第四十二話 人助け?
「ねぇ、おねぇちゃん」
バートリがそう言う。
「ん?どうしたの?」
「おねぇちゃんがさっきはなしたるーじゅりってこ、おねぇちゃんとかなりねんれいがはなれてる。ほんとうのいもうとなの?」
「す、鋭いね……」
バートリとアリスは東地区の暗い路地を徘徊していた。特に目的も無く、ただただ歩く。
時刻は午後六時程度か、日が沈んで行っている。
「……本当は血の繋がりがない。ただ私が妹欲しいって泣き叫んだから親が孤児院から拾って来た子。けど長い間過ごしてるし妹みたいなもんだよ」
「ふ〜ん」
「え、何その反応……」
「いや、なんでもない」
アリスとバートリが土を踏み締める音がしばらく路地に響き渡る。
「でも、育ててるだけで顔も性格も親に似てくるんだよ。血の繋がりなんて全く関係ない。育ててくれる人はみんな親だよ」
「へぇ、ならおねぇちゃんは、おや?」
「………部分的に?」
そんな軽い会話をしている時、遠くに一人の人間の影が見えた。どうやら七才程度の少年のようだ。
「今日も迷子の子が居ますねぇ、いつも通り案内してあげよっか」
「………これってひとをまもってるの?」
「そりゃ!!………………そうだよ………」
「じしんないね」
アリスは怯える少年の元に近付いた。
「どうも、迷子になっちゃった?」
「……うん………ひぐっ………」
少年は涙をタラタラと流している。無理もない。この路地は無限に続く路地だと言われるくらいなのだから。
「お母さんとはどこで分かれちゃった?」
「……やおやさんの………まえ………」
「ありがと!よく頑張って言ってくれたね、えらいよ!」
バートリは少年とアリスのやり取りをずっと遠くから見ていた。
「よし、じゃぁそこの近くまで行ってみようか!」
「……う、うん………」
少年は心なしか少し落ち着いたように見える。アリスの接し方が上手いからだろうか。
「じゃ、背中に乗って、八百屋さんの方向はおねぇちゃんにまかせな!」
少年はアリスに言われるがまま背中の上に乗った。
バートリはそれが羨ましいのか、それとも妬ましいのかよく分からない表情でアリスを見ていた。
「じゃ、レッツラゴー!!」
「………」
少年はアリスのテンションの高さに少し引いている。
アリスは八百屋に向けて歩き出した。基本この地域周辺の建物はすべて把握している。
八百屋は北方向、この路地を止まらずまっすぐ進めば辿り着く。
「お母さんといつはぐれちゃったの?」
「……さっき………」
「お!ならまだ居るかもね」
バートリは凄く静かだ。足音すらも感じない。
「………」
そして黙ったままだ。
「お母さんまだ野菜を見てるかもね。最近野菜は高いからねぇ、値引きシールを待ってるかもだよ」
「あははっ、そんなことないよ」
「お!笑ったねぇ」
アリスの特殊能力レベルの能力、子供と接するのに優れている事。子供を一瞬で泣き止ませた。
「あはは!おねぇちゃんおもしろい!」
「ありがとね、よく言われるよ」
まさかこれが数日前まで殺人鬼だったのが嘘のようだ。普通に人間と接し、普通に話している。
「よし、そろそろ着くよ」
アリスの言った通り、路地の出口はすぐそこだ。
「………さとし!!!」
そう母らしき人物がアリスの下へ駆け寄って来た。
「さとし!!アンタどこ行ってたのよ!!お母さん心配したんだよ!?」
「あんしんして、おねぇちゃんがまもってくれた」
「あ、あら、ごめんなさいね、家の息子が………」
アリスは背中に乗っているさとしと呼ばれた子を離した。
さとしはすぐに母の元へと駆け寄っていった。
「いえいえ!こちらも楽しい時間を過ごせましたよ。さとしくんからずっと目を離さずに過ごしてくださいね」
「まぁ、ありがと。えっと、お礼に………はいこれ!」
と言い、さとしの母は先ほど買ったであろう野菜の入った紙袋を渡して来た。
アリスは全くの遠慮も無しでそれを受け取った。生きる為だ。
「本当にありがとうねぇ。あ、お名前は?」
「いえ、名乗るような人間ではありません。強いて言うなら………この路地の番人ですかね」
「まぁ………気を付けてくださいねぇ、この路地にはあぶない人がいっぱい居るって噂なんだから、最近では金髪の殺人犯が居たとか……」
アリスは後ろを振り返り、バートリの手を引いてすぐに走りだした。
「お母さんも!そんな危険な路地に子供を入れないように気を付けてくださいね!」
アリスはそう叫んだ。
そして曲がり角を曲がり、一息付ける場所まで逃げてきた。
「ふぅ………やっぱり情報は出回ってるねぇ」
「あたりまえ、まずさつじんきのじょうほうがでまわらないほうがおかしい」
「まぁそうだよねぇ………」
アリスは小脇に抱えていた紙袋を開いた。
「よし!二日はいける!」
「さすがせつやくのおねぇちゃん」
「なにその二つ名………とりあえず、一旦これ置きに帰ろうか」
「そうだな」
アリスとバートリは自分達の秘密基地に向けて歩き出した。
「もしもし、私メリーさん」
メリーさんがそう受話器に向かって話しました。
「殺してほしい人、誰かな?」
「殺してほしい人なぁ………ちょいと待ってくれや」
しばらく物音が受話器から聞こえてきます。そしてしばらくして、こう帰ってきました。
「………バートリを殺してくれ」




