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三殺事件 ~The End of World~  作者: Red
第八章 番外編 ジャックの日常
26/50

第二十六話 番外編 ジャックの日常

 ジャックの隠れ家にて、ジャックは地面にうつ伏せになって倒れていた。


「……毒入りクッキー………甘い物が食べれると思ったのに………」


 ジャックは不服そうにクッキーが入っていた紙袋をゴミ箱の中へと入れた。

「ニャー?(お前っていつの間にメリーとそんな交流深めたんだ?)」

「さぁ、まだ家に無断で乗り込むような関係じゃない……はず」

「ニャー(相手がおかしいってことか)」

「まぁそれしかない……はぁ………甘い物食べたいなぁ……」


 そのタイミングでジャックの腹が声を上げた。

「あぁ、お腹も減った……」

「ニャー(俺に飯の準備はできねぇぞ)」

「……準備しますかぁ………」


 ジャックは立ち上がり、飯の準備へと取り掛かった。

 時刻は午前四時、一般人は寝ている時間だがジャックにとっては夕方程度、腹が減るのも無理はない。


 ジャックは棚からレトルトのカレー、米、それとどっから奪ってきたか分からないりんごを取り出した。

 レトルトのカレーと米は電子レンジへ、りんごはミキサーにかけ、アップルジュースにした。

 何故電気があるのかは分からない。


「ニャー(俺のメシも頼むぞ)」

「流石に今日は忘れてないよ」

「ニャー(つい最近忘れてたから怖ぇぜ)

「アハハ、あの時は自分でもビックリだよ」

 

 ジャックは皿に米とカレーを盛り付け、アップルジュースはコップに注ぎ、リッパーの餌皿には普通のキャットフードを注いだ。

 無論、これも当然盗んだ物だが。


「じゃ、いっただーきまーす」

「ニャー(一体誰に対する感謝の言葉なんでしょうね)」




 しばらくして、ジャックは飯を綺麗に平らげた。

「ふぅ、お腹いっぱいだ!」

「ニャー(そりゃよかった)」


 ジャックは立ち上がり、皿たちを水道水で軽く洗った後、食洗機の中に入れた。

 何故水道が通っているのかも分からない。


「ニャー?(明日の活動は?)」


 リッパーがそうジャックに話しかけた。

「明日?明日は東地区に行こっかな」

「ニャー(なるほど)」

「なに?リッパーも着いてくる?」

「ニャー(いや、断固拒否、風呂に入りたくない)」

「たったそれ程度の理由……まぁ私は風呂に入ってきますけどね」


 ジャックはシャワー室の中へと入っていった。

「……ニャー(……泳げれんくせに風呂は好きだよな)」

「んー?何か言った?」

「ニャー(いいやなにも)」


 リッパーはベッドの上から飛び降り、自らの餌へとかぶりついた。

 普通のキャットフード、味は表現できない。


「うわ、この服すっごい汚れてるじゃん」

 そうシャワー室一歩手前の更衣室から声が聞こえる。


(当たり前だろ……)

 リッパーは思わずそう感じた。


「けーど洗ったら洗ったで洗濯機汚れるしなぁ……まぁいいや、洗濯しよ」


 そのセリフと共に真っ裸のジャックが更衣室から出てきた。



(!?!?!?!?!?)



「グフッゲフッゲフッ!!!」

「うわ、猫って咳するんだ」

 ジャックはそう言い、洗濯機に服を入れてすぐに更衣室の中に戻って行った。


(アイツは馬鹿か!?いくら相手が猫だとはいえプライバシーがねぇぜ!?)

 リッパーは動揺しながらも食事を再開した。


(アイツに生き方を教えてやらんやな……)

