第二十三話:影の迷宮
エリオスたちは遺跡の最奥にたどり着いた。そこは巨大な広間で、中央には闇の魔法陣が不気味に輝いている。周囲にはいくつもの石柱が立ち並び、天井からは黒い液体のようなものが滴り落ちていた。
「ここが……奴の本拠地ってわけね。」
コトネが杖を握りしめ、魔法の準備を整える。
「見たことないくらい不気味だね……。」
しゅうが辺りを見渡しながら呟く。
その時、広間の奥から低い声が響いた。
「ここまで来るとは……愚か者たちよ。」
闇の中から現れたのは、全身を黒いマントで包んだ男――シャドウエクリプスだった。彼の周囲には闇の渦が漂い、その中で無数の影が形を変えている。
「お前がシャドウエクリプスか!」
エリオスが剣を構えて叫ぶ。
「その通りだ。そしてお前たちは、この地で朽ち果てる運命だ。」
シャドウエクリプスが手を掲げると、闇の魔法陣がさらに輝きを増し、黒い霧が広間全体に広がった。
「さあ、精霊よ……闇と混沌の力を振るい、この者たちを滅ぼせ!シャドウスパイラル、降臨せよ!」
魔法陣の中心から生まれたのは、巨大な影の蛇――シャドウスパイラル。闇でできたその体は、空間を歪ませるほどの圧倒的な力を放っていた。
「で、でかい……!どうするの、これ?」
しゅうが震えた声で呟く。
「怯むな!俺たち全員で戦うんだ!」
エリオスが剣を構え、二人に指示を出す。
「しゅう、遠距離から炎で牽制してくれ!コトネ、光魔法で奴の動きを封じる!」
「分かった!燃え広がれ、紅蓮の床よ。炎の罠となり、敵を捉えよ――フレイム・ブレイズ!」
しゅうの魔法で広間の床一帯に炎が広がり、シャドウスパイラルの動きを制限する。しかし、その巨体は炎をものともせず突進してきた。
「くっ、こんなに効かないなんて!」
「光で弱らせるわ!神聖光輝の刃よ、暗黒を斬り裂き、不浄なる者を裁け――レイ・ブレード!」
コトネの放った光の刃がシャドウスパイラルの体を切り裂き、黒い霧が飛び散る。しかし、傷を受けてもすぐに体を再構成するように再生していく。
「再生してる……これじゃ、埒が明かない!」
しゅうが悔しそうに叫ぶ。
「コトネ、しゅう、一旦防御を固めろ!敵の弱点を探す!」
エリオスが叫び、剣を振り上げる。
「ヴァンガード・スラッシュ!」
斬撃がシャドウスパイラルの頭部に命中するが、衝撃を吸収するように闇の体が弾力を持って跳ね返す。
「無駄だ。お前たちの攻撃など、この精霊には通じない。」
シャドウエクリプスが嘲笑を浮かべながら呪文を唱え始める。
「闇よ、全てを包み、希望を断て――シャドウ・バインド!」
広間全体が黒い蔦に包まれ、エリオスたちの動きを封じようとする。
「そんなの、させない!光の盾よ、守護の力を与えよ――ライト・シールド!」
コトネの光の壁が蔦を弾き、何とか動きを保つ。
「こっちだって本気でやるよ!灼熱の球体よ、我が力を乗せ、敵を焼き尽くせ――ファイア・ボルト!」
しゅうの火球がシャドウエクリプスを狙うが、彼の周囲に漂う闇が攻撃を吸収してしまう。
「無駄だ。私は闇そのもの……お前たちに届く術はない。」
エリオスは剣を握りしめ、右手に刻まれた紋章を見つめた。
「ネクロス……この状況を打破する力を貸してくれ。」
低い声がエリオスの頭に響く。
「ふん、ついに頼るか。我が力を解放すれば、この闇の蛇など消し飛ぶだろう。」
「虚無断界をわすれたのか……」
「…………」
「永久とこしえの闇よ、万象を呑み尽くし、滅びし大地に断界を刻め
――無限の刃よ、虚無を裂き、道を切り開け! 虚無断界!」
巨大な黒い刃がシャドウスパイラルに襲い掛かり、その体を一刀両断する。影の蛇は消滅し、黒い霧となって消え去った。
