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三殺事件 ~The End of World~  作者: Red
第六章 メアリー・セレスト号(第二幕「長い長い長い夢」開始)
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第二十話 嫌われ者

「な……なにこれ………」


 メリーさんの乗る船「メアリー・セレスト号」の甲板は完全にガラスのドームで覆われていて、外の風景がよく見えます。


 そして甲板の上には大量に人が居ました。全員忙しく動いており、誰もメリーさんが開けた出入り口に興味を持ちません。


「こ~れは……面倒くさいわね………」


 メリーさんが消せれるのは気配と姿と衣服だけです。物体的には存在するので肩がぶつかったりすれば存在がバレます。

 メリーさんはとりあえず扉を閉め、船の中へと戻りました。


「………これはルートをしっかり考えて動かないとね……」


 メリーさんはこの巨大な船の船内図を入手する為に船内を歩き始めました。


 カタカタというメリーさんの足音が五月蠅い船内に響き渡ります。


 出会う人々はメリーさんの存在を認知できておらず、メリーさんに向けて突進してきます。メリーさんはそんな人々を上手く避けて船内を歩きました。


 そうして一つの部屋を発見し、中に入りました。

 中は副操縦室のようです。船の先頭にある操縦室が使えなくなった時に使います。中には人が数名いました。


「スミス様の命令だ」


 そう男が言います。

(スミス?その子が今回のターゲットかな?)


 メリーさんはその部屋の壁に貼ってあった船内のマップを見ました。船はとてつもなく大きく、この資源が少ないアトランティス大陸内で造れるのか疑問に思うほどの大きさでした。


 その時、後ろから声がします。

「だがこのままだと第三汚染危険区域に入るぞ?」

「構わん。第三汚染危険区域ならまだ耐えれる。しかもこのまま進む以外にメリーという変な殺人鬼から逃れる方法は無い」


「………その殺人鬼って本当に存在してるんですか?」

「あぁ、都市伝説みたいな言われ方はしているが事件も毎日起きている。存在する証拠なんか大量にある」


 メリーさんはその男たちの会話を聞いて、少し笑いました。

(もう私は船の中に居るのにね~)


 メリーさんが漕いできた船は謎の力で他人に見えないようになっている為、人々はメリーさんが船内に居るとは思いもしませんでした。


(まぁ会話の内容なんてどうでもいいわ。外周からぐるりと回っていけば行けそうね)


 メリーさんは副操縦室を出ようと扉を静かに開けました。



「何故お前はそれ程度の事も出来ん!!」



 扉を開けた瞬間そのような怒号が聞こえてきました。

 メリーさんは廊下に出て、声が聞こえた方向を向きました。


「すみませんすみませんすみませんすみません!」

 そこには先程倉庫の中に居た少女と大きな男が居ました。


「すみませんで許せるか!!!!」

 男は手を振り上げ、少女に向けて手を落とそうとしました。


 メリーさんは男の下へと走り、一瞬でロープを男の腕に絡め、振り上げた腕を下せないようにしました。


「な、なんだこれは!!??」

 男はロープを解こうと少女から目線を放しました。


 メリーさんは少女を抱きかかえ、どこかへと走っていきました。


「ッチ…ここらの掃除も頼んでただ………ろ?」

 男が少女の居た所に視線を戻すと、そこには誰も居ませんでした。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


 メリーさんは少女を倉庫の中に連れ込みました。


「ふぅ、危なかったわね」


 メリーさんは地面に手を付いて驚いている少女に話し掛けました。

「あ………おこられちゃいます……こんなことしてちゃ………」

 少女は力ない声でそう言います。


「まず知らない人に誘拐されたのに最初に発する言葉が『あなたは誰?』とかじゃないんだね…」

「い、いや……すみません………わたし……こうやってにげて………またどなられたくないんです………またなぐられたくないんです………」

「………長い間そんな風に扱われたのね……」


 メリーさんは出来るだけしゃがみ、少女と目線が合うようにしました。

「あなたの自由はあなたにある。別に殴られたくないなら逃げればいいのよ?」

「い…いや………そんなことしたら……またおってがやってきて……わたしをなぐって…つれもどす……」

「………中々酷いわね…」


 メリーさんは辺りを見渡し、周りに誰も居ないことを確認しました。

「まぁ大丈夫よ、追手がもう来ないようにしてあげるから。とりあえずはここに隠れていなさい。また後で必ず来るから。あと護身用と言っては何だけど、はいこれ」


 メリーさんは少女の小さな手にたった一つしかないナイフを渡しました。


「これで怖がりさんは逃げていくわよ」

「………」


 少女はキョトンとしながら黙っていました。

「ところであなた、名前は?」

「……まーさ…わいず…………」

「へぇ、いい名前だね」


 メリーさんは少女が持つナイフに毒液を少量かけました。

「じゃ、私は行くわね。一体私は誰なのかってことは気にしないでちょうだいね」


 メリーさんは倉庫に少女を残して去っていきました。


「…………?」


 少女は一体何が起きているのか理解していませんでしたが、それでもメリーさんに言われた通りに倉庫の中に居ました。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


(複雑ね……この船………)


