみ知るや、五月は基督教の行事が尠ないの(13日のファティマの記念日ぐらゐ。これは近現代に制定された記念日なので、余り傳統にはそぐはない)で、魔界の活動が活発化すると云ふ事を。
使ひ魔たちの仔が大人になり、親の跡目を継ぐ、大事な儀式があるが、それも五月に行はれる。
ぴゆうちやんは、鎌鼬の子供。兩親は健在で、魔界に棲んでゐる。所謂使ひ魔であり、ぴゆうちやんも、大人になつたらそれを継がなくてはならない。
ぴゆうちやん、風と戲れる事が、初夏になり、全く樂しくて仕方がない。然も、光流や由香梨が遊んでくれるので、每日をエンジョイするには、充分が充分過ぎる、要は必要条件が揃ひ過ぎてゐる。で、先の「儀式」をすつぽかしてしまつた。他意はないのである。大人になりたくない! とか、さう云ふ叛抗心もない。
【ⅱ】
だが結果として、ぴゆうちやんは、魔界の裏切り者となつてしまつた。大體、人間の子供たちと仲良しだなんて、不埒千万、ではないか!
ぴゆうちやん、まだ稚なさの殘る身で、命を狙はれる存在となつてしまつた!
「ぴゆうちやんにはいつまでも子供でゐて慾しい」さう願つたのは、光流と由香梨だけではなかつた。テオも、さう思つてゐたのである。* テレパス同士、親交を深めてゐる、テオとぴゆうちやん。テオは、ぴゆうちやんの「イノセンス」に、「やられて」ゐたのである。テオは5歳。そろそろ6歳になる。猫としてはもう大人と云へる年齡だ。だからこそ、過ぎ去つた日々の輝き、をぴゆうちやんに求めるのは、自然な事と云へた。
* 当該シリーズ第119話參照。
【ⅲ】
そのぴゆうちやん、最近元氣がない。「ておサン、夜眠ル時ニ、繪ガ見エルノ」繪、と云ふのは、夢の意だらう。【魔】の仔であるぴゆうちやんは、夢と云ふ現象を知らない。「それは夢、と云ふ物だよ、ぴゆうちやん」‐「夢? マアイゝヤ。僕虐メラレルノ」‐「虐め? どんな?」‐「躰ヲ引キ裂カレルンダ」-それは虐めの範疇を超えてゐる。
調べてみると、ぴゆうちやんは、魔界の「成人式=大人になる儀式」をすつぽかしたやうだ。それで、魔界からの圧迫を受けてゐるらしい。然し、「躰ヲ引キ裂カレル」とは尋常ではない。ぴゆうちやんを助けなくちや! でもだうやつて...
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〈五月咲く「花の宰相」何故かしら活動期にあり政治の季節 平手みき〉
【ⅳ】
「あ、さうか、あの手があつた!」テオ、天才猫の脳裏に、解決法が仄見えたやうである。
テオは、安保さんに頼んで、大至急で、精巧な鳥の玩具を造つて貰つた。魔界に「お告げ鳥」なる、触れ回り屋の鳥がゐた事を思ひ出したのである。
それで、その(安保さん製作の)ロボ鳥に、「ピユウチヤン、大人ニナリタクナイ!!」と、啼かせる。怒つた魔物たちは、人間界に出てきて、ぴゆうちやんを殺さうとするだらう。そこを、カンテラ、じろさんに叩いて貰ふ... 完璧なシナリオだ!
【ⅴ】
てお、ロボ鳥を、「思念上」のトンネルの一つに、放つた。「神さま佛さまロボ鳥さま」だなあ、と、テオは思ひ、何だか可笑しかつた。
で、出てきた出てきた。ぴゆうちやんを虐める【魔】たちのオン・パレードである。
「貴様ら、幼氣な使ひ魔の仔をいたぶる惡業、許し難し!!」-「此井殺法・その他殺し!!」まづじろさんが、大勢の【魔】を一度に斃す、ドミノ倒しみたいな秘術(これは合氣の道に、本当に傳はる技である)で、「その他大勢」を片付けてしまつた。それから主犯格を、カンテラが、「しええええええいつ!!」斬り伏せた。
【ⅵ】
テオ「僕が払ひますよ。仕事の代金」-「いやいゝんだ。これからぴゆうちやんには、俺たちの使ひ魔として、働いて貰ふから。差引勘定、プラマイゼロつて事で」
と云ふ譯で、永遠の子供となつてしまつたが、ぴゆうちやん今日も元氣である。いづれ子供にしか出來ぬ役割りを果たす事にならう。つー譯で、
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〈短夜を嘗めてかゝると風邪を引く 涙次〉
一件落着。お仕舞ひ。