第二十話:超える力
前回までのあらすじ
ネクロスに急に話をかけられる…
「お前はまだ、虚無断界の本当の力を理解していない。この技はお前が望めば、今すぐにでも使える」
「何……?」
驚くエリオスに、ネクロスは追い打ちをかけるように嘲笑する。
「連発はできないが、それ以外に制限はない。それすら知らなかったとは……本当に未熟な主だな」
エリオスは悔しげに拳を握りしめながら反論する。
「それでも、安易に頼るわけにはいかない。自分たちの力で戦える道を探すんだ」
「ほう、見上げた決意だ。しかし、今のままでは勝てんぞ?」
ネクロスの声が消えると同時に、エリオスは息を整え、仲間たちに視線を向けた。
コトネがエリオスに歩み寄り、心配そうに声を掛ける。
「エリオス、大丈夫……?」
「ああ。ネクロスに煽られただけだ」
しゅうが興味津々で聞き返す。
「煽られたって……どんな話?」
「……虚無断界のことだよ。どうやら、すぐにでも使えるらしい。ただし、連発は無理だ。それ以上に、力の使い方を間違えれば、俺たち全員が危険に晒される」
「そうだったんだ……でも、その力が使えるなら、勝つチャンスがあるんじゃない?」
しゅうの言葉に、エリオスは真剣な表情で頷いた。
「そのチャンスを生かすために、万全の準備をするんだ。しゅうとアリサは遠距離から精霊を削る役目を。コトネは光魔法で精霊の力を封じる。俺は最後に虚無断界で決める」
コトネが不安げに聞き返す。
「でも、それってエリオスに全部負担がいくんじゃ……」
「大丈夫だ。みんなが支えてくれるなら、俺は必ずやり遂げる」
「分かった……全力でサポートするから、無理だけはしないでね」
全員が決意を新たにし、広間への最後の戦いに向かった。
広間に戻ると、シャドウメイジとダスクウィングがすでに待ち構えていた。
「戻ってきたか……死に急ぎたいらしいな」
シャドウメイジが冷笑を浮かべる中、エリオスが剣を構える。
「俺たちは負けない。ここでお前を止める!」
「ほう……では、見せてもらおうか」
シャドウメイジが指を鳴らすと、ダスクウィングが巨大な翼を広げ、闇の霧を広間全体に広げた。
「まずは私が光で霧を裂く!」
コトネが杖を掲げ、詠唱を始める。
「神聖光輝の刃よ、暗黒を斬り裂き、不浄なる者を裁け――レイ・ブレード!」
光の刃が精霊に直撃し、その体を揺るがす。しかし、シャドウメイジが冷笑しながら呪文を唱え、闇の霧をさらに濃くする。
「小細工が通じると思うな。闇の精霊は無限に再生する!」
しゅうが援護に入る。
「そんなの、やられる前に倒すしかないよ!空に燃え立つ炎の星々よ、
敵を焼き払い、大地に痕を刻め。我が命を灯火とし、紅蓮の雨となりて降り注げ!
