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三殺事件 ~The End of World~  作者: Red
第五章 三番目
14/50

第十四話 アリス

「ただいま、リッパー」


 ジャックはマフラーとフードを脱ぎながら言う。


「ニャー?(おかえり、返り血も傷も全くないが勝負はどうだった?)」

「まぁ、勝負に勝って試合は引き分けって感じかな?」

「ニャー?(それはどういう?)」


 ジャックは髪の毛を広げ、椅子に座った。


「どうやらメリーを殺すことはできないらしい。私の勘がそう言ってる」

「ニャー(なるほどな、けどメリーには打ち勝ったと)」

「そう。まぁ三日に一度メリーと会うことになっちゃったけど……まぁアイツと戦うのは楽しいしもうどうでもいいや!」

「ニャー(これまたジャックが珍しい事を言いよる)」


 ジャックはテーブルの上に置いてあったフライバースト(S&W M500)を手に取った。


「はぁ、これがあればあの警官に負けなかっただろうな……」

 ジャックはフライバーストのシリンダーを意味もなく開け、そして閉じるという行動を繰り返した。

「ニャー(あ、そういえば忘れ物してたんだな)」

「そうだよ!もう、あれだけ師匠に確認しろと言われてたのに」

「ニャー(ところで警官に負けたとはジャックにしては珍しいな)」

「まぁ………けっこう焦っちゃったからね」


 ジャックは手に持っていたフライバーストを机の上に置き、スカートを止めているベルトのようなリボンを外した。


「今日はもう寝る………明日は早めに起こしてね」

「ニャー(はいよ)」


 ジャックはリッパーが乗っているベットにすとんと落ちた。リッパーは落ちてくるジャックをなんとか避けた。


「じゃ、おやすみ」


 ジャックは風呂にも入らず寝入った。

 リッパーは先ほどジャックが座っていた椅子の上に移動し、ジャックの寝顔を見た。


「………ニャー……(………本日の入眠記録三十三秒……)」


 ☆☆☆


 メリーさんは何も書いていませんでした。


(ジャックを殺せれなかった………さぁどうしましょ)

 メリーさんは薄暗い街を歩いていました。すれ違う人々はメリーさんに全く興味を示しません。


(まぁ定期的に会いに行って殺しかかる。それが一番よさそうね……ジャックに殺されることもないだろうし)

 メリーさんは暗い道をカツカツという足音を鳴らしながら歩いていました。


(………それにしても何故死神ってバレたの?まぁ正確には死神ではないのだけれど………けれどよ。あまりにも勘が鋭い……戦ってる時も所々勘で攻撃を避けていたし………)

 メリーさんは額に手を当てながら考えました。


(行動とか?行動とかで分かるのかしら?いやいやいや、まだ数回会っただけよ、行動なんて見る暇もない………はず……)

 メリーさんは足を止めました。


(いや、もう考えるのはやめましょう。ジャックが化け物だった。だから私の正体も見破られた。これが理由。うん……きっとそう)

