勝利
数秒間の静寂が漂い、二人の間に明らかな壁ができていたことを覚えている。
私は数歩引き下がり、そして────
────その壁をぶち破るように、私は駆け出した。
圧倒的な速さで彼が判断する前に距離を縮める。そして、懐から取り出したナイフを三本ほど投げる。
それらはまるで操り人形のように、空中で動き出す。『自動追尾ナイフ』とでも呼ぼう。
そのナイフは火花を発しながら飛び出し、勝本へと飛んでいく。しかし、それらは突然地面に落ちた。あまりにも早い。勝本の斬撃によるものだろう。
しかし、勝本に攻撃を当てることが目的ではない。
ナイフから飛び出した火花は、地面に落ちていたワイヤーに引火した。
火薬を仕込んでいたワイヤーは一斉に燃え上がり、爆発音を発しながら燃え盛る。
そして、その火の海の中に閃光弾を投げ込んだ。
起爆までの時間は一秒。私は両目と片耳を腕で押さえる。そして、瞬時に閃光弾は爆発した。それと共に、私の左耳の鼓膜は破裂した。
空間に黒い煙が舞い上がり、もう姿がはっきり視認できない。あとは勘を頼りにするのみ。
私はグラディウスを手に握りしめ、そして────
────勝本の胸に突き刺した。
…………この状況に気付くまで、十秒ほどかかっただろう。
私は勝本を殺す気はなかった。しかし、私の手に持つ西洋剣は、彼の胸に確かに刺さっている。
勝本の顔が炎に照らされた。その顔は、明らかな満足の表情。
私は確かに勝本に勝った。
────しかし、私は同時に勝本に負けていた。
しばらくして、炎が消えてゆく。それと共に彼の顔は陰になり、表情を読み取る事すらできなくなった。
「……勝てたじゃないか」
目の前の陰から聞こえる声。
勝本の胸を突き刺してから三十秒ほど経って、やっと私は状況を整理できた。
勝本は、勝本は、これが狙いだった。私の攻撃を防いでいたのは、全て戦略だ。己が死ぬための。
騙されていた。私は、この攻撃もどうせ防がれるだろうと、次の手を考えていた。しかし、勝本は防がず、明らかに致命傷となる部位に剣が刺さってしまった。
私はすぐに止血を開始した。場所的に心臓は避けている。そう自分に言い聞かせ、ポケットから医療道具を取り出した。
「……やめろ。私は死ねるんだ」
「………………」
冷汗が何粒も垂れる。
剣の周りの服を引き裂き、出血部を確認。
勝本の背中を布で強く抑えながら剣を引き抜き、すぐに前面の傷を縫合バンドを使って縫った。後ろの傷も同じように急いで縫う。
今更だが、明らかに後ろの傷から縫った方がよかっただろう。しかし、そんな簡単な判断に失敗するほど、私は焦っていた。
「……自らの手でやったことだろう?」
「……私は殺す気じゃなかった……死なないで……死なないでください!!」
これほどまでに弱さを出したのは初めてだった。
傷の上に布を被せ、その上から強く包帯を巻きつける。もう既に、両手は血まみれだった。しかし、まだ終わらない。
脈が弱っている。このままでは、もう三分も立たずに……
────その瞬間、勝本の左肩が吹き飛んだ。
「あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ッ”!!!!!!」
「……は?」
返り血が私の顔を濡らした。
銃弾が音を鳴らし、地面に転がってくる。スナイパー用の弾丸。狙撃された。
すぐに銃弾が飛んできた方向を振り返ったが、もうそこに何者の姿もない。片耳が潰れていたせいか、侵入に気付けなかった。
「う、嘘だ……嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ」
すぐに止血させようと、ロープを掴んだその瞬間、勝本の残った右手が、私の手を掴んだ。
薄明りの中、最後に見えた勝本の表情。それは……言葉にもできない。
私は気付く。もう、手遅れだと。
「…………」
涙すら出なかった。ただ、失ったという気持ちだけが心を埋め尽くす。
「…………黒柳」
私の腕を掴んでいた勝本の右手が、地面に落ちる。
「…………私が知ったこと……知りたいなら……もう時期知れるだろう……」
「……お……教えてください」
冷静な判断は、もう何一つできない。しかし、日神最強と言われた男の遺言は確実に聞き逃してはいけない。
「……連合国に…………裏切ろうとする者が居る……」
掠れた声だった。
「…………もう時期……お前に任務が……飛び込んで…………くるだろう…………」
声も涙も何も出ない。私自身は、枯れた花だ。
「……お前なら…………大丈……夫……」
勝本自身も、枯れた花だ。私からもし涙が出ていたら、彼に水を与えれたのかもしれない。しかし、もう無駄だった。
二〇六三年。勝本は死んだ。
以上が最初の任務の全貌だ。最初から、私は大切な人間を失った。
勝本が殺された後、殺した野郎を数週間ほど探したが、見つからなかった。
そんな時に訪れたのが、次の任務。勝本が失敗したとされる、コアセメ合衆国の研究所への侵入。そして、それはおそらく勝本が最後に話した任務のこと。
私は、その任務へと挑むことになる。
しかし、今日は話し疲れた。これくらいでやめよう。
じゃぁな。次に会うときまで。




