第三十二話 想定への囚われ
ジャックはスパイダーへと突進した。
しかし当然スパイダーもそれに対抗し、蜘蛛の手を列車の側面から生えている物含め、十六本ほどジャックに伸ばした。
ジャックは蜘蛛の手をナイフで弾きながら、スパイダーの目の前へと移動した。
しかしスパイダーに向けてナイフを振るわず、スパイダーの後方へと走り抜けた。
「な、ナヌ!?」
「ほら、想定に囚われるからだよ」
ジャックはスパイダーの後方へと走り抜けた後、
列車の外へと身を投げ出した。
「ニャー!?(ジャック!?)」
リッパーもジャックの行動が予想外だったのか、驚いている。
ジャックは腰の機械を動かした。するとワイヤーが列車の側面に突き刺さり、そのままジャックは振り子の原理で列車の中に入った。
「そ、そんな事してもムダデーズ!!」
列車の中はまさに地獄だった。死体が転がり、逃げ場がない乗客達は暴れていた。
しかしスパイダーもジャックもそんな事気にしていない。
ジャックは列車の三号車に向けて走り出した。
スパイダーはジャックを止めようと無数の蜘蛛の手を屋根越しに突き刺してくる。
しかしジャックはそれらをうまい具合にかわし、三号車へと移動した。
そして天井に向けて水平五連ショットガンを撃ち放った。
放たれた無数の弾丸は列車の屋根に穴を開けた。
ジャックはその穴からまた列車の屋根の上に移動した。
「クッソ!小賢しいデスネ!!」
「お前が私の動きをただデータとして見ているからだよ。私は敵によって常に戦い方を変える。だからね、予測するなんて不可能なんだよ」
「黙れでゴザイマス!!私のデータが間違っていると言うんデスカ!!」
「そうだよ、クソザコさん」
ジャックは水色の目をにったりとスパイダーに向けながら言った。
「ダマレエエェェェェェ!!!!」
スパイダーは無数の蜘蛛の手をジャックに伸ばした。
「キミの攻撃は単調なんだよ、それ以外の武器はないの?」
ジャックは目を閉じ、そして勘だけで攻撃を避け始めた。
「ほら、目を閉じたって避けれる」
「クッソオオォォォォォ!!!!さっさとシネェェェェェ!!!!」
無数の蜘蛛の手はジャックに向かい、伸びていくが全てジャックはギリギリで避ける。
ジャックの『勘』は凄まじく鋭かった。
「ふぅ………ふぅぅぅぅぅ…………」
スパイダーは攻撃の手を止めた。
「あれ?たったこれ程度?」
「………グヌヌヌヌ……」
その時に列車は南地区の駅を超スピードで走り抜けていった。
そして、列車は陸の上を走り出した。
「ふぅ、やっとだよ。やっとアレが使えるようになる」
「ニャー!!(ジャック!!)」
リッパーが三号車の屋根に開いた穴から飛び出して来た。
「ニャー?(陸路に出たぞ、やるのか?)」
「うん、そりゃね」
ジャックはリッパーを片手で抱き、ポケットから何かのスイッチのような物を取り出した。
そしてスパイダーから少し離れ、三号車前方へと移動した。
「この列車に乗り込んだ理由、それは乗客を爆弾で大量虐殺する為だったんだけどね、まさかこんなのに使うとは思わなかった」
その時、スパイダーの顔が若干笑った。しかしジャックは気付いていない。
「じゃ、バイバイ」
ジャックは手に持っているスイッチを押した。
しかし、何も起きなかった。
「…………ん?」
「ニャー?(故障か?)」
「ウーッヒャッヒャッ!!まんまと騙されましたね!オメェが爆弾を用意しているなんて最初から予想していた事!それに対する対策は星のようにしている!!」
スパイダーはゴーグルを取り外した。目の色は真っ白で、全く生気を感じない。
「オメェはワタシの城に乗り込んでしまったのが運の尽きデス!!この列車は電波妨害、速度制御、その他諸々ワタシが管理できるのデス!!」
しかし、その生気を感じない目は、薄い紅色に染まっていた。
「これが貴様の終着点デスヨ!!逃げ場もなければ生き残る術もない!さぁ、デスゲームの始まりデス!!」
その言葉を合図に、列車の側面から大量の蜘蛛の手が飛び出して来た。
(うわ!キモ!!)
