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三殺事件 ~The End of World~  作者: Red
第七章 長い長い長い夢
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第二十五話 長い長い長い夢

 アリスはジャックが振り下ろすナイフよりも早く動いた。

 そして、マスケット銃の側面を使い、ジャックのナイフを弾いた。


 カチンという音が路地に鳴り響いた。



「ギャ…ギャハハハハハハハッ!!」



 片目を紅色あかいろに染めたアリスが不気味に笑った。

(お、思い通りに…体は動くけど……)


「ギャハハハハハ!!」

 アリスはジャックの腹に向けて蹴りを放った。


 ジャックはそれを避けることもせず、普通に喰らい、飛ばされた。


 ジャックは地面にうつ伏せになって倒れた。


(な、なんか表情筋可笑しいし……声も変になっちゃってる………)


「お、おねぇちゃん……!?」

「アハ、アハハハハハ!!!ば……ばーとりぃ……すぐにぃ…にげてぇ………」

「わ、わかってるけど……あ、あとでいいか………まかせる」

 バートリは肩から血を垂れ流しながら暗い道を走っていった。


(か……体の制御が完全に効くって訳でもないみたいね……あと私の喋り方可笑し過ぎだ………)


 アリスは地面に倒れているジャックに目をやった。


「………」


 ジャックは黙ったまま立ち上がった。そして静かに赤い目をアリスに向けた。


(うっ……恐怖心が………)

 アリスはそう思うが体は言うことを聞かない。


「アハハハハ!!!」

 アリスはマスケット銃を構えた。そして、引き金を引いた。


 飛び出した弾丸はジャックの眼球目掛けて飛んで行った。しかしジャックはまるで未来を見ているようにそれを避け、一瞬の内にアリスの目の前に移動した。


「アハハァッ!!!!」

 アリスはそんなジャックの動きをまるで未来予知していたかのように予想できた。


 アリスはジャックの振るったナイフを避け、ジャックの顎に向かって蹴りを放った。

 ジャックはそれを当然のように避ける。


 そしてジャックはアリスの腹に向かって蹴りを入れた。

(うっ!!)

 アリスはそれを喰らい、後方へと飛ばされた。


(イタタ……やっぱり見える?奴の動きが若干見える……のか?まるで未来を予知してるみたい………)

 アリスは体勢を立て直し、腰から一本のナイフを取り出した。

「キャハハハハハハハ!!!!!」

 そして不気味に笑った。


(相手の動きが……分かる………)

 ジャックはアリスに向かって走り出した。

 そしてナイフを構え、アリスにそれを突き刺そうとした。


(………見えた!!)

 アリスは一瞬の内に動いた。ジャックのナイフをマスケットで弾き、相手の腹に向かってナイフを振るった。

 そのナイフはジャックの腹を豪快に切り裂いた。


「………」

 ジャックは黙りながらも地面に倒れてうずくまった。


「キャハ!!ギャハハハハハ!!!」

 アリスはマスケット銃の狙いをジャックの頭に定めた。


(コイツを殺せば……家族の仇を取れる!!)

 そして、引き金を引いた。



 しかし、飛び出した弾丸はジャックのナイフに防がれた。



「痛いじゃないか……服も破れちゃったし………」

 


 ジャックはアリスの背後に居た。

「!?」

 ジャックはアリスに向かってナイフを振るった。アリスはそれをギリギリで避ける。


 そして体勢を立て直し、ジャックを迎撃する準備をした。

「い、いや……流石に戦わないよ、もう」

「キャハハハハ!!!!にげるきぃ???」

「……そうだね、なんか、戦う気が失せた……」


 ジャックの腹から流れる血はもう止まっていた。

「キャハハハハ!!!そうはぁさせないよぉ???」

「あっそ」

 

 ジャックは軽くそう言い残し、一瞬で路地の闇の中に消えていった。


 アリスは攻撃する判断が遅れてしまい、ジャックを逃す羽目になった。


(え?えっ!?勝ったの!?コレ!?)

