第四十五話 バートリの過去
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そうだよ、ぼく、守られてた。ずっとずっと守られてた。これまでのは架空の過去だ。捨てられてなんかない。
ぼくは……ぼくは………双子だったんだ。それも、財閥生まれの双子………。
ぼくは、スミス財閥に生まれた。凄いお金持ちの家、四番目に生まれた子供だ。双子だ。
思い出した。双子の相手はルージュリ・スミス、ぼくの名前はエリザベートなんかじゃない。バートリ・スミスだ。
ルージュリ、アリスの妹。繋がってたんだ。ぼくとルージュリは。
親の顔は思い出せない。けど、お母さんが金髪で、お父さんが紫髪だった。そんな中に生まれたぼくたちは、ルージュリが美しい金髪、ぼくが透き通るような紫髪だった。
家は狭かった。けど、そんな中送る生活は楽しかった。
子供が五人、凄い賑やかだったの。覚えている限りでは、毎日親と遊び、上の子と遊び、いい思い出しかないの。
親とよく編み物をしていたの。不器用なぼくの手を、お母さんが優しく支えてくれたの。最初に編んだのは赤いマフラー、これがさっき思い出すきっかけだったの。
こんな日々が壊れるとは思ってなかったの。
ぼくたちが五歳を迎える誕生日だったはず。悲劇が起きたの。
突然家の扉が開き、そこから黒髪の男が入ってきたの。
その男は殺気に溢れた黒い目をしていたの。怖かった。こわかった。さっきメリーの目を見て恐怖したのは、この事を思い出したからなの。
男は黒い大きなコートの中から大きな剣のような物を取り出したの。
お父さんはぼくたちを逃がすように誘導し、お母さんはその相手に立ちはだかった。その勇敢な姿、覚えてる。
男はこう言った。
「邪魔だ。俺に用があるのは奥の双子だ。邪魔をするな」
けどお母さんは全く動じなかった。冷静にこう返したの。
「失礼ね、この子達は私の家族なんだ。だからアンタが指一本触れる権利はないの。まずこの子に何の関係もないでしょう。さっさと出て行きなさい」
「………ルージュリ、此奴を寄越してくれればお前の命は助けてやる」
「断るね、絶対」
そうお母さんが言ってから一秒もしない間。
お母さんの腹を鋭い物が貫いた。
赤い鮮血がぼくの顔に降り注いだ。生暖かい生き血、こわかった。こわかった。こわかったの。
けど、こわくなかった。おかしい。自分がおかしくなった。
それから数秒の内にお父さんも殺された。当時のぼくには何も見えなかった。ただ、親が殺されたという事だけは分かった。
そして直感で感じたの。死ぬ、殺される。いやだ、いやだ。
男は子供をどんどんと殺し回った。悲鳴すらもあげる時間もなく、瞬く間に殺されたの。
五人も居た子供が、今の一瞬でぼくとルージュリの二人だけになった。
「………殺す気が失せた」
男はそう言ってぼくたちに何もせずに家を出て行ったの。
鮮血の水たまりがそこらじゅうに出来ていた。けど、何も感じなかった。
おいしそう。
そう直感で思ってしまったの。
ルージュリはずっと怯えていたの。声にもならない声を上げて怯えていたの。
ぼくは、興味本位でその血を舐めた。おいしい、思ってはいけないと分かりながら、そう思った。
「な、なにしてるの………」
そうルージュリが言って来たが、もうぼくに耳なんてないような物だったの。
その時、背後から声が聞こえてきたの。
「あ~あ、こりゃ派手にやられちゃってんなぁ」
擦れた男の声、もう怖いなんて感じないの。
「だ、だだだだれ!?」
ルージュリは怯え切った声でそう言った。よく声をあげれたなと思う。
「我の名はハロルド・ジョーンズ。お前の両親を殺した『ジャックザリッパー』って奴を追っている組織のボスだ」
そう自己紹介してくれた。
「まぁ、こんなに小さければ拾うのは不可能だな。孤児院に届けようか」
そんな事を相手が話している時、眠気に襲われたの。突然の眠気、抵抗できない。
その時、隣に居たルージュリがパタリと倒れた。寝ている。
そして、ぼくも眠気に勝てずに倒れた。
最後にハロルドが言ったであろうセリフが微かに耳に聞こえてきたの。このセリフはしっかりと覚えているの。
「両親に捨てられたなんて可哀そうだな」
このセリフのせいで過去が崩れた。忘れた。大切な大切な過去を。
次に目を覚ますと、病院のような空間だった。いや、孤児院だったの。
この頃から記憶が消えた。親から捨てられてここに来た、周りからはそう言われたせいで自分も捨てられたのだと思ったの。
そこでの生活なんてほとんど記憶にないの。
けど、ルージュリの名前が『ルージュリ・フォージャー』、ぼくの名前が『エリザベート・バートリ』と言われてたの。
その時からルージュリとは別々で過ごしていた。まるで血が繋がってないように演出する感じで。
先にルージュリが引き取られた事は覚えてる。苗字が同じとか何とか言って金髪の家族に引き取られたの。
紫髪で、無愛想なぼくは誰にも拾われなかったの。
ぼくは孤児院から抜け出したの。もうここに居ても意味がない。そう判断したの。
東地区を歩き回り、人の善意に漬け込み、そうやって生きて来たの。
途中で出会った商人からペンダントを貰ったの。人のトラウマの色を出し、人を停止させる。そう言われたの。
ぼくはそのペンダントを覗いたが、中には何もない。記憶からトラウマが消えていたの。
けど、そのペンダントを人に見せるとその効果は絶大だった。本当に人の動きを封じれるの。
ぼくは、これを使って生きたの。
人を殺し、物を奪い、時に血を舐める。周りからは吸血鬼と言われ、恐れられたの。
けど、全く気にならなかった。
『東の路地の吸血鬼』ぼくはそう呼ばれて、殺人鬼となったの。
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どうも、作者です。
本来なら全て平仮名で書きたい所ですが流石に読みにくいので漢字を使いますね。
どうも、作者でした。
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