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三殺事件 ~The End of World~  作者: Red
第九章 長編 ベネッセ彗星水上特急列車(第三幕「残殺と師匠」開始)
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第二十九話 休戦続行

 ベネッセ彗星水上特急列車、蒸気機関車であり、八両編成。先頭以外はほぼ全て木で造られており、レトロな雰囲気を醸し出している。


 そんな中の個室指定席、ジャックはその個室の中から適当に一室を選び、扉を開けた。



「………」「………」




 中には黒く、長い髪の毛を持っている女性、メリーさんが居た。饅頭か何かを食っている。




「………ゴックン……」

「………何してんの?」

「ほら、入りなさい。さっさと扉閉めて」


 ジャックは言われた通り、中に入って扉を閉めた。

 それと同時に列車が動き出した。警笛を上げ、少しずつスピードを上げて行く。


 個室の中は座席が二つ向かい合うように置いてある。窓からは海しか見えない。


「メリー、なんでここ居るの?」

「あなたこそ、何で私の席に?」

「計画としては中にいる奴を殺す予定だった。あと質問の答えを言って」

「簡単に言えばターゲットがこの汽車にいるから」

「………じゃぁ何でまんじゅう食べてんの?」

「………空腹」


 ジャックはメリーと向かい合うように座席に座り、コートと猫耳のついたフードを取り外した。

 中からは黙っていたリッパーが出て来た。


「………そのフード外せるの?」

 メリーが饅頭片手にそう言う。


「これは帽子みたいな物、暑けりゃそりゃ脱ぐよ。というかここ暑くない?暖房でもついてる?」

「さぁね。そんな事よりこれ食べる?」

 メリーはジャックに饅頭を差し出した。


「…………たべる……」

 ジャックは饅頭を受け取った。


「ニャー?(毒が入ってるかもしれねぇぞ?)」

「安心して、これは市販の物よ」


 ジャックは饅頭を食べ始めた。中には甘いクリームが敷き詰められている。甘ったるい。


「…………で、あなたはここに何をしに来たのよ」

 メリーがそう問う。


「一つに決まってる。この汽車に爆弾を仕掛ける。それを起爆させて大量虐殺ってわけさ」

「……人のやる事に文句は言わないわ。けど、私がターゲットを殺すまではやらないでね」


「………ニャー?(………ところで爆弾ってどこに仕掛ける気で居るんだ?)」

「う〜ん……先頭でもいいけど先頭だとかなり重いから爆弾程度で脱線するのかって問題が出てくる。無難に3号車あたりに置いて北西地区で爆発かな」

「ニャー?(いつ仕掛けるんだ?)」

「………あっ、仕掛けないと」


 ジャックは急いで饅頭を食べきり、コートの腰部分にあったかなり大きな爆弾を取り出した。

「………凄まじい大きさね」

「これくらいないと脱線させるなんて事できない」


 ジャックは立ち上がり、窓を開けようとした。しかし硬くて開かない。しばらく試してみたが結局は開かなかった。


 ジャックはメリーの方向を向き、無言で助けを求めた。


「………非力ね、ナイフを振るう時の力はとんでもない癖に」

 メリーは窓を開けてやった。


「……………ありがと」

 ジャックはそう言い残し、大きな爆弾を担いで電車の外へと出て行った。



「……ニャー?(……列車走ってるけど大丈夫なのか?)」


 残されたリッパーがまた残されたメリーに向かって話し出した。


「さぁ、あのジャックの事よ、多分大丈夫でしょ」

「ニャー?(ところで、お前は何でターゲットを殺しに向かわないんだ?)」

「ターゲットは自由席に座ってるの、周りに人が多く居るからそう簡単に殺す事はできないわ」


 リッパーとメリーは少しの間黙り込んだ。

 列車が走る音と振動が鳴り響く。外は真っ暗な海、月光がその海を照らし、美しい風景だ。


「………ニャー?(………お前とジャックとの関係って一体何なんだ?)」

「……元はターゲットとの関係、今はライバルみたいな?ジャックちゃんがどう思ってるかは分かんないけどね」

「………ニャー?(………ジャックちゃん?)」

「………ジャックちゃん……」


 その言葉を最後にしてリッパーとメリーは黙り込んだ。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


「うひゃああああぁぁぁぁぁ!!!!」


 ジャックがそう叫ぶ。


 列車の外に身を乗り出したジャックは窓枠に掴まり、冷たい風を受けていた。


(ちょ、こんな速く動くもんなの!?)