 アリスは動揺を隠せなかった。何せこれまで戦って勝てなかった相手に一本取ることができたのだから。

 しかし、アリスの体は全くそんな感情を感じていなかった。


「キャハハハハハハハハハハハ!!!!!」


 アリスは路地を歩き始めました。


(ちょ!?もう終わったって自分!!戦いは終わり!人格戻れ!!)

 アリスはそう強く思いますが体は言う事を聞きません。


(あぁあぁダメダメ!!意識があるのに……!!!)


 アリスの体は明るい路地に向けて動いていました。

 その時です。



「おねぇちゃん……かったみたいだね………」



 肩から血を流しているバートリがアリスの前に現れました。


(ダメダメダメ!!お願い!!バートリ逃げて!!!)

「キャハハハハハハハ!!!!にんげんだぁ!!!!」

 アリスの体と頭は全く別の考えをしていました。


「だいじょうぶ、まえとおなじようなかんじ」


 バートリはポケットから首掛けのペンダントのような物を取り出し、それの中身をすぐアリスに見せつけました。

 そしてそれを左右に振り始めました。


「………」


 アリスの体は黙ってそれを見ていました。

 しかし、アリスの頭は別の事を考えていました。



(な、なにあれ……黒い………渦?)



 アリスはペンダントの中身を見ていました。

 それはまるで黒い液体が渦を巻いているようでした。なんとも不思議です。




(あ、あれ?いしきが………)




 アリスの意識は突然パタリと断ち切られました。


 そして、アリスは地面に倒れました。






 ⬜︎⬜︎⬜︎











 まだ夜が明けない頃、アリスは路地の中で目を覚ました。


「あ………あぁ……………」

「お、おねぇちゃん」

 バートリは倒れていたアリスの隣に三角座りで座っていた。


「……バートリ!?怪我は大丈夫!?」

 アリスは飛び起き、バートリの元へ移動した。


「た……たぶんだいじょうぶ……これまでおなじようなことあったし…………」

 バートリの背中からの流血は止まってはいるようだ。しかし、体の小さいバートリがこの量を出血すればいつ意識が途切れるかわからない。


「いやいやいや!!何か、何か近くに病院とかないの!?」

 アリスは腰回りに巻いているリボンを解き、そのリボンの汚れていない部分をバートリの出血部に押し当てた。


「ぼくをかくまってくれるびょういんはない……じぶんでたいしょするしかない」

「………っ!!」


 アリスはリボンをバートリの肩に巻き、傷口を防いだ。

(けど血は止まってる……意識もしっかりしてる……とりあえずは大丈夫そう…………よかったあああぁぁぁ……)

 アリスはかなり安心した。


「と、とりあえず家のベッド!家のベッドで寝よう!」

「うん、いますぐにでもそうしたい」


 バートリは自分で歩き出そうとした。

「流石に今は甘えたっていいよ!」

「……え?」


 アリスはバートリをお姫様抱っこし、走り出した。

「うわっ!ちょっ!」

 バートリは驚きの顔をしていた。


「流石にその怪我じゃ歩いてる時にぶっ倒れちゃうよ!甘えたっていいんだよ!」

 アリスは自分の記憶を頼りにバートリの家を目指し始めた。


「ちょ……すごいゆれる………」

「しょうがないでしょ!」

 アリスは全速力で走っている。その為かなり揺れているがアリスは全く気にかけていない。













「……………バートリ、私一つ決めた事があるの」



 アリスは覚悟を決めて話し始めた。

「とつぜんあらたまってどうした」

「……そんな言葉よく分かるね………」


 アリスは息を大きく吸い込み、そして話した。

「私、やっぱり殺人鬼として生きるのは無理だ」

「うん、それがどうした」

「けどね、気づいたの……



 私、人を助ける殺人鬼として生きようと思うの」



「………ひとことでむじゅんしてる、なにいってるのかわからない」

「私も自分自身で何言ってるか理解できない。けど、それでも言葉通り、この殺人鬼の能力を生かして人を守る」

「さつじんきでひとをまもる………ごめんいみがわかんない」

「まぁそりゃそう」


 アリスは道の角を曲がり、真っ直ぐ進み、そして記憶に残っているゴミ箱二つを見つけた。

「あ、着いたよ………なんか近いような?」

「………」

「大丈夫?歩ける?」

「あるける……けどなんどかんがえたっていまおねぇちゃんがいったことがりかいできない」

「……アハハ………」

 

