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第二十九話:また森の中で

朝日が眩しく差し込む中、エリオスたちはギルドに足を運んでいた。宿からギルドまでは大通りを抜けた先にあり、冒険者たちで賑わうこの場所は、いつも活気に溢れている。


「さて、今日も依頼を選ぼう」

エリオスがギルドの掲示板に目を向けると、しゅうが勢いよく隣に飛び込んできた。


「今日は戦いがたくさんある依頼にしようよ!討伐とか燃えるやつ!」

しゅうは目を輝かせながら掲示板を指差す。


「戦いが楽しいのは分かるけど、疲れすぎたら次の日に響くよ。私はもっと安定した依頼がいいな」

コトネが落ち着いた声で反論しつつ、掲示板をじっくりと眺めた。


「安定って……それじゃ冒険者っぽくないじゃん!ね、エリオス?」

しゅうがエリオスに同意を求めると、コトネも即座に口を挟む。


「ちょっと、エリオスに選ばせるのはいいけど、しゅうみたいに無茶をさせないわよ?」


二人のやりとりに、エリオスは少し笑いながら両手を広げる。

「どっちにしても、無理のない依頼にしよう。最近は討伐続きだったし、少し軽めでいいだろ?」


その提案に、しゅうは少し不満げに頬を膨らませたものの、しぶしぶ頷く。

「まあ、エリオスがそう言うなら……今日は大人しくするか!」


「そうよね。じゃあ、これなんてどう?」

コトネが指差したのは、街外れの畑で出没する魔物を退治する依頼だった。


「簡単そうだし、戦いも少しだけあるね」

しゅうがやや納得した様子で頷き、エリオスたちはその依頼を受けることにした。


城門を出て、郊外へと足を進める。畑が広がるのどかな風景が目の前に広がり、鳥のさえずりが聞こえる中、エリオスたちは依頼内容にあった「畑を荒らす魔物」を探していた。


「静かだね。ここが畑っていうより、ほとんど牧歌的な風景だよ」

しゅうが周囲を見渡しながら呟いた。


「でも、平和そうな場所ほど油断できないわよ。魔物は急に現れるものだから」

コトネが慎重な声で注意を促す。


その言葉通り、茂みの向こうから低い唸り声が響いてきた。視線を向けると、茶色い毛並みを持つ狼型の魔物が数匹、畑の端をうろついているのが見えた。


「いたぞ。狼型の魔物だ」

エリオスが剣の柄を握りしめながら言うと、しゅうがすぐに杖を構える。


「よし、さっさと片付けちゃおう!」


「待って、しゅう。まずは作戦を立てて――」

コトネが言いかけると、すでにしゅうは魔法の詠唱を始めていた。


「燃え上がれ、微かな灯よ。小さき力で敵を焼け!――ファイア・スパーク!」


指先から飛び出した火花が、狼型の魔物の一匹に直撃した。魔物は動きを止め、一瞬怯むが、次の瞬間には牙を剥いて突進してきた。


「ちょっと、しゅう!いきなり攻撃するなんて!」

コトネが杖を掲げ、即座に防御の魔法を唱える。


「光の盾よ、守護の力を与えよ――ライト・シールド!」


光の壁がエリオスを守り、突進してきた魔物を弾き返した。


「ごめんごめん、つい手が出ちゃってさ!」

しゅうが頭を掻きながら笑うが、エリオスは苦笑しながらも剣を抜いた。


「しゅうが攻撃してくれたおかげで動きは止まった。こっちも反撃に出るぞ!」


エリオスが剣を振り上げ、魔物に突進する。


「ヴァンガード・スラッシュ!」


力強い斬撃が魔物を仕留める。その間にコトネも杖を振り、光の刃を放つ。


「神聖光輝の刃よ、暗黒を斬り裂き、不浄なる者を裁け――レイ・ブレード!」


光の刃が別の魔物を切り裂き、最後の一匹を残すだけとなった。


「最後は任せて!」

しゅうが再び詠唱を始める。


「灼熱の球体よ、我が力を乗せ、敵を焼き尽くせ。飛べ、紅蓮の閃光よ!――ファイア・ボルト!」


中型の火球が魔物に命中し、残る一匹も倒れ込む。


「やったー!討伐完了!」

しゅうが満面の笑みを浮かべ、エリオスとコトネに振り返る。


「でも、いきなり飛び出すのはやめてよね」

コトネが軽くため息をつきながら注意するが、しゅうは悪びれる様子もなく笑った。


「結果オーライでしょ!ね、エリオス?」


「まあ、なんとか片付いたし、依頼は達成だな」

エリオスが呆れつつも優しく答えると、しゅうは得意げに胸を張った。


依頼を終えて宿へ戻る途中、エリオスたちは森を抜けていた。その途中で、コトネが何かに気付き、足を止めた。


「ちょっと待って。あそこ……誰か倒れてない?」


指差す先には、地面に横たわる小柄な少女の姿があった。くたびれたローブを纏い、全身が埃にまみれている。


「行こう!」

エリオスが駆け寄り、少女の肩に手を置く。


「大丈夫か?」


少女はかすかに目を開けたが、力なく閉じてしまう。顔は青白く、体は冷え切っているようだった。


