第三十九話:シャドウメイジ
「ようやく来たか……特務部隊の英雄どもが」
その声は、エリオスたちの記憶に鮮明に刻まれていた。
「お前は……!」
エリオスが剣を構えながら叫ぶ。
現れたのは、以前王都で激突したシンジゲートの幹部、“シャドウメイジ”だった。だが、彼だけではなかった。左右には二人の新たな幹部が立っている。
「覚えていてくれて光栄だ。だが、今回は一人ではない」
シャドウメイジが冷たく笑う。
左に立つのは、漆黒の鎧をまとい巨大な斧を構える男――“ドゥームバインダー”。右には、妖艶な笑みを浮かべる女魔導士――“サンドラ”。
「三人揃えば、我らに敵う者などいない……さあ、始めようか」
ドゥームバインダーが低く唸りながら斧を構えた。
「ふん、せいぜい私たちの退屈を紛らわせてみせなさい」
サンドラが指先をくるくると回しながら笑う。
エリオスたちが現場に到着すると、森の奥に待ち構えるシンジゲートの幹部たちが見えた。中央に立つのは「シャドウメイジ」、その左右には巨大な斧を持つ「ドゥームバインダー」、そして優雅に微笑む魔導士「サンドラ」。
「ようやく来たか、王国直属の特務部隊どもが」
シャドウメイジが冷たい笑みを浮かべると、ドゥームバインダーが斧を振り上げ、笑い声を響かせた。
「ガルムを倒したとか言うが、この俺には通用せん!今度は俺たち三人がお前らを叩き潰す番だ!」
エリオスは剣を構え、全員に指示を飛ばす。
「全員気を抜くな!こいつら、明らかに前より手強いぞ!」
しゅうが後ろで詠唱を始め、炎を両手に宿す。
「こっちだって、前の私たちじゃないんだからね!燃え上がれ、微かな灯よ――小さき力で敵を焼け!ファイア・スパーク!」
炎の火花がシャドウメイジに飛ぶが、彼は軽く手を振るだけで霧に吸い込まれて消える。
「ふん、そんな小手先の技が通じると思うな」
次の瞬間、ドゥームバインダーが突進してきた。その斧が地面を砕き、衝撃波が全員を襲う。
「くっ……!コトネ、援護を頼む!」
エリオスが叫ぶと、コトネがすかさず杖を構えた。
「光の盾よ、守護の力を与えよ――ライト・シールド!」
眩い光の壁が衝撃を吸収するが、それでも完全には防ぎきれない。
「防御が間に合わない……どうするの?」
コトネが焦る中、サンドラが詠唱を始めた。
「闇の囁きよ、私の意志を聞き届けよ――ダークミスト!」
濃い霧が周囲を包み、視界を奪う。
「これじゃ、敵が見えない!」
しゅうが叫ぶが、同時にドゥームバインダーの斧がエリオスに襲いかかる。
「ヴァンガード・スラッシュ!」
エリオスが剣で防ごうとするが、力の差で押し切られ、地面に叩きつけられた。
「くそっ……このままじゃ!」
エリオスが立ち上がろうとするが、体が思うように動かない。
「エリオス!しっかりして!」
コトネが駆け寄り、ヒールを放つ。
「癒しの光よ、傷を包み込み、命を癒せ――ヒール!」
淡い光がエリオスの傷を癒すが、敵の攻撃の手は止まらない。
「チームを分断する。やれ!」
シャドウメイジの命令で、サンドラが次の呪文を放つ。
「影の網よ、敵を捕らえ、その動きを封じよ――シャドウネット!」
黒い網が空中に広がり、エリオスたちを包み込む。
「しまった!」
エリオスが剣で網を切ろうとするが、黒い糸は簡単には斬れない。
その隙に、ドゥームバインダーが斧を振り下ろす。
「これで終わりだ!」
しゅうが横から詠唱を放つ。
「燃え広がれ、紅蓮の床よ――炎の罠となり、敵を捉えよ!フレイム・ブレイズ!」
炎が地面を覆い、ドゥームバインダーの動きを一瞬止める。
「いいぞ、しゅう!」
エリオスが声をかけるが、次の瞬間、シャドウメイジが闇の矢を放ち、しゅうを狙う。
「危ない!」
エリオスが間一髪でしゅうを引き寄せるが、矢が近くの木を粉砕する。
「くっ、こんなのが続いたら持たない!」
敵の連携は完璧で、エリオスたちは防戦一方だった。ドゥームバインダーの圧倒的な力、サンドラの幻惑の霧、シャドウメイジの正確な遠距離攻撃……どれもが厄介だった。
「エリオス、私たち、これ以上は……!」
コトネが息を切らしながら声をかける。
「諦めるな!絶対に打開できるはずだ!」
エリオスは歯を食いしばり、再び剣を振るう。
ポルフィがその場を冷静に見渡しながら呟く。
「ふむ……ここまで追い詰められるとは。お主たち、本気を見せねばこの戦いは終わらんぞ」
「本気……?」
しゅうが呟くと、ポルフィが彼に目を向ける。
「お主の中の力……まだ解放されておらんのじゃろ?」
その時、しゅうの頭の中に響く声があった。
「花雲春色――今こそその力を使う時だ」
「この声は……」
「しゅう、どうしたの?」
コトネが心配そうに声をかけるが、しゅうは震える手で杖を握りしめた。
