第三十一話 覚悟
「ふぎゃぁ!!」
ジャックは列車の屋根に手をかけ、ぶら下がっている状態でいた。
下には黒い海が広がっている。冷たい風がまるでジャックを切り裂いているようだ。
「ニャー!!(ジャック!!)」
リッパーは列車の上に着地し、スパイダーの後ろ姿と落とされたジャックを見ていた。
(クッソ!!何もできねぇ!!!)
リッパーは何もできない自分を悔やんだ。
「ウッヒャッヒャ!!なんともミジメだ!!」
スパイダーがジャックの下へと歩いて来た。
「ワタシはお前に関して色々研究したんデス、お前の数少ないデータを元に、細かい動きまで完璧に予測してやったデス!」
スパイダーはジャックの小さな手を踏みつけた。
「うぐっ!!」
「ヒャッヒャ!!この速さで走る汽車、ここから落ちれば致命傷、いいや、お前程度なら死ぬかもデスネ!!」
「ニャー!!!(ジャック!耐えろ!!)」
リッパーがスパイダーの足元まで走って来た。
「リッパー!!今はダメ!!」
「へぇ、コイツはリッパーって言うんですね、ニャーニャーウルサイですね!」
スパイダーはリッパーを蹴り飛ばした。
「………」
ジャックは無言ながら凄まじい怒りを出していた。
「ハハハ!!そんな怒ってももう無駄デース!!お前は!!ここで!!!死ぬんです!!!!」
スパイダーは、ジャックを蹴り落した。
(まずいまずいまずい!!!)
ジャックの真下には黒い海が広がっている。ここに落ちればジャックは溺れ死ぬか、それか線路を掴めたとしても、スパイダーの追撃によって殺される。
その時、
「もう、ほんと非力ね」
メリーがそう言い、落ちるジャックを受け止めた。
「ふえぇ!?」
「情けない声出さないで、ほら、さっさと奴を殺しなさい」
「い、いやそんなことより……
……なんで浮いてるの?」
メリーは水上に浮いており、ジャックを捕まえていた。
「な!?コイツ浮いてやがる!?」
スパイダーがそう言う。スパイダーにメリーは見えてない。
「細かい事は気にしないで、禿げるわよ」
「はげんわ」
メリーはジャックを汽車の屋根目掛けて放り投げた。
「ありがと、メリー」
ジャックの目の色は普段よりも濃い赤色になっていた。
ジャックはスパイダーに目掛けてナイフを振り落とした。
スパイダーはジャックに向けて無数の蜘蛛の手を伸ばしてくるが、ジャックはそれらを全て避け、スパイダーの脳天に目掛けてナイフを振り落とした。
しかし、その攻撃も防がれた。
列車の側面から伸びてくる無数の蜘蛛の手はまるでジャックの動きを予知しているようだ。ジャックの攻撃全てを防いでくれる。
「言ったでしょう!お前の動きは予測しているト!!」
ジャックは蜘蛛の手に弾かれ、リッパーの元に飛ばされた。
「う……うぐぅ………」
「ニャー!!(大丈夫か!!)」
ジャックの腹は横に切られており、腹部から出血をしていた。
しかしその出血もしばらく時間が経てば止まった。
「………なんとなく分かった。そのゴーグル、それを壊せば私の動きを予知できないだろう?」
スパイダーは動揺していた。図星のようだ。
「アハハ!やっぱりね、そのゴーグルが私の動きを予想し、その動きを映し出す。だからそのゴーグルが無ければお前はどうしようもないってわけ!」
「……シカシ!!ワタシの発明品!マッドサイエンティストと呼ばれたワタシの発明品は!!完璧であった!!やはりお前の動きを可視化できてイルノダ!!」
ジャックは右腕に小型の盾を付け、左手に固定されているナイフを新たなナイフに付け替えた。
(刃こぼれのスピードが早すぎる……奴の蜘蛛の手に当たるだけで皮膚は切り裂ける………残る道は一つ……)
ジャックはナイフを構えた。
(……相手の予測を上回って動くだけ!!)