 メリーさんは結論を出し、またもや足を動かし始めました。


 ☆☆☆


「こちらNo.3、応答願う」

「あぁ、聞こえている」


 無線で会話する女性の声がホワイトチャペルの街に響く。

「ジャックザリッパーの件はどうなった?」

「見失ってしまった………突然消えてしまって……」



「何をしている!!!!」



 無線越しに怒号が聞こえる。

「お前はいっつもそうだ!!!潜入活動も一度も上手くいったことがない!!!お前はチームにいる意味があr………」


 女はこれが日常と言わんばかりに慣れた手つきで無線を切る。


「はぁ、アイツはいっつも安全なところで働いてねぇくせに……」

 女は無線機を腰につけ、立ち上がった。


「けど奴がいる街は掴んでやった。ここを封鎖して戦えば奴を、ジャックザリッパーを殺せる………」

 女はそう言い、自分の基地へと戻っていった。


 ☆☆☆


 次の日、ジャックは夕方になる前に起きた。というかリッパーに起こされた。


 ジャックは銃の整備やナイフの整備作業などをしていた。

「ニャー(もう忘れ物はするなよ)」

「流石にもうしない。絶対に毎日確認して出ていく」


 ジャックは裁縫道具を取り出した。

「とりあえず結構傷が増えて来たコイツを直さないとね」

 ジャックは慣れた手つきで糸に針を通し、普段の活動服の傷を縫っていった。


「ニャー(質問なんだけどさ)」

「ん?」


「ニャー(何でメリーって奴を殺してみようとしなかったんだ?殺せれないって思ってても実際には死んだかもしれねぇぞ?)」

「それにはふかーいふかーい理由がありましてね」

「ニャー?(理由とは?)」

「まずあのメリーって奴、多分銃とかナイフでの出血死はしない。回復のスピードが早すぎる」


「ニャー?(へぇ、お前よりも早いのか?)」

「そうだね、多分メリーぃぃ!!!」

 ジャックは自分の指に針を刺した。

「………さんなら出血すらせず血が固まってるだろうね、これ程度の傷なら」


 ジャックは針を刺した人差し指を口の中に入れ、血を舐めた。口から指が出てくると傷は無くなっていた。


「ニャー(そうなんか)」

「けど殺す方法が無いってわけでもない」

「ニャー?(その方法は?)」


「毒殺するかメリーの体を一瞬で崩壊させるか」


「ニャー……ニャー?(毒使いを毒殺か……後者の方はどういう事だ?)」

「メリーの再生能力にも限界がある。だから一瞬でメリーが再生できないほど攻撃すれば殺せるかもってわけ」

「ニャー(なるほどねぇ)」

「ま、とりあえず服は直せたっと」


 ジャックは穴の塞がった活動服を放り投げた。

「……テーザー銃……痛かったな………」

「ニャー?(テーザー銃食らったのか?ジャックにしては珍しい)」

「根本的な原因は銃の整備不足と忘れ物だね、これはどっちも私が悪い」


 ジャックはリッパーの居るベッドに腰かけた。

「多分私テーザー銃………というか電気全般の攻撃に著しく弱いみたい。実際メリーが居なかったらあのテーザー銃が原因で捕まっただろうね」

「ニャー(苦手なものが増えたな。水に木材に電気か)」

「………私苦手な物多いね」


 ジャックは地面に落ちていた毒針を拾った。

「………この毒もっと改良できないかな?」

「ニャー?(改良するところがあるのか?俺が見た限りではもうその毒は完璧だが)」

「改良するところは殆ど無い。けどもっと苦しめるような毒にさせたい」

「ニャー……(サイコパス……)」


「ちゃんと人を苦しませるのにも理由があるんだよ?例えば二人の人間が居る。その人間の片方を苦しませて殺したら残ったもう一人は恐怖する。生き残るためには何でもするようになる。つまり情報を抜き出せるってわけ」

「………ニャー?(………なるほど?)」


「ということでリッパー、毒の実験体になって!!」


「ニャー!!(絶対断る!!)」


 ☆☆☆


 女はとある一つの小さな建物に入った。そこは東南地区の街だ。ジャックザリッパーの活動範囲で一番危険な地区だ。人は殆どいない。


 建物はとても狭く、一階建てで中には埃と蜘蛛の巣以外何もない。


 女は建物に入り、地面を強く蹴った。

 すると木製の地面が動き出し、一つの隠し通路が出て来た。

 女はその隠し通路を進んだ。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


「ジャックザリッパーの住む街を特定しました」


 女は椅子に座る男に向かっていった。

「住む街を特定したからなんだ?とっくの昔にもうジャックザリッパーが居る街は大体予測されている」

 椅子に座るスーツを着た五十歳程度の男が言った。


「しかし敵の正確な場所を特定しています」

「ところでそこは何処なのだ?」


「南地区、元エイシン連合王国が管理しているホワイトチャペルです」

 男は立ち上がった。


「なるほど、確かに仕事はしてくれたみたいだな。そこだけは褒めよう。アリス」

「光栄です」

 アリスと呼ばれた女が返事をする。


「そこで私をジャックザリッパー抹殺任務のリーダーに……」

「ダメだ。お前には任せられん」

「………」

「この件は星宇シンユウに任せる。奴の方が頼れる。お前はこれ以上この件に関与はするな」

 男は部屋から出ていった。


「………ッチ……あの糞爺が……」


 ⬜︎⬜︎⬜︎


 アリスは来た道を戻り、建物から出た。

 時は夕暮れ、アリスはジャックザリッパーのいる街、ホワイトチャペルへと向かった。アリスの背中には先ほどまで無かった大きな銃が背負われていた。


 ☆☆☆


「ふぅ、完成かな?」


「ニャー(何故疑問形)」


 ジャックは毒針を飛ばす機械を作っていた。小型であり、ジャックの腕回りに付けることができる。

「ここにカートリッジをセットすれば………よし、大体三十二発撃てるね、バッテリーさえあれば」


 ジャックが作った毒針発射装置はほぼ金属の箱のような見た目をしていた。しかし性能は確かでコイル可動式を採用している。毒針はニッケルメッキを使用し、コイル可動式のため音も少なく、反動も少ない。唯一の問題はバッテリーだけだ。


