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第三十四話:準備

エリオスたちがカオスガード本部を後にして王都の石畳を歩いていると、街の賑やかな喧騒が耳に心地よく響いてきた。王都の広場では行商人たちが声を張り上げ、子供たちが遊ぶ姿が見える。緊張感漂う本部の空気とは対照的なその光景に、一行は少しだけ表情を緩ませた。


「プラチナランクか……本当に私たちにできるのかな?」

コトネがため息交じりに呟きながら歩く。彼女の手にはカオスガードの本部で渡された試験概要の書かれた封筒が握られていた。


「何言ってるの?今までだって、もっと大変なことを乗り越えてきたじゃない!」

しゅうが元気よく返しながら、コトネの肩を軽く叩いた。


「でも、今回は試験だよ?何が待ってるか分からないし……正直怖いよ」

コトネは少し目を伏せる。そんな彼女の様子に、エリオスが振り返って声をかけた。


「怖いのは、誰だって同じだ。だけど、今の俺たちならきっと乗り越えられる。だって、ここまで一緒にやってきたんだから」


その言葉に、コトネの表情が少し和らいだ。


「エリオスがそう言うなら……私も頑張る!」

コトネの決意を感じ取ったしゅうが、いたずらっぽい笑みを浮かべる。


「でもさ、私の方がエリオスに頼りにされてるけどね!」


「えっ!?何それ!」

コトネが目を丸くすると、しゅうは笑いながらさらに言葉を続ける。


「だって、エリオスが一番助かるのは、私の炎魔法でしょ?それに、戦いだけじゃなくて、何かあったらすぐ声をかけてくれるし!」


「そ、それは……!」

コトネが何か言い返そうとするが、エリオスが苦笑しながら二人をなだめる。


「まあまあ、今は試験に集中しよう。二人とも、俺にとっては大事な仲間だからな」


エリオスの言葉に、コトネとしゅうが同時に頬を赤らめた。


「まずは装備を整えるのが先だね」

ポルフィが落ち着いた声で提案する。


エリオスたちは装備を整えるため、広場を抜けて武具店へと向かった。石造りの店内には所狭しと剣や防具が並べられ、鋭い光を放つそれらが試験への緊張感をさらに煽るようだった。


コトネは、魔力を増幅するアクセサリーを見つけて手に取っていた。


「これ、光魔法の威力が上がるって書いてあるけど、どうなんだろう?」


「それ、使ってみれば?」

しゅうが近づいてきて、コトネの手元を覗き込む。


「でも、しゅうの炎魔法ほど派手じゃないからなぁ……」


「光魔法があるから私たちが助かってるんじゃん!」

しゅうが少しムキになって言うと、コトネが笑みを浮かべた。


「ありがとう、しゅう。じゃあ、これ買ってみるね!」


準備を終えた一行は、道具屋で回復薬や魔法石も揃えてから、宿へと戻ることにした。


宿「月の宿」の一室では、エリオスたちがテーブルを囲んで試験についての作戦を練っていた。部屋の中央には王都の地図が広げられ、試験会場の位置が赤い印で示されている。


「試験の第一段階は、迷宮での制限時間内脱出らしいよ」

コトネが資料を見ながら説明する。


「よくそんなの見つけてきたな」

とエリオスがつっこむ

「制限時間か……迷宮での道探しはポルフィが得意そうだよね?」

しゅうがポルフィに話を振ると、彼女は自信満々に頷いた。


「ふふん、任せておけ。迷宮攻略は、我の得意分野よ」


「じゃあ、次の戦闘試験は私とエリオスが前衛を担当するって感じかな?」

しゅうが少し得意げに言うと、コトネが黙っていられない様子で口を挟む。


「ちょっと待って!エリオスのサポートは私もするからね!」


「えー、前衛は私がエリオスと一緒に戦った方が安心でしょ?」

ポルフィ(魔術師で前衛って女神は教養を教えたりはしないんか)

「でも、回復魔法がある方が絶対にいいよ!」


二人の言い合いに、エリオスが困ったような笑顔を浮かべる。


「二人とも、仲良くしようよ。どっちの支援も頼りにしてるからさ」


「……うん、分かった」

コトネが少し拗ねたように俯き、しゅうも頬を膨らませながら席に座り直した。


「じゃあ、試験が終わったら美味しいものでも食べに行こうよ。それで、どっちがエリオスの役に立ったか決めよう!」

しゅうが冗談交じりに提案すると、コトネもつられて笑顔を見せた。


「それなら負けないよ!」


試験前の緊張感の中にも、仲間たちの絆が確かめられるひとときだった。



エリオスたちがプラチナランク昇格試験の準備を進める中、月の宿では静かな夜が更けていた。宿の一室では、エリオスたちが試験についての最後の作戦会議を終え、疲れた体を休めるためにそれぞれのベッドに入っていた。