 ジャックは窓枠を経由しながら三号車へと向かっていた。


 その時、跳ね返った水がジャックの顔に張り付いた。

「ひゃん!!冷たい!!!」


 ジャックは袖で顔を拭き取り、また窓枠から窓枠へと飛び移った。


(お、落ちたら一貫の終わり……水冷たいし、怖いし、何より寒い!!)


 その時、ジャックが足を掛けていた側面の木材が、メキッという音を立てた。

「ひゃあああぁぁぁ!!!!」


 木材は折れずになんとか耐えた。

 足をすくめたジャックはしばらく動かなかった。


(ああぁぁ!!怖すぎる!!は、早く行こう)


 ジャックは震える足を押さえつけ、三号車へと向かった。

 見える限り黒色の海、月光が反射し、まるで道を作っているような美しい風景だがジャックはそれどころではなかった。



 しばらくして、ジャックは三号車と四号車の間に着いた。


(もうここでいいや!早く、早く戻りたい!)


 ジャックは三号車と四号車の連結部分に足を掛け、三号車の下に爆弾を貼り付けた。

 爆弾には磁石か粘着液か何かが付いており、列車の底に固定された。


(うぅ、こわいこわい、早く戻ろ)


 ジャックは先程と同じように窓枠を経由し、リッパーとメリーが待つ六号車へと向かった。






























 そんな状況を上から見ている男が居た。


「ウッヒャッヒャ!!計画通りでゴザイマース!一ヶ月間毎日頑張った甲斐がアッタ!!奴が……ジャックザリッパーがこの私の城に乗り込んだゾ!!!」


 男は腕を広げそう言った。


「さぁ、レッツパーリーナイト!!今宵、この列車モロトモ奴を殺させてアゲマショウ!!ヒャーッヒャッヒャッヒャ!!!」


 男の笑い声が黒い海に響き渡った。









 ⬜︎⬜︎⬜︎


 「ひゃあああぁぁぁぁ!!!」


 メリーとリッパーが待つ部屋にジャックが窓から飛び込んで来た。


「ニャ、ニャー?(だ、大丈夫か?)」

「う、うん、だいじょうぶだいじょうぶ………」

 ジャックが地面に膝を付きながら言う。


「あなた、水が苦手なのね、いいこと知ったわ」

「………危ない予感……」


 ジャックは立ち上がり、座席に戻った。

「ふぅ………乗り物ってこんな速いんだね、初めて知ったよ」

「………ジャック、これまで乗り物に乗った経験は?」

「ない」

「……そうでしょうね」


 メリーは呆れたような表情をした。


「………メリーはこの乗り物の情報を知ってるのか?」

「ええ、開業してから一か月、とある科学者が水の中でも腐食しない木を作り出してそれを使おうと造られたのがこの『ベネッセ彗星水上特急列車』よ」

「へぇ、開業してまだそんな時間経ってないんだ」

「そうよ、駅は四つ、東西南北に一つずつ、南地区の駅はすっごい簡素だけど北地区の駅はとんでもない大きさよ、おみやげも沢山あるわ」

「………そのまんじゅうは?」

「そこで買ったわ、北地区でとれる牛乳を濃厚クリームにした一つ五百円のお高い饅頭よ」

「へぇー、案外文化的な生活してんだね」


 そんな軽い雑談をしている時、個室と廊下を繋ぐ扉が開かれた。


「おっと、これは会話を邪魔してしまってすまない、きっぷの拝見をさせてもらいます」


 ジャックはナイフを構え、出てきた男を襲おうとした。しかし、メリーがそれを手を差し伸べて止めた。


「はい、座席は間違えてないはずよ」

 メリーはそう言い、二枚の切符を乗務員に見せた。


「………はい、確認できました。水上の美しい旅をお楽しみください」