「まぁ一発ずつしか撃てないのが少し厄介だけど………一発で敵は泡を吹いて死ぬし大丈夫か」

「ニャー(さてさて、一体どんな毒になったのか)」

「じゃぁリッパー、今からこの装置試しに行くけどリッパーも来る?」

「ニャー(今日は行ってやるよ)」

「ふふ、ツンデレねこ」

「ニャー!!(黙れ!!)」

「じゃ、行きますか」


 ジャックは物の準備をし、忘れ物が無いか確認して家を出た。


 ⬜︎☆⬜︎


「一人で来ちゃったけど………大丈夫かな?」


 アリスは建物の陰に隠れながら言う。

(他の人たちが奴を殺す作戦を実行するのは三日後……そんなの待ちきれない!!三日もあったら奴は五百人……いや、千人は人を殺す………その前に私がそれを止める!私なら勝てる!!)


 アリスは背中に担いでいた銃を取り出した。どうやらマスケット銃のようだ。しかしマスケット銃のようには見えず、黒色でスコープまで付いていた。


「ま、奴の動きを待ちますか」

 アリスは道に出てジャックザリッパーのいる街、ホワイトチャペルを歩き出した。





「ニャー(ジャック、あそこ)」


 ジャックとリッパーは建物の屋上に立っていた。


「あれ?人がいる?こんな所に珍しいね」

 ジャックは遠く離れた所に居る女のような人影を見ながら言った。


「………ニャー?(………怪しすぎないか?)」

「うん、とっても怪しいね」

「………ニャー?(………殺す?)」

「いや、ちょっと遠いしあの人間を殺す為に移動するのは非効率的、相手に敵意がないならころさ……」


 その時、ジャックから2mほど離れた所を鉛玉が通り過ぎる。

「おっと、敵意があるようだね、殺そう」


 ジャックは遠くに見える女の所へと走った。





「流石にこれだけ離れてたら当たらないか………とりあえずアイツが来るまでにリロードしないと………」

 アリスは慣れた手つきでマスケット銃に弾を入れる。十五秒ほどで弾を入れた。


 しかしその秒数はジャックにとっては十分だった。ジャックは近くのビルの屋上まで来ていた。


「こんばんは。こんな所で人に合うとは思わなかった。第一危険区域だよ?」

「どうも、糞野郎。なんで今日という今日まで生きてるのかな?さっさと死んでしまえばいいのに」

「おっと、初対面にしては口が悪いね」

「初対面じゃねぇ、目の前で私の両親を殺していっただろう」


「………………覚えてないや」


 ジャックは毒針を試しに飛ばす。暴発などはせず、しっかりと弾が飛び出た。

 アリスは飛んでくる細い針をマスケット銃の側面を使い、弾いた。


「マスケット銃………あなたの仲間が死ぬ直前に言ってた記憶があるな………誰だっけ?」


 ジャックは後ろにいたリッパーに話しかける。


「ニャー………ニャー?(ほらあれだよ、マスケット銃使いの………誰やっけ?)」

「私の名前はアリス、テメェを殺す為にここに来た」

「へぇそう、殺せるといいね」


 ジャックはアリスに向かって飛び掛かった。リッパーはビルの屋上に居たままだった。


 アリスはジャックの攻撃をギリギリで避け、マスケット銃をジャックの後頭部目掛けて振るった。ジャックは振るわれたマスケット銃を屈んで避け、アリスに向かってスピードを放った。


 放たれた弾丸をアリスはマスケット銃の側面を使い、弾いた。

 アリスはジャックと距離を取った。


(攻撃が速い……普段の訓練の比にならない………)