 バートリはアリスから降り、狭い隠し通路を進み始めた。背中には痛々しい血の跡が残っている。

 アリスもバートリに続くように狭い隠し通路を進んで行った。何度も通っている為引っ掛からずに進めるようになっている。


 部屋の中につくとバートリはすぐに棚から救急箱のような物を取り出した。

「おねぇちゃん、これ」

 バートリはそう言い、アリスに救急箱のような物を差し出した。


「あ、あぁ、そりゃ肩を自分で治療できないか……」

「ちがう、おねぇちゃんのかた」

 アリスはこの時、自分の肩から血が流れていることに気付いた。それに気付いたと同時に痛みもやってきた。


「え?あ、い、いや!そんな私よりバートリの方が傷が深いよ!バートリの傷を治さないと!」

「いや、ぼくはだいじょうぶ、しゅっけつもとまってる。けどおねぇちゃんのしゅっけつはまだとまってない」

「……確かにそうだけど……けどバートリの方を優先して治療しないと!時には甘えたっていい!」


 アリスは抵抗するバートリを無理矢理押さえつけ、肩の治療を始めた。


「ちょ、ちょっとむりやりすぎだよ」

 バートリはそう言うがアリスは聞く耳を持っていない。


(……怪我深刻じゃん………こんな怪我してるのに私を優先するなんてなんて優しい子なんだ!!)

 アリスは救急箱の中身を使い、バートリの肩を包帯でぐるぐる巻きにしている。治療はかなり雑だ。


 しばらくして、バートリは抵抗もせずアリスの治療を受け終わった。

「よし、コレで多分大丈夫……だと思う………うん」

「……ざつすぎ………」

「………ごめん………替えの服とかはあるの?」

「ある、そこ」


 バートリが指差した方向には真っ白なワンピースが乱雑に畳まれ置かれていた。


「…………あの服……」

「どうかした?」

「い,いや何でも……」


 アリスは服を掴み取り、バートリにかなり乱雑だが着せてあげた。服はやはり血で汚れているが前の黒い服に比べれば随分と綺麗だ。


(この服……やっぱりそうだよね………)

「……なにかんがえてるの?」

「い、いや何でもないよ」

「……あやしい………」

「あ、アハハ……まぁそんな事より、バートリが無事で本当よかった………ちょっと聞きたい事あるんだけどいい?」


 アリスには気になっている事がある。バートリがいつ抜け出してジャックと出会ったのかだ。

「うん、ききたいことはなんとなくわかる」

「まぁジャックといつ出会って何があったのかってところだね」


「……ひとのけはいをさっちしたんだ、ここでねてたときに」

「ふんふん」

「そのけはいのもとにいったらじゃっくがいた。そこでなんやかんやはなしして、ありすをおびきだすためのわなになった」

「………何があったの……?」

「さぁ、いちからひゃくまではなせばみっかかかる」

「………まぁいいや、何となくは分かったし」


「そんなことより、ぼくもきになってることがある」

「うん、こっちもなんとなくは分かってる」

「……ひとをまもるさつじんきってどういうこと」

「自分でも分からない。けど本当に言葉通り、この殺人鬼の人格を操作して人を守りたい」

「………いみわかんないや」


 バートリは立ち上がり、ベッドの上によじ登った。

「………けど、ぼくはそれにきょうりょくするよ」

「………え?」

「ほんもののさつじんきのこわさをしった。すこしのあいだじぶんとむきあいたい。ほんとうにこれでいいのか」

「そんな思考どこ使ったらできるの!?


 ………けど、言いたい事は伝わった」


「……ぼくのもくひょうたっせいのしもべさん」


 バートリはアリスに手を差し出した。



「これからも、よろしく」



 アリスはバートリの手を握り返してこう言った。



「こちらこそ、よろしくね」

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