第三十話 スパイダー
「あれ?駅って止まるもんじゃないの?」
ジャックがそう言う。
列車は東地区の駅を超スピードで走り抜け、すぐに海の上へと移動した。
列車の中が妙に騒ついている。遠くからも混乱の声が聞こえてくる。
「ええ、普通は止まるものよ、普通は」
「ニャ、ニャー?(じゃ、じゃぁ何が起きてんだ?)」
「………誰かが意図的に列車を暴走させてる」
「え、えぇ!?」
「何が起きるか、警戒しておいた方がいいわ」
「………なんでそんな冷静なの?」
その時、列車の上から振動がしてきた。まるで蜘蛛が動いているように、コツコツと音がなる。
ジャックはナイフを手に取り、目の色を赤くした。
その時、列車全体が揺れた。
「うわぁ!?」
遠くからまるで木を突き刺すようなメキメキとした音が聞こえてくる。
そしてその音は着実にジャック達へと近づいて来た。
ジャックは小脇にリッパーを抱えたまま立ち上がった。メリーは腕を組んで座ったままだ。
「……………あぶない!!!」
ジャックがそう叫んだ三秒後、天井から鋭い鉄の足のような物が突き抜けて来た。
「ん〜?この声はジャックザリッパーってヤツデスカ?」
そんなセリフが天井から聞こえて来た。
そしてその言葉を合図にして、大量の鉄の足のような物がジャックが居た部屋を攻撃し始めた。
「うわっ!ちょ、ちょっとなにが!?」
ジャックはまるで未来を見ているかのようにして鉄の足を避ける。
「ニャ、ニャー!?(だ、誰からの攻撃や!?)」
「さぁ、ジャックを憎んだ誰かでしょ」
メリーがそう座りながら言う。
「な、なんでメリーはそんな冷静なの!!」
その時、メリーの脳天目掛けて鉄の足が降って来た。
「あぶない!!!」
しかし、鉄の足はメリーの体をすり抜けた。
「さ、私はこんな状況になってはいつターゲットが死ぬか分からない。さっさと殺してくるわ」
メリーはそう言い、壁をすり抜けて移動して行った。
「ちょ!ちょ!何も状況が理解できないよ!!」
ジャックが鉄の足をナイフで弾きながら叫んだ。
「サッサと死ねでゴザイマス!!腐り切った殺人鬼メ!!」
その言葉と共に列車の側面が爆発した。
「きゃあぁ!!!」
「ニャー!!!(ジャック、屋根に上がれ!!!)」
ジャックはリッパーの指示に従い、鉄の足を避けながら大きくジャンプをした。
「ふおぉぉぉ!!!!」
ジャックは列車の屋根の上に倒れて着地した。
「ぎゃふん!!」
「ニャー!!(まだ終わってねぇぞ!!)」
リッパーがそう言うと共に鉄の足が数本ジャックに飛んできた。
「遅いよ」
ジャックは赤い目を光らせながら言った。
ジャックは一瞬の内に動き、鉄の足を全てナイフで弾いた後、敵と見られる人間から離れた。
「ウッヒョー!!『遅いよ』だって!!コワイコワイ!!!」
そう男が言った。
「お前、誰だ」
ジャックは先程とは雰囲気が別人だ。
目の前にいる男は白い髪の毛をボーボーに生やしており、白衣と緑色のゴーグルを着ている。年齢は五十後半程度だろうか。
そして、その男の背中には蜘蛛のように鉄の足が八本伸びていた。
「ハーッハッハ!!ワタシは天才科学者、スパイダー!!今宵、お前をブチ殺す人間だ!!!」
そうスパイダーと名乗った男が言った。
「ニャー(ジャック、足元注意)」
リッパーが言うように、足元には無数の穴が空いている。今目の前に居る男がジャックを探る為に無作為に開けたのだろう。乗客は完全無視だ。
「ぶち殺すってどういう事?私はただの乗客だよ」
「そんなの関係ないデス!乗客はもう八人程度突き刺してマス!!」
スパイダーが持っている鉄の足には血がついている物が五本ほどあった。
「……スパイダー、だったよね?なぜ私を襲うの?」
「…………テメェがワタシの唯一の妻を殺した!!!そんな記憶も無いのかこのクソヤロウがあああぁぁぁぁ!!!!」
スパイダーが声を枯らしながら言った。ジャックはあまりの五月蠅さに耳を塞いでいた。
「ニャー?(ジャック、俺を降ろしてもええんやで?)」
「いいや、リッパーを死なす訳にはいかない。安全が保障される所まで小脇に挟んでおく」
「ハッハッハ!!!ワタシのことを舐めてますね!!そんな状態で勝てるとお思いで!!」
「アハハ!そうだよ君のことを舐めてるよ、キミが私を殺せるわけが無い」
ジャックの髪の毛が強く風によって揺れていた。
汽車の白煙はまるで空に道を作るように、月光はまるで海上に道を作るように、そんな美しい風景の上にジャックとスパイダーが立っている。
「………舐めてもらっては困りマスネ!まぁいい、このワタシを殺せる物ならやってみたまえ!!コネコちゃん!!」
スパイダーはそう言い、背中に生えている鉄の足をまるで触手の如く、思うがままに動かしジャックを攻撃した。
「だから、遅いって言ってるでしょ?」
ジャックはまるで未来を見ているかのように動き、鉄の足を切り裂こうとした。しかし
(か、かたい!!)
鉄の足は切れなかった。
「グフフッ!!そう易々と切られないように超硬合金で作ってイマス!!お前程度じゃ切ることなど不可能デーズ!!」
スパイダーは鉄の足をジャックに向けて伸ばした。
ジャックはその攻撃をナイフで弾いているが、
(こ、攻撃一発一発が重い……ナイフが折れるか、腕が折れるか………)
力の少ないジャックにとっては攻撃を弾くだけでも凄まじい負担がかかっている。
攻撃を防ぐ度に火花が舞い散り、暗い海を照らしていた。
(さ、流石に片手じゃこの量は……!!)
「ドウデショウ!!ワタシの『蜘蛛の手』は!!ワタシの思考を読み取り、それ通りに動いてくれる!ワタシの最高の発明品デス!!」
スパイダーは自らの背中に生やしている鉄の足を『蜘蛛の手』と紹介した。
「ドウデショウ?もう疲労がたまって来たんじゃナイデスカ?ほら、息だって切ラシテル!!」
スパイダーがそう言うように、ジャックは息を切らしていた。
「はぁ………はぁ………流石に……この量は………キツイね」
「ウッヒャッヒャ!!これ程度で息を切らす!!やはりお前は今日ここで死ぬんデスネ!!」
「………けどさ……相手が攻撃する前にやっちゃえばいいだけじゃん」
ジャックはリッパーを渾身の力で空中に放り投げた。
「ニャー!?(うぅおぉぉ!?)」
そしてジャックはスパイダーの背後に一瞬で移動し、スパイダーの背中をナイフで切りつけようとした。
しかし、それは未遂で終わった。
「ウッヒャ!想定済みの事デース!!」
列車の側面から蜘蛛の手が無数に伸びてきた。
「!?」
ジャックはその蜘蛛の手に弾かれ、列車の外の暗い海へと飛ばされた。