 リッパーはそう思いながら飯を食い進めた。


 しかし、リッパーは常に裸である。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


「ニャー(あのージャック)」

「ん?なにー?」


 黒いパジャマを着ているジャックにリッパーが話しかける。まだ髪を拭いているようだ。

「ニャー(あのなー、あんま裸のまま更衣室の外に出るのはやめた方がええで)」

「えー?別に猫しか居ないじゃん、人間に恋愛感情抱かない猫しか」

「ニャー(だとしてもだ、流石に常識を知ろうや)」

「う〜ん……まぁリッパーがそれだけ言うんなら今後は気をつけるよ」

「ニャー(それでええ)」


 ジャックはタオルを洗濯機の中に投げ捨て、ヘアドライヤーを取り出した。

「ニャー(あ、俺が嫌いな音)」


 ジャックはドライヤーの電源を入れた。

 凄まじい機械の轟音が鳴り響いている。


「ニャー(あー、うっせぇ)」

 リッパーのその声もドライヤーに打ち消されている。リッパーは喋っても無駄だと理解し、黙り込んでいた。


「ねぇリッパー」


 そうドライヤーの音越しに声がした。

「ニャー!!(なんだー!!)」

「私が作った閃光弾ってどこいったのかな?」


「……ニャ?(……は?)」


「いやー、前のプロテクターとの戦いの前に閃光弾作って持ってったじゃん、あれ無くなってるんだよね〜」

「ニャ、ニャー(いやいやいや、それ結構重要な事件だろ)」

「まぁ別に無くなってもまた作ればいいだけなんだけど」

「ニャー……(いやそういう問題じゃなくて……)」


 その時にやっとドライヤーの音が鳴り止んだ。

「ニャー(確かにお前、閃光弾使ってなかったよな)」

「うん、なんだか使う機会が訪れなかったって感じ?」

「ニャー……(なんだその曖昧な……)」

「まぁ別にいいよ、例え敵に取られちゃってたとしても素人が使えるようなもんじゃない」


 ジャックはドライヤーを置き、リッパーの座るベッドへと飛び込んで来た。

 リッパーはジャックを慣れたようにかわした。


「にしても眠い……」

「ニャー(寝るの好きだよな)」

「わたしはねこで〜す……ねこはいちにちじゅうごじかんくらいねるので〜す………にゃ〜…………」


 ジャックは最後にそう言い残し、うつ伏せのまま夢の世界に入っていった。


「……ニャー(……俺もネコなんやがな)」


 ⬜︎⬜︎⬜︎


 翌日夕方五時、ジャックはリッパーに叩き起こされた。

「まだねむい……」

「ニャー(さっさと起きな)」


 ジャックはリッパーに唆されながら飯の準備とシャワーなどを済ませた。

 そして午後七時程度、空も暗くなっており、街には夜が訪れていた。


「じゃ、行ってくるね」

「ニャー(ほいよ)」


 そのような会話を交わし、ジャックは家から出て東地区へと向かった。


(はーあ、眠たいなぁ……)

 ジャックはそんな事を思いながら建物を乗り継いで移動している。人の気配はしない。


(今日は帰ったらすぐに寝よ……)

 ジャックは心にそう決め、東地区に向けて足を動かした。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


 東地区の街は普段に比べて凄まじく静かだった。人の気配が少なく、道を歩く者は居ない。

(東地区のくせに人少ないなぁ……こんな遠くまで来てやったって言うのに………)

 

 ジャックはそれでも建物の中に入り、中に居る少ない人間を殺して行く。

 老若男女関係ない。全てをジャックは切り裂いて行った。


 そんな時、ジャックは通りで人間の残殺死体を発見した。

「………なにこれ……」


 ジャックが発見した残殺死体は恐らく十体は居るだろう。

 誰が殺した死体なのか、ジャックはなんとなく予想が付いていた。


(……多分アリスか、東地区に行ってたんだね。時には会いに行こうかな?)

 アリスはそんな事を言いながら地面に落ちている死体を軽く蹴った。返事は返ってこない。


(にしても何で放置されてるんだろ、警察は一体何してんの?)

 ジャックはそう考えた。

 

 しかし数秒後、考えても意味が無い事に気付き、その場を離れた。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


(う〜ん……あまりにも人が居なさ過ぎる……)

 この東地区の街にジャック一人だけの足音が響いている。他の足音は聞こえない。


(……これまで行った事ない所とか行こっかな?)

 ジャックはこれまで基本東南地区、東地区を中心として活動している。行った事がないのは南端と西、北だ。


(まぁ今はいいや、そんな事より美味しそうなサンドイッチ手に入れたしさっさと食べよ♪)


 ジャックは懐から紙袋を取り出した。


 そして周りに人が居ないか確認し、路地の中に入った。食事中邪魔されたくない為だ。


 ジャックは紙袋を乱雑に切り裂き、中からサンドイッチを取り出した。ラップに包まれている。


(いやー、すっごい美味しそう♫)

 ジャックはサンドイッチのラップを剥がし、地面に座ってそれを食べ始めた。


(う〜ん!やっぱり美味しい!………この味が今後食べれなくなったってのは少し悲しいな……)

 ジャックはサンドイッチを着々と食べ進めていった。

 定期的に腰にかけられた水筒を取り出し、その中身を飲んで喉を潤している。


 時刻は午前0時、ジャックの腹が減るのも無理はない。



 ジャックがサンドイッチを堪能していた時、遠くから足音が聞こえてきた。



(ん?食事中にだれ?)