シャドウスパイラルを失ったシャドウエクリプスは、膝をついて呻く。
「この私が……こんな小僧どもに……!」
「まだ終わりじゃない!」
エリオスが最後の力を振り絞り、シャドウエクリプスに突撃する。剣を振り下ろすと、彼の体は霧となり、広間から消えた。
「逃げたか……!」
エリオスは肩で息をしながら剣を下ろした。
「エリオス、大丈夫?」
コトネが駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。
「うん……無理はしてない。」
「またそんなこと言って!絶対無理してるよね!」
しゅうが詰め寄るように言い、二人の間でエリオスを取り合うような形になる。
「だ、大丈夫だってば……。」
エリオスが苦笑いしながら言うと、二人はようやく落ち着いた。
エリオスたちは遺跡を後にし、疲労を抱えながらも無事に帰還した。
しかし、シャドウエクリプスとの戦いは、シンジゲートとのさらなる激闘の始まりを示していた。
「これからもっと強い敵が来る。でも、俺たちは負けない。」
エリオスは仲間たちを見渡し、静かに誓った。
「もちろん、私たちがいるからね。」
コトネが優しく微笑む。
「僕も絶対負けないよ!エリオス、次も一緒に頑張ろう!」
しゅうが拳を突き上げる。
新たな戦いへの決意を胸に、エリオスたちは王都へと帰還した――。
「はぁ~、やっと戻れた!」
しゅうが大きく伸びをしながら、特務部隊宿舎のドアを開け放つ。その隣でコトネが荷物を下ろしながら微笑む。
「ほんと、無事に帰れてよかったね。今回の戦い、しゅうもかなり活躍したし。」
「お、コトネに褒められるなんて珍しいじゃん!えへへ、僕ってやっぱり頼れるよね!」
しゅうが得意げに胸を張ると、コトネが少し呆れたように笑う。
「でも、暴走しかけたところをエリオスが止めてくれたから助かったんじゃない?」
「あっ、それは……まあ、エリオスには感謝してるけどさ!」
しゅうが慌てて言い訳する様子を見て、コトネは苦笑する。
一方、エリオスは窓際に立ち、外を眺めていた。
「エリオス、何か考え事?」
コトネが声をかけると、エリオスは少し振り返りながら答えた。
「次の戦いのことだよ。シャドウエクリプスとの戦いで、俺たちの力がまだ足りないことを思い知った。もっと強くならないと、次はやられる。」
その言葉に、コトネが真剣な表情で頷く。
「確かに、次に出てくる敵がさらに強かったら……準備が必要だね。でも、私たちがいるんだから、エリオスも一人で背負わないでよ。」
「そうそう!みんなでやるのがチームってもんでしょ?」
しゅうも口を挟む。
「それに、僕だってエリオスを助けるくらいには強いんだからね!」
「しゅうが助けたことなんてあったっけ?」
コトネがからかうように言うと、しゅうが頬を膨らませて抗議する。
「あるでしょ!僕が魔法で敵を足止めして、その間にエリオスがとどめを刺したじゃん!」
「それってただのサポートだよね?」
「サポートも大事なの!っていうか、エリオス、僕のこと頼りにしてるよね?」
「え、俺?」
突然話を振られたエリオスが困惑すると、コトネが横から割り込む。
「そりゃあ、しゅうよりは私の方が頼りになるでしょ?私の魔法がなかったら、今回の闇の蛇だって封じられなかったんだから。」
「ちょ、待ってよ!そんなの言い方がずるい!」
二人がエリオスを挟んで言い合いを始める。エリオスは苦笑しながら二人を見つめる。
「お前たち……こういう時くらい仲良くしてくれよ。」
「エリオスがどっちを頼りにしてるかによるけどね!」
コトネが少し得意げに言うと、しゅうも負けじと叫ぶ。
「そうだよ!どっちがエリオスの力になってるのか、はっきりしてよ!」