インフェルノ・レイン」
炎の嵐が霧を切り裂き、ダスクウィングを包む。その隙に、アリサが水魔法を発動する。
「冷たき刃よ、闇を切り裂け――フローズン・スラッシュ!」
氷の刃が精霊の翼を直撃し、一瞬その動きを止めた。
「今だ、みんな離れて!」
エリオスが叫び、右手の紋章が輝き始める。
「永久とこしえの闇よ、万象を呑み尽くし、滅びし大地に断界を刻め
――無限の刃よ、虚無を裂き、道を切り開け! 虚無断界!」
剣に収束された黒い霧が巨大な刃となり、エリオスがそれを振り下ろすと、広間全体に衝撃波が走った。
「ギィィィ……!」
ダスクウィングが苦悶の声を上げ、その体が黒い霧に飲み込まれる。続いて、シャドウメイジが膝をつき、闇の力を失う。
「この私が……敗れるとは……」
彼が悔しげに呟いた瞬間、魔法陣が崩れ、彼の姿は霧の中に消えた。
「やった……終わったんだね!」
コトネが喜びの声を上げるが、エリオスは疲れた表情で膝をつく。
「エリオス、大丈夫?」
「平気だ……虚無断界を使っただけで、この程度だよ」
「そんなの平気じゃないよ!」
コトネが涙ぐみながら叱ると、エリオスは安堵の笑みを浮かべた。
「ありがとう……でも、みんながいたから勝てたんだ」
遺跡の戦いを終えたエリオスたちは、荒れ果てたグリームウッド村に戻ってきた。村は再び静けさを取り戻していたが、魔物の襲撃による爪痕はまだ残っている。壊れた家屋や焦げた地面を見て、エリオスは拳を握りしめた。
「……俺たちがもっと早く来ていれば、ここまで酷くならなかったかもしれない」
その言葉に、コトネが優しく微笑みながら首を振る。
「エリオス、村の人たちは助けられたんだよ。遺跡の魔物も止めたんだから、十分だよ」
「そうだよ!この状況を作ったのはシンジゲートだし、責任を感じる必要はないよ!」
しゅうが明るい声で励ますと、アリサも静かに言葉を添える。
「でも、次に同じことが起きないようにするには、もっと強くならないといけないね」
エリオスは仲間たちの言葉に頷き、剣を握り直した。
「そうだな。俺たちはこれからも力をつけて、どんな敵でも倒せるようにならないといけない」
村の中央広場に足を運ぶと、村長が駆け寄ってきた。
「エリオスさん、皆さん……本当にありがとうございます。遺跡の魔物が止まったおかげで、村も平和を取り戻しました!」
村長が深く頭を下げる。エリオスは少し照れくさそうに返事をした。
「これ以上被害が出なくてよかったです。でも、また魔物が現れる可能性もあります。王都に報告して、監視を強化するべきだと思います」
「もちろんです。すぐに対応します……。これを、どうか受け取ってください」
村長が差し出したのは、村で集められたわずかな報酬だった。
「これは……」
「少ないかもしれませんが、村人たちからの感謝の印です」
コトネが微笑みながらそれを受け取り、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。村の皆さんの気持ち、大切にします」
翌朝、エリオスたちは王都へ戻るために村を出発した。道中、しゅうが突然話を切り出す。
「そういえば、エリオス。虚無断界を使った感想はどうだった?」
「感想って……別に特別なことはない。ただ、あれを使うとすごく疲れる」
「へえ、連発できない代わりに疲れるくらいで済むんだ。便利だけど、調子に乗らないでね!」
しゅうが茶化すように言うと、コトネが真面目な顔で言葉を添える。
「でも、ネクロスの力を頻繁に使うのは危険だよね。いざという時だけにしないと……」
「分かってるよ。これは最終手段だ」
エリオスは剣の柄に手を置きながら答えた。
「それよりも、俺たち自身の力で戦えるようになるのが一番だ」
アリサが微笑みながら頷いた。
「次の任務に向けて、もっと訓練を積もうね」
王都に戻ったエリオスたちは、特務部隊の本部でリュカス団長に任務の報告を行った。
「ダスクウィングを倒しただけでなく、遺跡の魔物の発生も止めたか……見事だ」
リュカス団長が腕を組みながら頷く。
「今回の任務は合格だ。だが、シンジゲートの幹部が相手だったとはな……今後、さらに厳しい戦いになるだろう」
「団長、シンジゲートの幹部は全部で8人いると聞きました。その全員が今回のように強いんですか?」
エリオスが尋ねると、リュカスは少し険しい表情を浮かべた。
「そうだ。だが、中には今回のシャドウメイジや以前のグラウンド・ブレイカーを遥かに超える力を持つ者もいる」
しゅうが少し怯えたように呟く。
「それって……次に出てくる奴がもっと強かったら、どうするの?」
リュカスはその言葉に答えるように、静かに言った。
「そのために、お前たちには特務部隊の訓練でさらに力を付けてもらう。そして、全員で生き残る戦術を学ぶんだ」
エリオスたちは団長の言葉を胸に刻み、これからの戦いに備える決意を新たにした。