「マスケット銃を使うなんて珍しいね。まぁ一見マスケット銃には見えなかったけど」


 ジャックが言う。


「ま…まぁね。このマスケット銃はかなりの改造を施してるから……そりゃマスケット銃には見えないさ」


 アリスは足を震えさせていた。


「どんな改造かたのしみだね」


 ジャックは水平五連ショットガンを放った。中から出て来たのはスラグ弾だった。

 アリスは体を反り、飛んでくる弾を避けた。


 ジャックはアリスに向かって走り、アリスに向かってナイフを振るった。

 そのナイフをアリスはマスケット銃で受け止める。ギリギリとした金属の削れる音が鳴った。


 ジャックはもう一方の手に持っていたナイフをアリスに向かって振るう。アリスはそれを屈んで避け、ジャックの腹に向かって蹴りを放った。


 ジャックはそれを当然のようにかわし、毒針をアリスに向かって一発放った。


 アリスは飛んでくる細い針を屈んで避けた。


「アリス………って言ったかな?」

「あぁ、そうだけど?」

「そのマスケット銃……なんだか変だね。そのマスケット銃にナイフを当てたらナイフが削れるんだ」


 ジャックはナイフの刃を触りながら言った。


「ま…まぁそうだろうね。なんたって…プロテウスでできてるんだからね」

「あー、そーゆー事ね。そんな複雑な形にすることできるんだ」

「第三次世界大戦中に生まれた技術よ」

「……まぁいいや、そのプロテウスとやらも切り裂く威力でナイフを振るえばいい」

「………それができたらいいね」


 ジャックは腰から小さなクナイのようなナイフを二本取り出し、アリスに向かって投げ、アリスに向かって突進した。


 アリスは飛んでくるナイフ二本の間を潜り抜け、マスケット銃をジャックに向かって放った。


 ジャックは飛んでくる鉛玉を本能で切り裂けないと判断し、鉛玉を避け、アリスに向かってまた突進してナイフを振るった。


 アリスは振るわれたナイフをマスケット銃で受け止めた。

 ギリギリ、という音が鳴り響き、マスケット銃にナイフが食い込んでいった。


(まずい!!!)


 アリスはマスケット銃を振り上げ、ジャックを遠くに飛ばした。


 ジャックは空中で一回転し、地面に両足で着地した。


(………傷ができてる……)

 アリスの持つマスケット銃には傷が一本できていた。

「ふーん、プロテウス製ってのもだてじゃないね。本当に硬いや」


 ジャックは大きく刃こぼれしたナイフを見た。刃は一部分だけ大きく凹んでいた。


「それにしてもそのマスケット銃、威力高いね」

「……火薬量を増やしてるだけ」

「へぇ、けどその火薬の量に耐えれるマスケット銃も珍しいね」


 ジャックはマスケット銃に火薬を入れようとしていたアリスに向かって手に持っていたスピードを放ち、アリスに向かって走った。

 アリスは飛んでくる銃弾をマスケット銃の側面で弾いた。


「………このマスケット銃、威力が高いだけじゃないよ?」

 アリスの手に持っていたマスケット銃の銃口付近から刃が出て来た。


「………わお」

 出て来た刃は長く、かなりのリーチがあった。

 アリスはマスケット銃をジャックに向かって振るった。


 ジャックは体を反らせ、振るわれた刃付きのマスケット銃を避けた。そしてアリスの腹に向けて蹴りを放った。

 アリスは蹴りを避けれず、蹴りを腹に食らった。アリスは「うっ!!」と言い、地面に倒れた。


「まぁ刃が出て来たからと言って根本的な強さには関係しないよ」


 ジャックは腹を押さえて倒れているアリスの頭に向かってフライバーストを突き付けた。アリスの腹からは血が流れており、ジャックの靴の先には血の付いたナイフが付けられていた。