ジャックは思わずそう感じた。
大量の蜘蛛の手はジャックもろとも、列車を貫通する勢いで攻撃を始めた。
ジャックは小脇にリッパーを抱えたままだ。この量を避け切るには至難の業だ。
大量に飛んでくる蜘蛛の手をジャックは何とかギリギリで避けていく。
「ハッハッハ!!このままじゃ時間の問題デスネ!!」
「うぐっ!!」
「ニャー!!(おい!!)」
ジャックの左腕を蜘蛛の手が掠った。
やはりスパイダーの言った通りだ。このままだとジャックが死ぬまで時間の問題だ。汽車から飛び降りれば慣性の力で死ぬ。逃げ場がない。
「しかし、ただ殺すと言うのも面白くナイデスネ!!」
スパイダーはそう言い、攻撃をやめた。
「ニャー?(怪我、大丈夫か?)」
「うん、これ程度なら大丈夫」
ジャックはリッパーを担いでいる左腕を右手で押さえた。しかしすぐに血が止まる訳ではない。
「なに、私をからかってるの?」
「まぁそんな感じかもデスネ!少し考えてみたデスヨ……
この三号車の下に爆弾があるなら!それを爆発させてしまえト!!」
「……はぁ!?」
「この汽車を脱線サセマス!!説明は以上デース!!」
「ちょ!?突然過ぎるよ!!」
スパイダーはニッコリと笑った。
「け、けどどうやって起爆させるの?起爆装置は私が持ってる」
「そんなの簡単!起爆部位をこの蜘蛛の手でヒトツキすればイイ!!」
「………けど!爆弾の場所なんてわかんないでしょ!」
「イイエ、アナタが爆弾を設置する様子を全て見てマシタ!場所くらい覚えてマス!!」
スパイダーは蜘蛛の手を大きく振り上げた。
(まずい!!自らのタイミングで起爆させないと対処できない!!)
ジャックは振り下ろされた蜘蛛の手をナイフで弾き、軌道をずらした。ずらしていなければ恐らく起爆していただろう。
「ハッハ!悪足掻きはやめなサイ、この量を対処できる訳がナイ!!」
列車の側面から生えた大量の蜘蛛の手がたった一つの爆弾を起爆する為に動き出した。
「ソレデハ!一人で頑張ってクダサイネ!!」
スパイダーはそう言い、蜘蛛の手を使って列車から飛び降りた。
(こ、この量を対処できる訳がない!!)
大量の蜘蛛の手は爆弾に向けて同時に振り下ろされた。
合計二十四本程度、一人でどうにかできる量じゃない。
(もう!飛び降りるしか……!!!)
大量の蜘蛛の手は列車の屋根を突き破り、列車の床を突き破り、そして、爆弾を突き破った。
ジャックは大量の蜘蛛の手をどうすることもできなかった。
蜘蛛の手は、爆弾を起爆させた。
起爆する直前にジャックはリッパーを担いだまま、汽車から飛び降りた。しかし、それも判断が遅かったようだ。
ジャックとリッパーは爆発に巻き込まれた。
凄まじい熱気、凄まじい轟音、それらはジャックとリッパーに降り注いで来た。
「リッパァァァァァァ!!!」
ジャックの腕からリッパーが抜け落ちた。
(ダメ!ダメ!リッパーが!!フタバが!!!)
リッパーは爆風により、ジャックとは反対方向に飛ばされた。
(あぁ……失敗した……守れない!!)
リッパーは遠くに飛んで行き、ジャックの視野からは消えた。
「ジャック!!!!!!!!」
リッパーはそう叫んだ。
(クッソ!!ジャックを守れねぇ!!あのマッドサイエンティストがあぁ!!!)
リッパーは吹き飛ばされながらスパイダーへの怒りをぶつけた。しかし、それも無駄だ。
(あ……あぁ………)
ジャックの視野が掠れていく。爆発音が着々と小さくなり、自分が飛ばされているという感覚が残る。
ジャックとリッパーは、爆発により引き剥がされた。