「やるしかない……!私の中の力を信じて!」
その瞬間、しゅうの瞳が桜色に輝き、額に逆三角形の紋章が浮かび上がる。
「これが……春華顕現!」
しゅうが炎を纏い、圧倒的な魔力を放ち始めた。敵三人もその異変に気づき、動きを止める。
「面白い……だが、それが我々に通用するか?」
シャドウメイジが冷笑を浮かべながら呟く。
シャドウメイジが手を高く掲げ、暗黒のオーラを纏う。
「我が力よ、今こそその全貌を見せよ――影の支配者、ナイトフォール、降臨せよ!」
闇の中から巨大な影の精霊が現れる。その姿は翼を持つ漆黒の獣で、見つめるだけで心を蝕むような威圧感を放っている。
「シャドウメイジの精霊が前と違う……!」
エリオスが驚きの声を上げる間もなく、ドゥームバインダーが大斧を地面に突き立て、地割れを起こした。
「お前たちを粉砕するために!地を這う獣よ、グラウンドクローラー、目覚めろ!」
地面から巨大な岩の精霊が姿を現した。その全身は岩盤で覆われており、動くだけで大地を揺るがすほどの重量感がある。
さらに、サンドラが優雅に杖を振り、詠唱を始めた。
「風と雷の嵐よ、我が召喚に応えよ――テンペスト・レイヴン!」
天から雷鳴が轟き、青白い雷を纏った鳥型の精霊が降り立つ。その目は知性と凶暴性を併せ持ち、周囲に静電気の嵐を巻き起こしている。
「三体同時に精霊を解放した……!?どうなってるの!」
しゅうが驚愕する中、コトネが冷静に周囲を見渡す。
「この状況じゃまともに戦ったら、全滅する……!」
戦場に立ち込める緊張感は、全員の肌を刺すようだった。シャドウメイジ、ドゥームバインダー、サンドラ――シンジゲートの幹部三人と、それぞれが召喚した精霊たちが一斉に襲いかかってきた。
エリオスたちは包囲され、激しい攻撃に耐えながら次の手を模索していた。
「状況が悪すぎる……!」
コトネが汗を拭いながら叫ぶ。雷撃を放つテンペスト・レイヴンが空を舞い、その雷が仲間たちを襲うたびに、コトネは光の盾を展開して何とか防いでいた。
「光の盾よ、守護の力を与えよ――ライト・シールド!」
彼女の詠唱が響く中、岩の槍を生み出し続けるグラウンドクローラーの攻撃が足元を狙い続ける。
「しゅう、大丈夫か!?状況が厳しいぞ!」
エリオスがシャドウメイジの影の牙を受け流しながら叫ぶ。
「これ以上待てない……出すよ、エリオス!」
しゅうは杖を掲げ、両手を桜色の光に包み込む。
「しゅう、何をするつもりだ!」
エリオスが驚いて声を上げるが、しゅうは振り返らずに叫んだ。
「春華顕現!」
彼女の瞳が燃えるような桜色に染まり、目の上部に逆三角形の桜色の紋章が浮かび上がる。
「来て、イフリート!」
轟音とともに炎が巻き上がり、巨大な燃え盛る獅子の姿をした精霊が現れる。
「ふん、人間風情が……面白いものを出したな!」
シャドウメイジが笑みを浮かべる。
イフリートは雄たけびを上げながら、炎をまとった爪を振り下ろす。その一撃がナイトフォールの翼を掠め、影の塊を吹き飛ばした。
「これでどうだ!」
しゅうは詠唱を続け、さらに火力を高める。
「燃え広がれ、紅蓮の床よ――炎の罠となり、敵を捉えよ!フレイム・ブレイズ!」
イフリートの足元から広がった桜色の炎が、グラウンドクローラーの動きを鈍らせ、地面を焼き尽くしていく。
「ちっ、やるじゃないか!」
ドゥームバインダーが岩の精霊を操り、イフリートに向かって巨大な岩の槍を投げつける。
「イフリート、かわして!」
しゅうの指示でイフリートが俊敏に動き、岩槍を避けながらナイトフォールに飛びかかる。
雷撃を放つテンペスト・レイヴンも、空中からイフリートを狙って雷を放ち続けていた。
「風と雷の嵐よ、奴らを粉砕せよ――ライトニング・テンペスト!」
サンドラの詠唱が響く中、雷撃がイフリートの体を掠め、激しい火花が散る。
「くっ……耐えて!」
しゅうが必死で声を張り上げる。
「負けるわけには…
いかない!!!」
イフリートは桜色の炎を全身に纏い、その力を最大限に発揮し始める。
「最後だ、イフリート!全力で叩き込むよ!」
しゅうが両手を掲げ、詠唱を紡ぎ始める。
「空に燃え立つ炎の星々よ、敵を焼き払い、大地に痕を刻め――インフェルノ・レイン!」
「出力最大!!」
桜色の炎が天高く舞い上がり、無数の火の玉となって敵全体に降り注ぐ。
「これで終わりだーっ!」
ナイトフォール、グラウンドクローラー、テンペスト・レイヴンが火の雨に包まれ、激しく燃え上がる。しかし、その威力はあまりにも大きすぎた。
「くそ、戦場全体が……!」
エリオスが叫ぶ中、巨大な爆発が周囲を飲み込み、焦げた大地と黒煙が広がった。
しんだ?




