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三殺事件 ~The End of World~  作者: Red
第十三章 勝本と弟子
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勝利

 数秒間の静寂が漂い、二人の間に明らかな壁ができていたことを覚えている。

 私は数歩引き下がり、そして────


 ────その壁をぶち破るように、私は駆け出した。


 圧倒的な速さで彼が判断する前に距離を縮める。そして、ふところから取り出したナイフを三本ほど投げる。

 それらはまるで操り人形のように、空中で動き出す。『自動追尾ナイフ』とでも呼ぼう。


 そのナイフは火花を発しながら飛び出し、勝本へと飛んでいく。しかし、それらは突然地面に落ちた。あまりにも早い。勝本の斬撃によるものだろう。

 しかし、勝本に攻撃を当てることが目的ではない。


 ナイフから飛び出した火花は、地面に落ちていたワイヤーに引火した。

 火薬を仕込んでいたワイヤーは一斉に燃え上がり、爆発音を発しながら燃え盛る。


 そして、その火の海の中に閃光弾を投げ込んだ。

 起爆までの時間は一秒。私は両目と片耳を腕で押さえる。そして、瞬時に閃光弾は爆発した。それと共に、私の左耳の鼓膜こまくは破裂した。


 空間に黒い煙が舞い上がり、もう姿がはっきり視認できない。あとは勘を頼りにするのみ。

 私はグラディウスを手に握りしめ、そして────







 ────勝本の胸に突き刺した。



 …………この状況に気付くまで、十秒ほどかかっただろう。


 私は勝本を殺す気はなかった。しかし、私の手に持つ西洋剣は、彼の胸に確かに刺さっている。


 勝本の顔が炎に照らされた。その顔は、明らかな満足の表情。


 私は確かに勝本に勝った。


 ────しかし、私は同時に勝本に負けていた。



 しばらくして、炎が消えてゆく。それと共に彼の顔は陰になり、表情を読み取る事すらできなくなった。


「……勝てたじゃないか」


 目の前の陰から聞こえる声。


 勝本の胸を突き刺してから三十秒ほど経って、やっと私は状況を整理できた。


 勝本は、勝本は、これが狙いだった。私の攻撃を防いでいたのは、全て戦略だ。己が死ぬための。

 騙されていた。私は、この攻撃もどうせ防がれるだろうと、次の手を考えていた。しかし、勝本は防がず、明らかに致命傷となる部位に剣が刺さってしまった。


 私はすぐに止血を開始した。場所的に心臓は避けている。そう自分に言い聞かせ、ポケットから医療道具を取り出した。


「……やめろ。私は死ねるんだ」

「………………」


 冷汗が何粒も垂れる。


 剣の周りの服を引き裂き、出血部を確認。

 勝本の背中を布で強く抑えながら剣を引き抜き、すぐに前面の傷を縫合バンドを使って縫った。後ろの傷も同じように急いで縫う。

 今更だが、明らかに後ろの傷から縫った方がよかっただろう。しかし、そんな簡単な判断に失敗するほど、私は焦っていた。


「……自らの手でやったことだろう?」

「……私は殺す気じゃなかった……死なないで……死なないでください!!」


 これほどまでに弱さを出したのは初めてだった。

 傷の上に布を被せ、その上から強く包帯を巻きつける。もう既に、両手は血まみれだった。しかし、まだ終わらない。

 脈が弱っている。このままでは、もう三分も立たずに……
























 ────その瞬間、勝本の左肩が吹き飛んだ。



「あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ッ”!!!!!!」

「……は?」


 返り血が私の顔を濡らした。

 銃弾が音を鳴らし、地面に転がってくる。スナイパー用の弾丸。狙撃された。


 すぐに銃弾が飛んできた方向を振り返ったが、もうそこに何者の姿もない。片耳が潰れていたせいか、侵入に気付けなかった。


「う、嘘だ……嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ」


 すぐに止血させようと、ロープを掴んだその瞬間、勝本の残った右手が、私の手を掴んだ。

 薄明りの中、最後に見えた勝本の表情。それは……言葉にもできない。


 私は気付く。もう、手遅れだと。


「…………」


 涙すら出なかった。ただ、失ったという気持ちだけが心を埋め尽くす。



「…………黒柳」



 私の腕を掴んでいた勝本の右手が、地面に落ちる。


「…………私が知ったこと……知りたいなら……もう時期知れるだろう……」

「……お……教えてください」


 冷静な判断は、もう何一つできない。しかし、日神最強と言われた男の遺言は確実に聞き逃してはいけない。


「……連合国に…………裏切ろうとする者が居る……」


 掠れた声だった。


「…………もう時期……お前に任務が……飛び込んで…………くるだろう…………」


 声も涙も何も出ない。私自身は、枯れた花だ。


「……お前なら…………大丈……夫……」


 勝本自身も、枯れた花だ。私からもし涙が出ていたら、彼に水を与えれたのかもしれない。しかし、もう無駄だった。



 二〇六三年。勝本は死んだ。

 以上が最初の任務の全貌ぜんぼうだ。最初から、私は大切な人間を失った。


 勝本が殺された後、殺した野郎を数週間ほど探したが、見つからなかった。

 そんな時に訪れたのが、次の任務。勝本が失敗したとされる、コアセメ合衆国の研究所への侵入。そして、それはおそらく勝本が最後に話した任務のこと。


 私は、その任務へと挑むことになる。



 しかし、今日は話し疲れた。これくらいでやめよう。

 じゃぁな。次に会うときまで。


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