第四十七話 殺人鬼
「そ、そんな過去だったんだね、まぁ辛いよねぇ」
ベッドで横になっているバートリにアリスが言う。
「うん………やっとおもいだせたの………あとねむい」
「ま、まぁ今日くらいはもう寝ていいでしょ」
「そうするの……」
バートリはベッドにうつ伏せになった。枕で窒息しそうに思えるほどだ。
ここはバートリとアリスの秘密基地、戦いを終えたアリスとバートリは疲労のためそれぞれ倒れていた。
「にしても、ハロルドジョーンズって奴、バートリの所にも来てたんだね」
「うん、かおはきおくにないの」
「奇遇だね、私も顔は覚えてないんだよ。けど声がカッサカサだった覚えがある。いや、その覚えしかない」
「あはは……たしかにかさかさだったの……」
アリスはすくっと立ち上がり、近くにあった赤いマフラーを手に取った。
「……まきつけるき?」
というバートリの問いに対し
「巻きつける気」
と返すアリス。
「まぁ……いいや」
バートリは全てに身を任せた。
「………ぼく、こじいんにはいってたとき、あまえれなかったの」
バートリはそう話す。孤児院の記憶は殆どない。その理由は記憶に残るようなことがなかったからだ。
「だから……おねぇちゃんにあまえたいの」
「じゃぁ、私が沢山甘えてやるよ!」
アリスは慣れた手付きでバートリをマフラーで巻いている。思った以上に長い。体すらも巻きつけている。
「…………あれ、ちょ、ちょっとおねぇちゃん!?」
赤いマフラーがバートリの体をガッチリ固定した。
「アハハ!昔ルージュリによくこういうことしてたんだよ。懐かしいなぁ」
「ほ、ほどいて!」
「嫌だぁ!」
「お、おねぇちゃんせいかくかわりすぎ。であったときこんなんじゃなかったの」
「バートリだって出会った頃は感情死んでんのかってくらい無愛想だったじゃん!」
「かこのせいかくがまざっただけなの………あとほどいて」
アリスはバートリの言葉を完全に無視し、バートリの眠るベッドに飛び乗った。メキ、という音が鳴ったが気にしない。
「つかれてるんだし……はやくねたいの」
「じゃぁ添い寝してあげる」
「ほんとにおねぇちゃんそんなせいかくじゃなかったの……」
「甘えたいって言ったのはバートリだよ?」
「………そうだけど、あとほどいて」
「だから甘えてあげるってだけだよ」
「ほどいて」
「しかもバートリって可愛いじゃ〜ん!ルージュリそっくりで妹を思い出すし」
「ほどいて!」
「あ、ごめんごめん」
アリスはバートリを囲っている赤いマフラーを一部解き、マフラーを首にだけ巻かせた。
「いや〜、ほんとルージュリそっくり。記憶からどんどん湧き出る、ルージュリとの思い出……もう会えないんだよなぁ………」
「こんなこというのもなんだけど、ぼくがるーじゅりのかわり」
「まぁ双子ですっごい似てるからねぇ、でも本物のルージュリはあのジャックザリッパーに………バートリの親だって殺してるし許せない」
「………いや、ぼくのおやをころしてるのは、じゃっくじゃない」
「…………へ?」
アリスは驚いてバートリを見た。
「さっきもはなした。ぼくのおやをころしたのはおとこなの。ひゃくはちじゅうくらいの、くろかみのおおきなひとなの」
「わ、私は殺した人の顔を正確に見た事はないけど、ジャックザリッパー以外の殺人鬼?」
「うん、たぶんそうなの」
「………一応かなり前、親から聞いた話だけど、昔この大陸に三人の殺人鬼が居たって話を聞いた事がある。けど、もう十年も前の話だよ!?」
「もしそのひとたちがいまもかくれてそんざいしてたら?」
「………確かにその確率も十分あるね……け、けど王国軍数百人を一晩で消し去るような人間だよ?隠れる必要なんて……」
「もうそのひとたちもかなりのねんれい、じせだいにつなぐためにかくれたとかじゃないの」
「………まぁその話は定かじゃないって言われたけど、もし今存在してたら……」
「ぼくたちはそのひとにあやつられてるかもね」
バートリは寝返りを打ち、ベッドにうつ伏せになった。
「まぁ、そんなことかんがえてもむだなの。おやすみ」
「お、おやすみ」
バートリは夢の中に一瞬で入ったようだ。
(三人の殺人鬼……今も存在してたらか………もし私の親を殺したのがバートリの言う男だったら?)
アリスはいつもの如く悩み事をし始めた。と思った。
(ま、いいや。考えても無駄だよね)
アリスはそう結論付けた。
「おやすみ、バートリ」
アリスは目を瞑り、夢の中へと落ちて行った。
アリスとバートリの家の中に、一つの足音が生まれた。
「………」
足音の主である男は、アリスとバートリが寝るベッドの横の椅子に、ゆっくりと腰を下ろした。




