第三十九話 番外編 メリーさんの日常
「もしもし、私メリーさん」
メリーさんがいつもの公衆電話で電話をかけています。
「殺してほしい人……」
メリーさんがそう言おうとした時、電話は断ち切られました。
「………せっかく嫌いな人を道連れにして死ねる機会なのに、もったいないわね」
メリーさんはそう言いつつ、ターゲットの居る方向へと向かいました。
メリーさんが着いたところは北地区の「ベネッセ彗星水上特急列車1001A 北地区大型駅」でした。1001Aは基本略されます。
(ターゲットは汽車に乗って逃げてるわね、まぁ先回りしてるけど)
ターゲットが汽車に乗ったのは恐らく東地区です。北地区で合流します。
(にしても広い駅ね、乗り場が一つしかない癖に)
北地区大型駅はまるで船舶が止まっているのかと勘違いするほどの大きさでした。恐らく五階建て程度、大部分がショッピングモール的な役割でしょう。
(まぁいいわ、少し時間を潰しましょ)
時刻は電話を掛けた午前二時からまわって夕方六時、通勤ラッシュの時間帯の駅をメリーさんがカツカツという足音を立てながら歩いていました。
そしてメリーさんにはいつもとは違うところがあります。
出会う人間が全員メリーさんをすり抜けて行っています。
(身体的な強化は無理でも、能力は育てられる………ジャックとまた戦うのが楽しみね)
メリーさんは人混みの中を気にせず進みながら駅の中をただただ歩きました。
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「次に来るのは……残り五分後……もうすぐね」
そうお土産を手にしたメリーさんが呟きます。このお土産をどうするのかは謎です。
メリーさんは姿を現しています。一応普段の幽霊的な髪の長さは抑え、腰程度までの長さになっています。これなら別に姿を見られていても特段問題があるという訳ではありません。
しかし、変態共がメリーさんの胸をジロジロ見ています。メリーさんはそれにずっと気づいています。
(……次のターゲットはあの野郎にしようかしら………)
ターゲットを自ら決めることの出来ないメリーさんはそう思いました。
「……ふぅ………」
メリーさんは人が座っていないベンチに座りました。
駅のホームのベンチ、汽車がくればすぐに乗れます。
(流石に人が多いとなると、汽車の中でターゲットを殺せるのかが心配ね……まぁ別にいいわ。いずれかは汽車に乗り続けたとしても車掌さんに追い出される)
メリーさんの手には予約指定席の切符が二枚握られています。個室を丸々占領する為です。
いつこの切符を購入したのかは不明です。
その時、遠くから白煙を上げる汽車が近付いてきたのがわかりました。あれがベネッセ彗星水上特急列車です。
(本当に水の上を走るのね……)
汽車は北地区の大型駅の中に入って来ました。駅の乗り場の天井は張られていない為、煙が充満するという事はありません。
汽車は停車しました。そしてすぐ、扉が開きました。
すると中からは滝のように出てくる人間。メリーさんは人をすり抜けながら汽車の中に乗り込みました。
そしてすぐに個室席へと入りました。
(無理無理無理無理!!人多過ぎ!!!)
汽車が常に揺れています。人が歩いている為でしょうか。
多少の人間の量ならば耐えられるメリーさんもこの量には流石に拒否反応を見せました。
(なんていう人の多さよ……この場にジャックちゃんが居れば楽だったでしょうね……)
ジャックちゃん、あの殺人鬼の事です。
「………暇ね」
メリーさんは徐に大量に買ったお土産袋の中を漁り始めました。
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しばらくして汽車が南地区に着きました。
「質素な駅ねぇ……乗り込む人なんて居ないんじゃないの?」
そう饅頭を手にしたメリーさんが呟きます。
「………まさかジャックちゃんが乗り込んだりしちゃってね」
そしてそれは現実になりました。
個室席の扉が突如開きました。
(ん?この気配………)
メリーさんは開いた扉を見ました。
その先には水色髪の少女、ジャックザリッパーが居ました。
「………ゴックン……」
メリーさんは饅頭を飲み込みました。まるで起きた事が現実なのか判断するように。
「………何してんの?」
ジャックがそう言います。どうやら現実のようです。
「ほら、入りなさい。さっさと扉閉めて」
ジャックはメリーさんの指示通りに扉を閉めました。
(な、なんでホントに来ちゃってるの!?もうこの汽車爆発されるわ、間違いない)
「メリー、なんでここ居るの?」
「あなたこそ、何で私の予約席に?」
というような会話を交わしました。詳細な話は第二十九話をお読みください。
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「………ジャック、ちょっと何か起きるかも」
メリーさんは止まらない汽車を見てそう言いました。
(考えられる可能性………プロテクターとかそこら辺の人間の可能性が高そうね………)
「ん~?どうしたの~?」
そうジャックが呑気に言います。
列車は東地区の駅を超速で走り抜けました。
「あれ?駅って止まるもんじゃないの?」
「ええ、普通は止まるものよ、普通は」
「ニャ、ニャー?(じゃ、じゃぁ何が起きてんだ?)」
「……誰かが意図的に列車を暴走させてる」
「え、えぇ!?」
「何が起きるか、警戒しておいた方がいいわ」
「……なんでそんな冷静なの?」
(私だって少し混乱してるわよ………何が起きてるの………)
その時、蜘蛛が這いつくばるような音が聞こえてきました。
ジャックが戦闘態勢に入ったのがわかります。
(とりあえず私は攻撃を透過できるから問題ないけど、ジャックちゃんはそうはいかないでしょうね)
そう思うと同時に列車全体が揺れました。
「うわぁ!?」
ジャックがそう叫びました。
八号車から木材を突き刺すような音が聞こえてきます。まるで何かがこの汽車を突き刺しているようです。
「……………あぶない!!!」
ジャックがそう叫んだ数秒後、メリーさんたちの居る個室に向かって鉄製の何かが貫通してきました。
(敵の攻撃………標的はジャックでしょうね)
そのメリーの予想を決定付けるようにこう聞こえてきます。
「ん~?この声はジャックザリッパーってヤツデスカ?」
その声を合図にするように無数の鉄の塊がこの個室を攻撃してきました。
「うわっ!ちょ、ちょっとなにが!?」
そう混乱するジャック。
「ニャ、ニャー!?(だ、誰からの攻撃や!?)」
そう混乱するリッパー。
「さぁ、ジャックを憎んだ誰かでしょ」
そう冷たく言うメリーさん。
(まぁおそらくジャックが簡単に勝っちゃうでしょうね………けどこうなると早くターゲットを殺した方がいいかも)
「な、なんでメリーはそんな冷静なの!!」
その時、メリーさんの脳天目掛けて鉄の塊が降って来ます。
「あぶない!!!」
そうジャックが叫びますが鉄の塊はメリーさんの体を貫通しました。
「さ、私はこんな状況になってはいつターゲットが死ぬか分からない。さっさと殺してくるわ」
メリーさんはそう言い、壁をすり抜けて移動していきました。