 メリーさんはそんな事を思いながら広い船内を移動していました。慌ただしく動く人間をメリーさんは綺麗に避けています。


 そして道の端に着きました。そこは船の側面にあたる所です。外の景色がよく見え、海の香りが強くします。手すりは風化のせいか錆びています。


「すぅ……………はぁ………海の香り……ちょっと強すぎるかもだけど、いいわね」

 ここの道を通る人は殆どいません。その為メリーさんが歩くのには最も適していました。


 強い日差しがメリーさんの体に当たります。

「あー、あったかいわ……」


 メリーさんはそんな事を言いながら船の側面の細い道を歩き始めました。メリーさんのカタカタとした足音が響きます。


「確か………突き当りまで直進よね」

 メリーさんは頭の中で地図を思い浮かべながら歩きました。メリーさんの手には先程少女に渡したはずのナイフが握られていました。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


 メリーさんはターゲットが居ると思われる部屋を見つけました。その部屋の入り口周りには多くの人が居ます。


「ワイズを何処にやった!!さっさと探し出しなさい!!」

 そう若い女の声が聞こえます。


(………ワイズ……あの子ね)


 ターゲットが居ると思われる部屋からは多数の人が出てきました。そして皆何処かに向かって走り出しました。


 メリーさんは人が少なくなったタイミングを見計らってターゲットが居ると思われる部屋の中に入りました。

 その部屋の内装はこれまで歩いてきた道からは考えられないほど豪華な装飾がしてありました。無意味な金の装飾や無意味なコレクションがあります。


 その部屋の中心には白い髪と黄金と呼ぶにふさわしい黄色い目を持った一人の若い女性が居ました。白いワンピースを着ており、足を組んで座っています。


(あの人がターゲットね)


 ターゲットとなった女性は偉そうに肘を付きながら豪華な椅子に座って足を揺らしていました。


「スミス様、今のところメリーの接近は無いようです」

 男が膝を付きながらスミスと呼ばれたターゲットに話しかけています。


「今のところ?今だけなの?常に厳重警戒態勢でいなさい。甘ったるい事言わないで」

 スミスはそう言いました。


(やっぱり私の存在を知っててこんな事してるのね)

 メリーさんは腰に隠している拳銃を取り出そうとしました。



 その時、メリーさんは拳銃を手から滑り落としました。



 ガチャ、という金属音がこの豪華な部屋に響き渡りました。そしてその部屋に居た人間は一斉に音の鳴

った方向を見ます。


(まずいわよぉ~………)


 メリーさんはゆっくりしゃがみ、銃を拾い上げました。そして近くにあった金属製の高そうなコップを銃を落とした場所に置きました。

 スミスはメリーさんが居る方向へと歩いて来ました。


「す、スミス様!お待ちを!」

「黙れ」


 周りの人の心配を無視してスミスはメリーさんに近づいてきます。そしてスミスは腰に掛けていたナイフを取り出し、それをメリーさんに向かって振るいました。

「………」


 メリーさんは静かにそのナイフを避け、スミスから少し離れました。

「………………」


 数秒間の沈黙が流れます。



「………船の揺れでコップが落ちただけみたい。片付けておきなさい」



 スミスはそう言い、自分が座っていた椅子に戻りました。

(あ………あぶなかったわ…………結構強引な方法だったとは思うけど……バカで助かったわ)


 メリーさんは立ち上がり、ターゲットに銃口を向けました。

 そして引き金を引きました。


 飛び出して来たものは銃弾ではなく、細い針のようなもので、それはターゲットの肩に静かに刺さりました。音も出ていない為ターゲットは肩を少し掻く程度で針が刺さったことには気付きませんでした。


(………よし……)

 メリーさんは銃を腰の何処かへとしまい、人が多く出入りする出入り口から外に出ました。人が多いので中々出ることは大変でした。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


 メリーさんはこの船の倉庫へと移動していました。今回使った毒はかなり遅く発動する為、ターゲットが死ぬまでかなり時間があります。


(今回のミッションは一応成功ね、残りはあの子だけど……)

 メリーさんは倉庫の扉を静かに開けました。




 倉庫には血の海が広がっていました。そしてその犯人はすぐ近くに居ました。




「ふぅ………ふぅ…………はぁ………」


 三つの死体のすぐ近くにはマーサ・ワイズが居ました。息をとても荒げています。


「………随分と派手にやっちゃってるわね」

 死体には憎しみがこもっているのか、ナイフで刺された跡が無数にありました。


「……………マーサ、あなたがこの船の船長よ」

 メリーさんはマーサに聞こえるようにそう言いました。


 そうして、メリーさんはマーサの前に姿を現さず、倉庫から出て行きました。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


 メリーさんは船の救命ボートを展開し、それに乗り込みました。ここに来るために使ったボートは置いていくつもりです。


 メリーさんはこの船、メアリー・セレスト号で少し事件が起きると予想しました。それはマーサワイズの暴走です。


 あと数分で船のボス、スミスは死亡し、船は混乱状態になります。そんな状況になれば船員全員を嫌い、憎んでいるマーサにとっては好都合です。おそらく船員全員を殺すでしょう。


 メリーさんはそんな未来を予想したため邪魔にならないように船から離れました。行きとは違い、エンジンが付いているため比較的に楽です。



「マーサワイズ、約束破ってごめんね」



 メリーさんは大きなボールが上に乗っているような船、メアリー・セレスト号を後にしました。


 マーサ・ワイズはナイフを持った手を震えさせながら地面に座っていた。そのナイフは血によって真っ赤に染まってる。


(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す)


 マーサは地面から立ち上がった。


 そうして、倉庫の扉に手をかけた。嫌われ者を殺す為に。


 メアリー・セレスト号は黒い海に向かって止まらず進んでいた。まるで突進している獅子のように。

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