「ひどい状態だわ……早く温かい場所に連れて行かないと」

コトネが少女の脈を取りながら言うと、しゅうも慌てた声を上げる。


「どこか安全な場所に運ばなきゃ!」


「宿に連れて帰る。月の宿なら静かだし、すぐに休ませられる」

エリオスは少女を優しく抱き上げ、宿へと急いだ。


月の宿に戻ったエリオスたちは、少女を一室に運び込んだ。ベッドに寝かせると、コトネがすぐに回復魔法を唱える。


「癒しの光よ、傷を包み込み、命を癒せ――ヒール!」


柔らかな光が少女を包み込み、冷え切った体が少しずつ温まる。


「これで大丈夫かな……」

コトネが額の汗を拭いながら呟く。

彼女は長い睫毛が閉じられたまま。薄布の毛布がかけられた身体は小柄だが、その存在感は異様に強い。まるで空間そのものが彼女を中心にしているようだった。


「やっぱりこの子、普通じゃないよね……」

コトネが少女の額に濡らした布をそっと当てながら呟いた。彼女の眉間には小さな皺が寄っている。ベッド脇には、準備された水の入った陶器の皿が置かれていた。


しゅうが椅子に座り、頬杖をつきながらエリオスをじっと見ている。

「ねえエリオス、なんで私たちで拾ったの?倒れてたから助ける、っていうのは分かるけどさ。こんなに綺麗な子、なんか怪しくない?」

言いながら、視線を少女に向ける。その目は警戒心が滲んでいる。


エリオスは窓辺に立ち、外の星空を見つめたまま答えた。

「怪しいかどうかなんて、この状況じゃ分からない。でも、放っておくわけにはいかなかっただろ?」

低く静かな声だが、その言葉には確固たる意思が宿っていた。


「まあ……エリオスがそう言うなら。」

しゅうは口を尖らせながら視線を外した。彼女の心中は複雑だった。エリオスが見知らぬ少女をここまで気にかけていることが、どこか落ち着かない。


コトネはエリオスの方をちらりと見やり、小さく笑みを浮かべた。

「さすがエリオスね。優しいところが……まあ、いつものことだけど。」

その声は柔らかいが、どこか張り詰めたものを含んでいる。


しゅうがすかさず言葉を遮るように身を乗り出した。

「でも!ねえエリオス、私たちがもっと気をつけるべきじゃない?この子、普通じゃない気がするし、助けるにも限度があるっていうか……」

いつもの明るさを保ちながらも、焦りの色が見え隠れする。


「しゅう、そう言ってこの子が本当に困ってるだけの普通の子だったらどうするの?」

コトネが淡々と返しながら布を替えた。その仕草は慣れているようで、丁寧だった。


しゅうが唇を噛み、視線をエリオスに向ける。

「分かってるよ。でも、エリオスがまた危険な目に遭ったら困るじゃん!」

その声に真剣さがこもり、コトネは少し驚いたように彼女を見た。


「二人とも、俺なら大丈夫だ。そこまで心配しなくてもいい。」

エリオスが軽く振り返り、苦笑いを浮かべた。その一言で場の空気が緩んだように見えたが、しゅうとコトネの視線は未だ鋭い。


その時だった。

「……ぅ……ん……」

ベッドの少女が微かに声を漏らした。


三人は一斉に彼女に注目する。閉じられていた瞳がゆっくりと開かれ、赤い宝石のように輝く瞳が現れた。


「ここは……?」

少女がか細い声で呟く。その声は澄んでおり、耳に心地よく響いた。


「ここは宿屋だよ。『月の宿』って名前の場所。」

コトネが柔らかく説明する。


少女はぼんやりと天井を見つめ、しばらく呆然としていたが、やがて視線を動かしエリオスを見ると、目を見開いた。

「……そなたらが助けたのか?」


「そうだけど……君、大丈夫か?体は痛くない?」

エリオスが一歩近づいて問いかけると、少女は何かを確認するように自分の手を見つめ、それから少し戸惑ったように笑った。


その様子を見て、しゅうは視線を逸らしながら低く呟いた。

「……私だって、ちゃんと手伝ったのに。」


コトネは口元に手を当てて小さく笑う。

「しゅうも優しいんだから、それでいいじゃない。」


しかしその言葉にしゅうは肩をすくめ、少しむっとした顔をする。

「ふん、別に。私は別に……」


エリオスが彼女たちの会話に気づき、苦笑しながら二人に言った。

「二人とも、喧嘩しないでくれよ。」


その声に少女も微笑みを浮かべた。

「……そなたたち、仲が良いのな。」


エリオスたちが気まずそうに顔を見合わせた瞬間、少女はふと自分の名を思い出したかのように、静かに告げた。

「わらわの名前は……ポルフィ・M・13。」


その名前が持つ意味を、エリオスたちはまだ知らない。ただ、その夜が始まりに過ぎないことを感じさせるほど、彼女の瞳には不思議な力が宿っていた――。

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