第三十話:仲間…?
ポルフィが微笑んだのも束の間、その表情に翳りが差し込んだ。赤い瞳がふいに寂しげな色を帯び、うつむいた彼女の小さな肩が微かに震えている。
「ポルフィ……どうしたの?」
コトネが心配そうに彼女の顔を覗き込む。
ポルフィはゆっくりと首を振り、口元に苦笑を浮かべた。
「……ごめんなさい。急に変な顔して。でも……」
(ついに…やった…)
彼女の言葉は途切れた。代わりに赤い瞳がエリオスを見つめ、さっきとは違う声で続ける。
「お主……普通の人じゃないじゃろ。」
その一言に、部屋の空気が凍りつくような感覚が走る。
「え?」
しゅうが眉をひそめた。
エリオスは驚いた様子でポルフィを見返すが、その瞳には何かを探るような鋭い光が宿っていた。
「どういう意味だ?」
エリオスが静かに問いかけると、ポルフィは小さく息をついて言葉を続けた。
「わかるにきまってるじゃろ。わらわは人が持つ“本当の魂の輝き”みたいなものを感じ取る力を持っとるせいでな。普通の人と違って、あなたの輝きは……どこか違う世界のものじゃな。」
「この世界のものじゃない?」
コトネが疑問の声を上げると、ポルフィは小さく頷いた。
「ええ。そして……転生者なんじゃろ?」
その言葉に、エリオスの心臓が大きく跳ねた。驚きと同時に、彼は言葉を失う。
「エリオスって、転生者なの!?」
しゅうが声を上げるが、エリオスは何も答えられない。ただ、ポルフィの瞳が自分の内側まで見透かしているような感覚に囚われていた。
「どうしてそれを……知ってるんだ?」
ようやく口を開いたエリオスの声は、微かに震えていた。
ポルフィは一瞬だけためらったが、意を決したように口を開いた。
「だって、私も――同じように、女神の手でこの世界に送り込まれた“異なる存在”だからじゃな。」
部屋の中が静まり返る。彼女の言葉は、それほど衝撃的だった。
「わらわの場合は、少し特殊だけどな。」
ポルフィが自嘲するように微笑む。
コトネとしゅうは困惑した表情でエリオスを見つめていたが、彼は視線を逸らし、短く頷いた。
「そうだ。俺は、もともとこの世界の住人じゃない。……別の世界から転生したんだ。」
その告白に、しゅうは唖然としたまま声を失い、コトネは唇を引き結んで何か考え込むような表情を浮かべた。
ポルフィはふっと柔らかく微笑み、言葉を続ける。
「転生者の魂には、どこか独特の歪みがある。だからわらわはお主が普通じゃないって分かったんじゃ。逆に2人は気が付かなかったんか?でも……」
再び彼女の表情が曇る。
「お主の魂には、何か……蓋がされているような感じがする。」
「蓋?」
エリオスは眉をひそめた。
「うむ。普通、転生者の魂は自由なはずじゃ。だけど、あなたの魂は……何かに制限されておる。まるで、心の声が完全には外に届かないようになっているみたいにな。」
その言葉に、エリオスは胸の中で何かがざわめくのを感じた。
「俺の心の声が……制限されている?」
ポルフィは目を伏せ、静かに続けた。
「普通に考えれば女神があなたにかけた制約じゃな。2回目ならわかると思うが本来なら、自分の感情をもっと正直に表現できるはずじゃろ。でも、転生してきた時点で、その自由を奪われているだろう。理由は……」
ポルフィの言葉が止まる。その先を告げようとするか迷っている様子だったが、その時、しゅうが前に出た。
「理由は……女神が彼を『完全に自由な存在』にしなかったからよ」
「しゅう……?」
エリオスが驚いて振り向くと、彼女の目にはいつもとは違う真剣な光が宿っていた。
「私たち神の使者は、女神から直接『使命』を与えられているの。エリオス、あなたの運命が制約されているのも、女神があなたを『完全なる自由』から遠ざけているから。言い換えれば、女神はあなたに『選択』を与えたくないんじゃないかって思う」
「選択を……与えたくない?」
エリオスは信じられないという顔でしゅうを見つめる。その目に映る彼の困惑が、しゅうの心を少しだけ痛めた。
「エリオス、あなたは転生者としてこの世界にやって来た。強い力を与えられた英雄で、救世主で……でも、それは同時に、あなた自身の感情や思いが『役割』に縛られてしまうことを意味しているの。だから女神は、あなたが自由に考えて自分の道を選べないようにしたんだと思う」
その言葉に、ポルフィが少しばかり興味を示すように微笑む。
「ふふっ、なるほどな。しゅう、思った以上に賢いな。さすが女神に選ばれた使者だけのことはあるようじゃな」
(どうにかエリオスを魔王城に連れ帰れないかの…)
「そういうのは今いいから」
しゅうはポルフィに冷たい視線を送りつつも、エリオスに再び向き直った。
「でもね、私はそれに納得してない。エリオス、あなたが自分で道を選べるようになるべきだってずっと思ってた。だから、あなたのそばにいるの」
その言葉に、コトネが眉をひそめて口を挟む。
「それって、エリオスのことをずっと見守ってるってこと?それってただの『使者の使命』じゃないんじゃない?」
「なっ、別にそんなことないわよ!」
しゅうが慌てて否定するが、その頬が赤く染まっているのをコトネが見逃すはずもなかった。
「うーん、怪しいなぁ。しゅう、エリオスに何か特別な感情でもあるんじゃないの?」
「ち、違うってば!ただ、エリオスが不自由なままでいるのが嫌なだけなの!」
そのやりとりを見ていたポルフィは、呆れたようにため息をつく。
「ふふ、面白いな。みんなそれぞれエリオスを特別に思ってるって感じじゃな?」
「そんな言い方しないでよ!」
しゅうがムキになって反論する。だが、ポルフィはそんな彼女を軽く流してエリオスに視線を戻す。
「ねえ、エリオス。少なくとも私は、あなたの『選択』を尊重するべきだと思ってるわ。だから、今後どうするかはあなたが決めていいのよ。ただ……」
彼女は少し悲しげな表情を浮かべた。
「……あなたが心の声を取り戻すには、この世界にあるもっと大きな力に立ち向かわなければならない。それは、女神そのものの意志に逆らうかもしれないってこと」
「女神に逆らう……」
エリオスが呟いたその言葉は、重く部屋に響いた。その静寂の中、しゅうが再び口を開く。
「……エリオス、私はどんな道を選んでも、あなたを支えるから」
その声にエリオスがしゅうを見ると、彼女の目はまっすぐで揺るぎなかった。
「私は神の使者だからっていう理由だけじゃない。私は……あなたが特別だから、一緒にいたいの」
しゅうの告白とも言えるその言葉に、エリオスは驚き、隣で聞いていたコトネがハッと顔を上げる。
「ちょ、ちょっと待って!それってまるで……!」
「何よ?」
「……い、いいわよ別に!でも、私だってエリオスのことを思ってるんだから!」
エリオスはその二人のやりとりに困惑しつつも、どう答えていいか分からないまま沈黙を貫いていた。
ポルフィはそんな光景を眺めながら、小さく笑みを浮かべていた――。
12月13日と14日は2本投稿です!
6時と18字に投稿します!
がんばります