エリオスは頭をかきながら苦笑するしかなかった。
翌朝、エリオスたちは訓練場でそれぞれの技を磨いていた。
コトネは光の魔法を、しゅうは炎の魔法をそれぞれ繰り出し、模擬戦を繰り返している。
「神聖光輝の刃よ、暗黒を斬り裂き、不浄なる者を裁け――レイ・ブレード!」
コトネの光の刃が模擬戦用の標的を切り裂くと、しゅうがすかさず声を上げる。
「次は僕の番!灼熱の球体よ、我が力を乗せ、敵を焼き尽くせ――ファイア・ボルト!」
中型の火球が標的に命中し、爆発を引き起こす。
「ふふん、僕の方が威力あるでしょ?」
「威力だけじゃ勝てないのよ。ちゃんと敵の動きを止めるタイミングを考えないと。」
「えー、それはエリオスがやるから大丈夫じゃん?」
「そんなんじゃエリオスの足を引っ張るよ。」
「むっ……じゃあ僕の方が先にエリオスを助ける場面を作ればいいんでしょ!」
二人のやり取りを横目に、エリオスは剣を振るいながら呟く。
「本当に、仲がいいんだか悪いんだか……。」
―――――――
その夜、三人は宿舎で次の任務の準備をしていた。
荷物を整理しながら、しゅうがふと呟く。
「ねえ、次はどんな敵が出てくるんだろうね?」
「きっと、もっと厄介な奴だろうな。」
エリオスが答えると、コトネが静かに付け加える。
「でも、エリオスがいるなら大丈夫だよね。」
「それ、僕も思った!」
しゅうがすかさず同意し、コトネを見つめる。
「え、何?しゅうが珍しく素直じゃん。」
「別に……僕だって素直な時はあるよ!」
その様子を見て、エリオスは笑みを浮かべた。
「お前たちが頼りにしてくれるなら、俺も全力を尽くすよ。次の任務でも、絶対に守ってみせる。」
二人はその言葉に、少しだけ頬を赤らめながら頷いた。
こうして、三人は次なる戦いへの準備を整えつつ、絆を深めていった――。
翌朝、特務部隊本部に緊急警報が鳴り響いた。響き渡る鐘の音にエリオスたちは目を覚まし、急いで訓練用の装備を整える。
「警報……どうしてこんな朝早くに?」
コトネが戸惑いながらも杖を握りしめると、しゅうが窓を指さして叫ぶ。
「見て!あれ、王都の防壁が炎に包まれてる!」
エリオスが窓から外を見下ろすと、王都の北門付近が何者かの襲撃を受けていた。炎の柱がいくつも立ち上り、黒い煙が空を覆っている。
「……シンジゲートかもしれない。」
エリオスが低く呟くと、宿舎の扉が勢いよく開いた。
「お前たち!すぐに北門へ向かえ!」
現れたのはリュカス団長だった。その表情は険しく、全身から戦場での緊張感が漂っている。
「団長!一体何が起きてるんですか?」
コトネが問いかけると、リュカスは地図を広げながら説明を始めた。
リュカス:「敵は王都南門付近に集結している。確認されたシンジゲートの幹部は3人。それぞれが強力な精霊を操り、周辺を制圧している。こちらも全力で対応するぞ!」
エリオス:「3人も……それぞれがグラウンド・ブレイカーやシャドウメイジと同等かそれ以上の実力なのか?」
リュカスは険しい表情で頷く。
リュカス:「その可能性が高い。特に、今回確認された幹部の一人“ブラッドヘイズ”は極めて危険だ。奴の精霊は“血霧の魔獣”――その霧に触れた者は命を削られると言われている。」
しゅう:「えっ、それって私たちの攻撃も届きにくいってこと?」
コトネ:「……エリオス、作戦を立てないと無謀に突っ込むのは危険すぎるよ。」
リュカス:「その通りだ。しかし、奴らを放置すれば、王都そのものが危機に晒される。我々に与えられた時間は少ない。先手を取って叩くしかない。」
「またあいつか……!」
エリオスが拳を握りしめる。
リュカスが剣を抜き、力強い声で続けた。
「行くぞ!王都を守るため、全力を尽くせ!」
敵は多い…