ジャックはまるで音速を超えたような速さで動き、スパイダーの腹にナイフを振るった。
しかし、振るったナイフも蜘蛛の手に防がれた。
そこでジャックは、ナイフを投げ捨てた。
「ハァ!?」
ジャックは左手を前に突き出し、これまで袖に隠していた水平五連ショットガンを撃ち放った。
放たれたのはドラゴンブレス弾、スパイダーを炎の渦に巻き込んだ。
「ヌァァァァァァァ!!!!!」
スパイダーはドラゴンブレス弾の大部分を蜘蛛の手で防いだが、それでも防ぐことの出来ない部分も出てくる。
スパイダーは足と肩と耳にドラゴンブレス弾を食らった。
「アハハ!やっと攻撃が通ったよ!」
ジャックは右手に付けられたナイフをスパイダーに向かって振るった。
その時だった。ジャックの足元が突然爆発した。
「ぬわあぁ!?」
ジャックは爆発に巻き込まれ、八号車後方まで飛ばされた。八号車は屋根が穴まみれだ。
「ニャ、ニャー!!(だ、大丈夫か!!)」
「大丈夫、リッパー。ちょっと足を擦っただけだから、とにかくリッパーは自分が生き残ることを優先して」
ジャックは足から凄まじい量の血を垂れ流していた。スカートや長い靴下は焼き焦げ、痛々しい傷が露わになっている。
「ニャ、ニャー!(い、いやお前の体の方が!)」
「いいから!私は別にいい!けどリッパーだけは絶対に死なせちゃダメ!!」
「さっきから猫と会話シヤガッテ!!黙れでゴザイマス!!」
「……ニャー?(……奴俺の言ってることが理解できるのか?)」
「………さぁ?」
「理解してマスヨ!!今の一瞬で何があったかはシリマセンガ、猫の話してることが分かるようになりました!ワタシの発明品のおかげでショウカ!!アッハッハッ!!」
ジャックは冷静にフライバースト(S&W M500という銃)を取り出し、試しにスパイダーに撃ってみた。
しかしその銃弾は簡単に蜘蛛の手に防がれた。
「フハハ!銃なんて物使っても無駄デス!!」
(やっぱり……銃は効かないよねぇ)
ジャックはフライバーストをホルスターの中に戻した。
そして水平五連ショットガンにバードショット弾を入れた。
「ふぅ、ソロソロ諦めてはドウデスカ?これ以上戦ってもジリ貧、アナタは負けてしまうでショウ。今命乞いをスレバ助けてあげまショウ」
「……私はどんな状況になってもね、戦って来たんだよ」
ジャックは目の色を普段の水色に戻した。
「師匠にボコボコにされても、諦めずに何度も戦い、そして最後には勝ったんだ……」
ジャックは水色の瞳を美しく輝かせ、それをスパイダーに向けた。
「私は……自分よりも遥かに強かった師匠を"殺したんだ"。だからね、キミみたいなクソザコに負ける訳にはいかないんだよ」
「……ッ!!クソザコ呼ばわりとはナンデスカ!!」
「だから、私は決して負けるわけない!!今はボロボロになっていようと!!いずれかは必ず殺す!!それが私のやり方だ!!」
ジャックの声が海の上に響き渡った。
列車は南地区の駅に近づいて来ている。スピードを緩める気は無いようだ。
「まだ、私には奥の手が一つあるんだよ、キミが全く想定していないであろう、奥の手が……」
「………ワタシの想定に無いものなど決して無い!!」
「アハハ……いいよ今のうちに言っておきな……
………私に殺される前に」
「ふぉっふぉっふぉ………」
スパイダーとジャックの激しい戦いにより、死体だらけになった汽車の中を老人が歩いていた。
「激しい戦いが始まりましたな……そろそろ、俺も出ないといけないかもな」
老人は被っていたマスクを剥ぎ取った。




