第四十三話 第二次殺人鬼対決?
「ふ~んふふ~ん♪」
そう鼻歌を口ずさむのは濃い緑色の髪の毛を持つ女性、メリーさんです。
「………自分テンション高いわね。ジャックに出会った日からずっとおかしいわ………ま、時にはいいでしょ」
メリーさんはスキップをしながら薄暗い住宅街を歩いていました。
カツカツとした足音が街の中を貫くように走って行きました。
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「もしもし、私メリーさん」
メリーさんがそう受話器に向かって話しました。
「殺してほしい人、誰かな?」
「殺してほしい人なぁ………ちょいと待ってくれや」
掠れた男の声がしました。
しばらく物音が受話器から聞こえてきます。そしてしばらくして、こう帰ってきました。
「………バートリを殺してくれ」
メリーさんは電話を切りました。
(バートリね、今日のターゲットは)
メリーさんはそんな事を思いながら、ターゲットの居る東地区へと足を進めました。
☆☆☆
一方その頃、東地区のアリスとバートリは秘密基地の中に居た。
「………普通にバレちゃったね、警察に」
「だからあれだけやめろっていった。なのにおねぇちゃんはむりやりかいものした」
「しょうがないじゃん!あの人がお金こんだけくれてたんだから!そりゃ何か買いたくなるでしょ!」
「しかもかったものがまふらーって………」
アリスの腕の中には一つの赤色のマフラーがあった。かなり長い。
「流石に寒いのにそんな薄着じゃ風邪引くよ?」
「ながねんこれでいきてる。かぜはひかない」
「まぁ……うん。着よう!!」
「………あとで」
バートリはそう言い、ベッドの上に横たわった。
「……寝る気?」
というアリスの問いに対し
「ねるき」
と返すバートリ。
「私もフカフカのベッドで寝たいなぁ……」
「このべっどだってただのもくざい。かたい」
「………そうだね……」
☆☆☆
「ふ〜……やっと着いたわ………」
メリーさんは東地区の路地の中に居ました。周りに人は居ません。
「中々広いわね」
メリーさんはそんな独り言を奏でながら路地を歩きました。
全然終わる気配のない程広い路地、カツカツとした足音が響き渡ります。
「…………………結界?」
メリーさんは一つの事に気付きました。
この空間が広く、終わりがないように見えている訳ではありません。
結界のせいで無限に続くように感じているだけです。
しかしその結界も弱いのでしょう。簡単に結界から抜け出すルートは沢山ありました。
(この規模の結界……一体誰よ………面倒ね)
メリーさんは路地の奥深くへと足を進めて行きました。
「…………けはい」
そうバートリが突然言った。
「え?何?」
「ひとのけはい、ちかくにきている」
バートリはベッドから起き上がった。
「え、また?けど巡回の警官かもしれないし出なくても……」
「いや、けはいがあきらかにちがう。これまでと……なにか………」
「……曖昧だね」
アリスは部屋の片隅に置いてあったマスケット銃を握った。
「たぶん……というか、にんげんのけはいじゃないのににんげんのけはいがする」
「…………はへ?」
「なにいってるかわからない。とりあえずでよう」
「そ、そうだね」
アリスとバートリは狭い通路を進んで秘密基地から出て行った。
基地を出てすぐ、アリスも異変に気付いた。
「た、確かに何だか気配するね」
「………なんだか……へん」
「まぁそりゃ変だろうね」
「いや、へんのしゅるいがちがう」
その時、遠くから足音が響いて来た。恐らく一人、カツカツとした音が響き渡る。
アリスはバートリの前に立ち、足音の鳴る方向を向いた。
「と、とりあえずは隠れてて、何か危ない人かもしれないし」
「わかった」
「ふんふふ〜ん………凄い音響くわね」
メリーさんは鼻歌を歌いながら広い路地を歩いていました。鼻歌は路地の中でよく響きます。響いた鼻歌が何処に行くのか、誰にも分かりません。
「にしても凄い広さねぇ、こんな所にターゲット……ねぇ、ジャックちゃんでももうちょっといい所選ぶわよ」
その時、遠くから別の物音がして来ます。恐らくターゲットでしょう。
「あれ?なんか声しない?」
遠くからそのような会話の音が聞こえて来ます。
「………いる、ひだりがわ」
メリーさんは曲がり角で右方向に進みました。
そして、ターゲットを目撃しました。
「あ、居た!あれの事?気配って」
「……そう、けはいが………にんげんじゃない」
「だけどすっごい人間の形じゃない?」
出会った人物は二人、金髪の女性、アリスと紫髪の少女、バートリです。
ターゲットとなったのはバートリの方です。
「こんばんは、こんな暗い場所に居たら危ないですよ?」
メリーさんは手にマフラーを持っているアリスに向かって話しかけました。
「え〜っと……そちらこそ、こんな広い路地に居たら迷子になるんじゃない?」
「面白いわね、私は迷子にならないから心配ご無用よ。そんな事より用があるのはその奥のバートリって子よ」
アリスはバートリを守るように手を伸ばしました。恐らく敵意があることを察したのでしょう。
「おねぇちゃん、あれってたぶん」
「そうだね、噂でしか聞いた事ないけど北地区の妖怪、メリーさんって奴だろうね。存在してたんだ」
「………ぼくがねらわれてる?」
「う〜ん、そういう事になっちゃうね。けど絶対守るから安心して」
アリスはマスケット銃をメリーさんに向けました。そのマスケット銃は全く揺れておらず、バートリを守るという覚悟が感じられます。
「………」
メリーさんは黙って会話を聞いて……いえ、会話なんて聞いていませんでした。
メリーさんの心の中に、かつてない迷いが生まれていました。
(おかしい……こんな事は無いはず………絶対に絶対に起きないはずなのに……何で、何で………)
メリーさんは顔を変えていません。しかし、心の中では何かが変わっていました。
(何でよ、何でよ……
……なんでターゲットを殺したくないの?)
メリーさんの手の甲を汗が走ります。それは明らかな動揺を表していました。
(おかしい、こんな事はこれまで無かった。『雨』から言われた通りにやるだけ、なのに……なのに………殺したくない。どちらかと言うと、殺しちゃダメなような気がする……)
「……メリーさん?」
アリスがそう言いました。
「……………は、はい?」
「ど、どうかしました?これから殺人を犯す人を心配するなんてなんかおかしい気がするけど、何だか顔色がおかしいですよ?」
「……そうかもね、ちょっと休んで来るわ」
メリーさんはその場から逃げるようにして後方へと歩き出しました。
☆☆☆
「………え?何が起きてるの?」
アリスとバートリは動揺していた。なぜかと言うと今目の前で殺人鬼が何もせずに逃げているからだ。
殺す、殺される覚悟をしていたのに。アリスはマスケット銃を下げながら、唖然とした表情を浮かべた。
「………たすかったの?ぼく」
「さ、さぁ?」
カツカツとした足音が響いている。メリーの足音だ。
「と、とりあえず………戻る?」
「……そうしよう。さっさともど……」
その時、遠くからカタカタとした足音が響いて来た。