 ジャックは足音の聞こえる方向を振り向いた。

 そこには紫髪のポニーテールをした少女が居た。



「じゃっくざりっぱー……"最強で最凶の殺人鬼"、そうよばれてるのはあなたのことでしょ?」



 少女はそう不気味に言った。

(え〜、私そんな呼ばれ方してるの?嘘でしょ?まぁいいや、冷静に冷静に)


「そんな呼ばれ方してるのは知らないけど、ジャックザリッパーってのは私の事だよ」

「よそうどおり……はなしたいことがひとつある」

「話したい事?このわたしと?」

「うん」


 少女はジャックに歩み寄ってきた。

「あ、まだお昼ご飯食べてる途中なんだけど……」

 少女はジャックの一歩手前で立ち止まった。


「………」

 そして静かに見つめてくる。


「……こんな状況じゃ落ち着いてご飯なんて食べれないよ………」

 ジャックは食べかけのサンドイッチをラップで包み直し、後方のポケットの中に入れた。

 そして立ち上がり、少女と目を合わせた。身長差はたった10cm程度で目線は自然と合う。


「で、話ってのはなにさ、この殺人鬼に向かって」

「……なかまになりたい」

「………なかま?」


 ジャックはあらゆる可能性を考えた。

(仲間?私仲間作る気は全くないけど……仲間?考えられる可能性は殺人鬼になりたい子なのか単純に生き延びたい子なのか……まぁいいや、殺しちゃ……)

 その時、ジャックの頭に一つの仮説が浮かび上がった。



(この子……アリスと仲間だったりする?)



 ジャックがこう考えた理由は……勘だ。深い理由はない。

(……ちょっと試してみるか)



「分かった。けど、仲間になるにはそれ相応の実力も必要なんだよね。今から次に出会った人、その人を殺してみてよ」



 少女は明らかに動揺していた。しかしすぐに表情は戻った。

「………わかった。そんなかんたんなこと……」

「ただし、殺せなかった場合や殺そうとしなかった場合……」


 ジャックは少女の首にナイフを突き付けた。一瞬の早技だった。



「私がこの手であなたを殺す」



 少女は無表情を貫ききれなかった。明らかに動揺をし、怯えの感情を出していた。

「アハハ、勝てばいいだけだよ、簡単簡単」

(多分ここの街にいる人間は少ない……相対的にアリスと一番に出会う確率は上がる。しかももし本当に仲間なんだとしたら助けに来るはず……)



「……………はなしたことは、りかいした」

 


 少女の顔はまだ怯えている。しかしセリフには覚悟が感じられた。


「じゃ、私は上から見守っておくね〜♪」

 ジャックはそう言い、腰の機械を使って近くの建物の屋上まで登った。


(いや〜、けどそんな予想通りな事なんてあるかなぁ……)

 ジャックはポケットの中から食べかけのサンドイッチを取り出し、それをまた食べ始めた。


(もしも予想通りなんだとしたら少し怖いな……まぁいいや)



 その時、遠くから声がした。

「バートリ!何処にいるの!返事して!」



(えええぇぇぇ!?よ、予想通り!?)

 ジャックは驚きながらも声のする方向を見た。


 その時、下にいた少女が「おねぇちゃん……」と言った。

 少女はそう言ったと同時に口を押さえた。無意識のうちに呼んでしまった事に驚いたのだろうか。


(ま、まぁ釣れるんなら話は別になるね)

 ジャックはサンドイッチを食べ切り、ゴミを屋上に投げ捨てた。


(さ、そろそろ来ますよぉ〜)

 そうジャックが思ったと同時に道から「バートリ!!」と叫んだアリスがやって来た。


「バートリ!一体何処に行ってたの!?」

「おねぇちゃん………」


 少女の顔は混乱と恐怖に満ち溢れていた。


(よし自分、呼吸を整えてっと……)