しかし、ポルフィだけは窓際に立ち、外の夜空をじっと見上げていた。彼女の目に映る満月の光は冷たくも穏やかだったが、その表情には複雑な感情が滲んでいる。


「……これでいいのだろうか」


ポルフィは呟きながら、自分の手のひらを見つめた。その手にはかつて魔王として数々の命を支配してきた力の名残が、わずかに宿っている。しかし今、彼女は魔王としてではなく、ただの「仲間」としてエリオスたちと行動を共にしている。


「ポルフィ、起きてる?」

不意に聞こえたしゅうの声に、ポルフィは肩を震わせた。


「しゅう……眠らないのか?」

「なんかね、ちょっと緊張しちゃってさ。試験で失敗したらどうしようとか、いろいろ考えちゃって」


しゅうはベッドから出て、ポルフィの隣に座った。


「ポルフィは強いよね。全然不安そうじゃないし……すごいなって思うよ」


その言葉に、ポルフィは少しだけ苦笑を浮かべた。


「そう見えるかもしれんが、我も全てを見通しておるわけではない。ただ、信じておるだけだ。お主たちが、そしてエリオスが、この試練を乗り越えられると」


「エリオス……かぁ」

しゅうは月を見上げながら小さく呟いた。その声には、少しの不安と決意が混じっていた。


「何じゃ、エリオスがどうした?」

ポルフィが少し興味を引かれたように聞き返す。


「別に何でもないよ。ただ……エリオスって、本当にみんなのことを大事にしてくれるよね。それが、ちょっと……」


しゅうが言葉を濁すと、ポルフィは小さく微笑んだ。


「安心せよ。エリオスは、その優しさや滅びの力を無闇に使いはせん。お主の努力も、ちゃんと見ておるはずじゃ」


しゅうはその言葉に少しだけ救われたような気がした。

(まだ滅びの力は使っていないはずなのに…なんで…)

「ありがとう、ポルフィ。でもさ、ポルフィって本当に謎が多いよね。いつも冷静だし、なんか全部分かってるみたいな感じでさ」


ポルフィは一瞬だけ目を伏せたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべて答えた。


「謎が多い方が魅力的であろう?」

「えっ、それずるいよ!」


しゅうが苦笑すると、ポルフィは何も言わずに窓の外に視線を戻した。


朝日が差し込むと、エリオスたちは宿を後にし、カオスガード本部へと向かうため王都の大通りを歩いていた。通りにはすでに商人たちが活気づいており、朝の市場が賑わいを見せている。


「こんなに平和なのに、試験に落ちたらどうしようとか考えちゃうよね……」

しゅうがポツリと漏らすと、コトネが彼女を横目で見て呆れたように言った。


「朝から弱気にならないでよ。大丈夫、みんなで力を合わせれば何とかなるって!」


「うーん、コトネが言うと逆に不安になる気がするけど……」


「えっ、それどういう意味?」

二人が軽口を叩き合う中、エリオスはそんなやり取りを微笑ましく見守っていた。


「二人とも、試験前に体力を無駄に使わないようにな」


「エリオスは私たちの喧嘩を止める係だもんね!」

しゅうが冗談めかして言うと、コトネも笑いながら同意した。


「そうそう、だからエリオスにはずっとそばにいてもらわないと!」


「はは、頼むから本番ではそのエネルギーを試験に使ってくれよ」


一行が冗談を交わしながら歩く中、ポルフィだけは沈黙を守っていた。彼女の視線はエリオスたちの楽しげな姿に向けられているが、その瞳の奥には揺らぎが見え隠れしている。


「(この平穏が……いつまでも続けばよいのだがな)」


ポルフィは胸中でそう呟きながらも、その考えを振り払うように頭を軽く振った。


彼女が隠している真実――それは、魔王としての過去と、エリオスに惹かれつつある自分自身への戸惑いだった。彼が転生者であること、そして自身が魔王として彼と向き合わねばならないかもしれない未来を、どう受け入れるべきか答えは出ていない。


「ポルフィ、大丈夫?」

エリオスが声をかけると、彼女は驚いたように顔を上げた。


「ん?ああ、何でもない。我はただ、この試験が楽しみでな」


「そっか。ポルフィがいてくれるだけで心強いよ」


エリオスの言葉に、ポルフィの頬がかすかに赤く染まったが、すぐにそれを隠すように笑った。


「ふふ、期待しておるぞ。我の力を見せる機会も少なくないはずじゃからな」


エリオスたちが試験に向けて歩みを進める中、ポルフィの胸中には決意が静かに宿っていた――自らの正体を隠しつつ、仲間として彼らを支える覚悟を。


そして、その朝陽の中には、平穏の裏に潜む運命の歯車の音がかすかに響いていた。

シンジゲートの時は金がなくてできなかった準備が…

できるようになってる!

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