第四十四話 二人目?
(やっぱり何だか自分おかしいわ……ジャックに出会って関係を持ってからずっとおかしい)
メリーさんは一人考え事をしながら薄暗い路地を歩いていました。
(………いやターゲット殺しに帰る?いえ、けど今更って感じもするわね。う~ん………また今度にしましょうか。うん)
メリーさんのカツカツとした足音が路地に響き渡りました。
☆☆☆
「え?め、メリーさん?」
アリスはこちらへと歩いてくるメリーを見ながら言った。
「え?けど今後ろに!」
もう後ろにメリーの姿はない。歩いて行ったのだろう。
「な、なにがおきてる……こ、こわい」
バートリが感情を露わにしている。怯えている。これまで無愛想だった顔が青ざめ、目の前に居るメリーに対し恐怖している。
「安心して、絶対守るから!」
「い、いや、さっきのやつと……さついのりょうがぜんぜんちがう………おしつぶされそう………」
「え、えぇ!?」
メリーがカタカタという足音を立てながら着実に近付いてきている。
「と、止まる気はないようね………迎撃するしかない!」
「う、うん」
アリスはマスケット銃を構え、バートリは首掛けのペンダントと小さなナイフを取り出した。
バートリはペンダントを開き、それがメリーに見えるようにした。そしてそれを左右に揺らし始めた。
「こ、これで時間は稼げるはずだね」
「………うん」
ペンダントを右に左に、揺らし続けた。
しかし、メリーが足を止めることはなかった。
カタカタという音が近付いてくる。
「え?え!?なんでアイツ動いてるの!?」
「わかんないよ……い、いやだ……」
その時、メリーが目の前から消えた。
「は!?き、消えた!?」
「いや、けはいはある………おねがい、おねぇちゃん」
「あああぁぁぁ!!任せろぉぉ!!!」
アリスは目の色を片方紅色に染めた。
そして、恐らく目の前に居るメリーに向かってマスケット銃を放った。
放たれた銃弾はまっすぐと飛んで行った。飛んで行っただけだ。メリーに掠りもしなかった。
しかし、アリスに一つ気付いたことがあった。
(あれ?メリーの姿、見える!?)
アリスの紅色に染まっている目だけだが、メリーの姿を予想できている、完璧とまではいかない。しかし戦闘するには十分だ。
「こ、これなら行ける!!バートリ、安心して!!」
アリスは自分の口調が懐かしいと思いつつ、メリーに向かって走り出した。
「そこに居るのは分かってんだよぉぉ!!!」
アリスはメリーに向かってマスケット銃を振り落とした。しかしそのマスケット銃はメリーのナイフによって簡単に弾かれた。
「………邪魔よ、私に用があるのはその奥のバートリって子だけ、邪魔しないでくれる?」
メリーがアリスの目の前で話し出した。
「ごめんね、この子は私の妹くらいに大切な子なんだよ。だからテメェが指一本触れる権利はないんだよ」
バートリはアリスとメリーの戦いをただ眺めるだけだった。眺めることしかできなかった。
何故か体が恐怖によって動かない。これまでこんな事はなかった。バートリはそう思っていた。
これまで平気で人を殺していたバートリが、殺人鬼を見て恐怖している。
「バートリ、これ持ってて!ちょっと邪魔!」
アリスがそう言い、ノールックでこちらに赤いマフラーを投げてきた。
その風景をバートリは見たことがあった。
(あれ?みたこと………ある………いつ、いつみたこと………わかんない。わからないけど………わかる)
バートリの点と点を結ぶ線が引かれて行く。
バートリが過去を思い出そうとしている。
バートリの指先が震えている。過去が恐怖の物なのか、指先の震えがそのような事を連想させる。
しかしアリスはそんな事に気付いていない。
「さっき後ろに居たメリーとお前は一体どういう関係なんだ?」
「後ろに居たメリー?さぁ、誰の事よ。私には分からないわ。そんな事より、後ろで蹲ってる子をこちらに寄越しなさい。さすれば彼方の命くらい助けるわよ」
「断るね、絶対」
そんな会話がバートリの過去を繋いで行く。まるで川に橋ができるように、点と点が繋がれて行く。
(………おもいだした……おもいだした………)
バートリは満月の映る空を向いた。
(ぼく………すてられたんじゃない………まもられてたんだ………まもられてたんだ………ずっと……ずっと………)