 ジャックはそう思いながらビルから飛び降りた。


「や〜っぱりアリスと繋がりがあったか」


 ジャックはそう言いながら地面に静かに着地した。

「いやー有能だね、流石仲間になりたいと言うだけある」


 ジャックは少女の隣に立ち、少女の首にナイフを突き付けた。


「別にアリスを殺したいって訳じゃないけど、あんまアリスには仲間を作らず活動してほしいんだよね」



「………そのナイフ、どうするつもりだよ……」



(うわ、なんか気配が変わってる?この数日で……)

 ジャックはとにかく動揺を隠している。


「君の行動次第、この子を捨てるかそれとも守ろうとするか」

「………」

 アリスは黙り込んで一歩後退りをした。


「………おねぇちゃん……」

 少女は必死で何かを訴えていた。恐らく助けてと思っているのだろう。


 アリスはジャックにマスケット銃を向けた。

「おっと、やる気?やるんだったら……」


 ジャックは少女の首筋を少し切り裂いた。

「きゃあぁ!!!!」

 少女がそう叫んだがジャックは無視してこう続けた。


「こうしちゃうよ?」


 アリスはしばらく黙り込んだが、すぐに覚悟を決めて話し始めた。



「……その腕を下せ………さもないと撃つぞ!!」



(………明らかに前と別人物みたい……声の一つ一つに覚悟が籠ってる………)

 ジャックは心の中だけで動揺した。


「へぇ、面白いね、主導権を握ってるのは今こっちだよぉ?」

「黙れ!!」


 アリスはそう言い、ジャックに向けてマスケット銃を放った。

 放たれた弾丸をジャックはナイフで弾いた。しかし強い衝撃がジャックの腕を揺らした。


(お、おっも……こんな銃弾バンバン弾いてたら腕痛めちゃう……)

 ジャックがそう考え事をした隙に少女はジャックの横から抜け出し、アリスの後ろに隠れた。


「あーっと、想定外………ほら、仲間になりたかったんじゃないの?」

「………」

 ジャックの事を少女はフルシカトだ。


「おねぇちゃん!!」

「怖かったね、安心して、おねぇちゃんが守るから」

 アリスはジャックに視線を向けた。


「あーあ、想定外の事だった。まぁいいや、もう仲間になる気がないってことはよく伝わったよ、だからここで死んでもらおう」

 ジャックはスピード(デザートイーグルを改造した銃)を取り出した。


「と、とりあえず隠れてて……奴は……容赦ないから……」

「わ、わかってる」


「感動的だったけど、私の心には響かないよ。じゃぁね」


 ジャックはスピードをバートリに向けた。


「させない!」


 アリスはジャックに向けてマスケット銃を放った。

(あーまずい!これしか方法が……)

 ジャックは銃の側面で銃弾を弾いた。しかし、次の瞬間。


 ガシャン、という音と共に石の塊が降り注いできた。

(あぁ!?や、やっちゃった……れ、冷静に冷静に)


「あーっと、邪魔」


 ジャックは冷静を装うためそう言った。

 そして、空から降り注いでくる大きな岩をナイフで真っ二つにした。


(これやったらナイフ痛むから嫌なんだよなぁ………)


「え!?は!?」

 アリスはそう動揺していた。岩を真っ二つに切り裂いたことに対しての驚きだろうか。


(………ふぅ、なんとか耐えた……カッコつけよ)


「いやー、壁が脆くなってるんなら先に言ってよ……」

(決まった………)


 ジャックはアリスと少女の方向を振り向いた。アリス達はジャックのセリフに反応していない。


 その時、少女がアリスよりも前に出てきた。

「ば、バートリ!?やる気なの!?」

「………まかせて」

 バートリと呼ばれた少女はポケットから小さなナイフと首掛けのペンダントを取り出した。


「自ら戦おうとするなんて勇敢だね、今なら戻ってくることを許すよ?」

「………」

「……黙り込むなんてつまんないね、もういいよ」


 その時、バートリは静かにペンダントを開いた。


「………ん?なにそれ」

 ジャックは興味本位でそう聞いた。


「………みたい?」

「うん、そりゃ」

「じゃぁ、みせてあげる」


 バートリはペンダントの中身をジャックに見せた。





(な、なにあれ………赤い……うずみたい………な………)






 そこで、ジャックの意識は途切れた。

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