 乗務員はそう言い、部屋を離れていった。


「……そのきっぷ、どこから出てきたの?」

「さぁね、たまたま手の平に二枚あっただけよ」

「………そんな訳ないだろ……」


 ジャックはナイフを座席の上に投げ置いた。


「ところでリッパー、ずっと黙ってるけどなんかあった?」

 ジャックはコートの中に蹲っているリッパーに話し掛けた。


「………ニャー(………ずっと寒いんだよ)」

「あ、あぁ、ごめんごめん」


 ジャックは開いている窓を閉じようとした。しかしまた窓は動かず、メリーの助けを借りて窓を閉めた。


「ニャー、ニャー?(ありがとよ、ところでメリー、ここでもしジャックを襲えば勝てるかもなんだぞ?)」

「と、とつぜんね」

 メリーがそう驚いて返した。


「リッパー、もしもほんとにメリーが襲ってきたらどうすんの」

「ニャー(さぁな)」

「さぁなって………」

 ジャックが呆れたように返した。


「まぁここで襲っても当然いいわ、けど今は休戦ってことにしてるの、前に戦ったのは二日前の八回目の戦いだったはず、一瞬で負けたけどね。まぁまだ戦うことはできないわ」

「………メリーって私が言った三日周期で絶対に来るよね」

「私は約束を守るタイプよ、あと単純にジャックが強いから戦っても勝てないってだけ」

「……ギリほめてる?」

「誉めてる」

「や、やったー?」


 ジャックとリッパーとメリーは少しの間黙り込んだ。汽車の走る音が響き続ける。


「……水の上を走る列車、幻想的よね」

 メリーが突然言い出した。

「突然どした?」


「いやー、考えてみなさいよ。無限に続くような海の上を煙を上げながら走る汽車なのよ、幻想的じゃない?」

 メリーが窓の外を見ながら言う。


 窓の外には月と月光を反射した光の道、残りは暗い海が見える。汽車はその上を走っているのだ。


「確かに幻想的って言えばそうだけど、この列車も今日が命日、楽しむなら今のうちだよ」

「ニャー(命日なんて言葉どこで覚えた)」

「……リッパーは私の事を五歳児くらいだと思ってる?」

「ニャー(思ってる)」

「後で覚えといてね♪」

「ニャー!!!(すまんすまんすまん!!!)」


「ほら、そんなしょうもない話してないで、そろそろ東地区の駅に着くはずよ」

 メリーがそう言う。


「東地区の駅ねぇ、東地区が一番発展してるのに北地区の駅が一番大きいのか?」

「ええ、ジャックが居る南地区から離れた場所を発展させたいでしょ?」

「まぁ確かに」


 汽車が警笛を上げ、陸の上に上がった。


「もう時期ね、駅に着くのは」

 メリーはそう言う。

「まぁまだ動き出さないし、まだゆっくりしておこ」


 そう言ったジャックの膝の上にリッパーが乗って来た。

 ジャックは特に何も言わず、リッパーの頭を撫で始めた。


「リッパーもちゃんと猫なのね」

「ニャー(あったりめぇだ、甘えたい欲くらい出る)」

「アハハ、私だってあまえた〜い」


 ジャックは膝の上にいるリッパーの上に胴体を乗せた。


「ニャ!ニャ!!(くぁ!死ぬ死ぬ死ぬ!!)」


 そんな事をしていた時、列車が駅の中に入った。しかしスピードを緩めていない。なんなら上げている。


「………ジャック、ちょっと何か起きるかも」

「ん〜?どうしたの〜?」







 列車はスピードを緩める事なく、東地区の駅を超スピードで通過した。

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