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第二話:運命の犬と悪魔の契約

現代日本に住む主人公、藤堂蓮とうどう れんは、ブラック企業で働く平凡なサラリーマン。ある日、残業帰りに交通事故で命を落とす。しかしその瞬間、謎の女性(「運命の管理者」と名乗る者)に出会う。彼女は蓮に、「滅びゆく異世界を救うための力を持つ存在として選ばれた」と告げる。

歩き始めて数分、蓮――エリオスはふと奇妙な音を耳にした。


「うぅ……うーん!」


茂みの中からかすかに唸り声が聞こえる。彼が近づくと、そこには一匹の犬が絡まったツタに捕らわれていた。


その犬は、白い毛並みと片方だけ黒い耳を持つ中型犬だった。その目は賢そうで、エリオスをじっと見つめている。


「なんだ、お前も困ってるのか」


エリオスは手を伸ばし、慎重にツタを解いてやった。犬は自由になると、体をぶるぶると震わせ、彼の足元に座り込んだ。


「……しゅうって名前にしようかな。なんとなくだけど、そんな顔してる」


犬は嬉しそうに尻尾を振り、エリオスの手を舐めた。

しゅうは軽快に先を行き、エリオスを振り返る。片耳が黒いその犬は、まるで「ついて来い」と言わんばかりに尻尾を振っている。


「お前、本当に案内してるつもりなのか?」


エリオスは苦笑しながら問いかけるが、しゅうが応えるわけもない。それでも、その行動には確かに意図が感じられた。


道なき道を歩いているようでいて、しゅうが選ぶ道筋には迷いがなかった。不思議な感覚だった。やがて森を抜けた先に、ちらちらと灯りが見え始める。


「……村か。」


木々の間から現れたのは、小さな集落だった。草葺き屋根の家々が並び、所々に畑が広がっている。村の中央には広場と石造りの祠があり、そこには何かを祈るようにして座る人々の姿があった。


村に近づくと、エリオスとしゅうの姿に気付いた村人たちが動きを止め、一斉にこちらを振り返った。その目には警戒と好奇が混じり、ざわめきが広がる。


「見たことのない奴だな。」

「犬を連れてる……旅人か?」


エリオスは戸惑いつつも、しゅうが堂々と村に入っていくのを見て、後に続いた。


「ようこそ、旅人よ。」


広場の中央にいた白髪の老人が杖をつきながら歩み寄ってきた。その瞳は穏やかだが、どこかこちらを見透かすような鋭さがある。


「ええ、森を抜けて、ここにたどり着きました。道案内をしてくれたのは、この犬です。」


しゅうを指差すと、村長は目を細め、何かを確かめるようにうなずいた。


「それは興味深い。君がこの村に来たのも、何かの導きだろう。ここは精霊を祀る村。訪れる者には試練と祝福が与えられる。」


「試練?」


エリオスの疑問に答える代わりに、村長は石造りの祠を指差した。


「今日ちょうど、儀式が行われる。精霊石に触れることで、精霊との契約が結ばれることもあれば、何も起こらぬこともある。だが、旅人がこの儀式に参加するのは稀なことだ。」


「参加……?」


「君の運命がここで決まるかもしれない。何事も経験と思って受けてみるのも良いだろう。」


エリオスは村長の言葉に妙な重みを感じながらも、頷いた。


その晩、村の一角に用意された簡素な宿で、エリオスはしゅうと向き合っていた。


「精霊との契約だなんて、大げさな話だよな。」


しゅうは彼の足元で丸くなりながら、尻尾を一振りする。犬ながら何かを知っているような仕草に、エリオスは思わず苦笑した。


村長が杖をつきながら振り返る。


「この精霊石に手をかざし、心を開いてみなさい。それが契約の始まりだ。」


エリオスは祠に近づき、精霊石を見つめた。その虹色に輝く結晶から放たれる光は、どこか懐かしく、しかし重々しい。


「精霊よ、この若者に力を授けたまえ……」


エリオスが石に手をかざすと、突然、冷たい風が吹き荒れた。周囲が暗くなり、石が黒く染まる。


「……これは……滅びの精霊……!」


村人たちは口々に叫びながら後ずさる。黒い霧の中から現れたのは、巨大な漆黒の狼――ネクロスだった。その瞳は赤く光り、何者をも威圧するような恐ろしい姿だった。


「お前が私を呼び覚ましたのか、契約者よ」


ネクロスの声は低く響き渡り、全身に恐怖を感じさせた。


「お前が望むなら、私の力を授けよう。だが、その代償は――」


エリオスは震えながらもその言葉を遮った。


「構わない……その力を、俺にくれ!」


その瞬間、黒い紋章が彼の右手に刻まれ、契約が成立した。

契約後、村長は震えながらエリオスに語りかけた。


「ネクロス……それは、滅びの象徴として恐れられる精霊。かつて、この世界を滅亡の危機に陥れた存在だ」


「そんなヤバい奴なのか……」


村長は続ける。


「その対極に存在するのが、炎の神獣“イグニス”だ。イグニスは創造と守護を司り、この世界の英雄が契約した精霊とされる。だが、その力を引き出すのは極めて困難と言われている」


「イグニス……英雄の精霊か」


エリオスは静かにその名前を胸に刻み込んだ。


儀式の翌日、村人たちは口々にエリオスを非難した。


「滅びの精霊を連れている奴なんて、村に置いておけない!」


「出て行け!」


エリオスはしゅうと共に村を後にした。だが、彼の胸には確かな決意があった。


「この力をどう使うか、それは俺が決める。しゅう、行くぞ!」


しゅうが吠え、彼の隣を駆け出した。エリオスの旅は、ここから始まる――。


2024年12月9日 追記追加

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