「随分と自信満々に襲い掛かっては来たけど、傷一つも付けられなかったね」

「………そうよね……一人で来るなんて無謀だった………本当に私って無能だ……」

「そうだね、無能だね、じゃ、ばいばい」


 ジャックが引き金を引こうとした時、横からショットガンの散弾が飛んできた。

 ジャックはそれを避けようとしたが避け切れず、顔に掠り傷を負い、猫耳のついたフードに穴を空けた。


 ジャックはすぐにアリスを撃ち殺そうとしたがまたもや散弾が飛んできた。二回目なので流石にジャックは反応し、飛んでくる散弾を全て避けた。

 そして散弾が飛んできた方向を見た。


「その女に触れるな、殺すぞ」

「へぇ」


 ジャックはアリスに向かって腰から取り出した一本のナイフを投げた。それと同時に散弾がジャックに向かって飛んできた。


「あああああぁぁぁぁ!!!!」

 ジャックの投げたナイフはアリスの肩に深く突き刺さった。


 ジャックは飛んできた散弾を全て避ける。

「触れなければいいんでしょ?」

 ジャックは散弾が飛んできた真っ暗な空間を睨みつけながら言う。


「分かった。じゃぁセリフを変える。その女に危害を加えたら殺す」

「で、そこに居るのは誰なの?」


 暗い空間から一人の男が散弾銃のような物をジャックに向けながら出て来て、ジャックとアリスの間に立った。


 出て来た男は全身を黒い服に身を包んでおり、黒いフードや黒いマフラーを着ていた。顔は殆ど見えないが殺意を持った目をしているという事は容易に伝わった。


「………それ、本当にショットガン?明らかに形がアサルトライフルっぽいけど」

「そうだな」


 男が手にしていたショットガンはAA-12だ。

「かなり古い銃器だ。骨董品と言われるくらいにはな」

「へぇ、興味ないや」


「う……うぅ………麗矢れいや……先輩………」

「お前は直ぐに腹の傷を縫え、肩のナイフは抜くな。そして直ぐに逃げろ」

「いえ………まだたた……」

「命令だ。俺は最近苛立ってるんだ。だからあんまり俺を怒らせるな。余計なことを言うな」

「………は、はい……」

 麗矢と言われた男はアリスと話している間ずっとジャックに散弾銃を向けていた。


 アリスは少しづつ後退し、ジャックから離れていった。

「人を庇うなんて………自分の命も考えたら?」

「黙れ、凶悪殺人鬼」

「あなた、名前はなんていうの?」

「………鈴木麗矢だ」

「へぇ、麗矢か………さっきのアリスって人とは何か関係があるの?仲間?」

「黙れ、お前の質問に答える意味はない」

「へぇそう。なら生かしておく意味ないし殺しちゃお」


 麗矢はショットガンをジャックに向けて放った。

 ジャックは飛んできた十二粒の弾丸をナイフで弾いた。しかし量が多いため、弾ききれずに頬やフードを掠った弾丸もある。しかし致命傷になる部位には一発もあたらなかった。


 ジャックは低い体勢になり、麗矢に向かって走った。


 麗矢は近付いてくるジャックに向かってショットガンを放った。しかし弾は一発も当たらなかった。ジャックは麗矢にむかってナイフを振るった。


 麗矢はナイフを避け、ジャックと距離を取った。


「ねぇ……」


 ジャックが喋り出そうとするが麗矢は間髪入れずにジャックに向かってショットガンを放った。


 ジャックは飛んでくる弾丸を避け、麗矢と距離をとった。これだけ離れればショットガンの拡散率が上がる為、麗矢はショットガンを放たなかった。


「ねぇ、ちょっと待ってよ」

「殺人鬼に余裕を与える人間が何処に居る」


 ジャックは穴の開いた猫耳のフードを外した。

「あーあ、無線機壊れちゃってる……直すの大変なんだよ?」

「………誰と無線しているんだ?」

「さぁね、私の仲間とかじゃない?」

「……殺人鬼に仲間がいるのか?」

「知らないよ、君が持ってる脳みそで考えたら?」


 ジャックは小型の盾を取り出した。


 そして麗矢に向かって走り出した。麗矢は走ってくるジャックに向かってショットガンを放つがそれは避けられ、ジャックは麗矢の足元に来ていた。


 ジャックは麗矢の足に細いワイヤーを巻き付け、その後麗矢の背中に蹴りを放った。

 麗矢は振り返ろうとした。しかし足に巻き付いた蜘蛛の糸のようなワイヤーが麗矢の足の動きを阻止した。麗矢は後ろを向いて倒れた。


 ジャックは麗矢の顔に向かい、ナイフを突き刺そうとしたが寸前で麗矢がそのナイフをショットガンの持ち手部分を使い、弾いた。


 ジャックはショットガンを構える麗矢から少し距離を取った。

 麗矢は足に巻き付いたワイヤーを切ろうとしたが無理だった。仕方なく麗矢はそのワイヤーから足を抜いた。そしてジャックにショットガンを向けたまま立った。


「麗矢………といったよね?何か言い残すことはない?」


 ジャックは水平五連ショットガンにバックショット弾を入れながら言った。


「言い残す事だと?無いに決まってる。俺はここでお前を殺すのだからな」

「お~、自信満々だね、くそざこなのに」

「黙れ、俺の弟を殺した最低最悪の糞野郎」

「まずその弟って人どこに住んでるの?」

「………北地区だ」

「へぇ、私が活動してるのは北とは真反対の南地区だよ?北地区にあんたの弟を殺す為だけに行くわけないじゃん」

「………」

「少しは考えよ?その脳みそはひゃくぱーせんと筋肉でできてるのかな?」

「………黙れ」


 ジャックは麗矢に向かって走り出した。麗矢は向かって来るジャックに向かってショットガンを放った。放たれたのは一発のスラグ弾だ。


 ジャックは飛んでくるスラグ弾をナイフで弾こうとはせず、一発の弾を避けて麗矢に向かって走った。

 そして麗矢とジャックの距離が狭まった時、ジャックは水平五連ショットガンを、麗矢はドラゴンブレス弾を互いに撃った。


 麗矢は水平五連ショットガンから放たれる大量の弾丸を避け切ることはできす、体全体から血を吹き出した。

 ジャックは麗矢から飛んできた炎の塊のように見えるドラゴンブレス弾の炎を切り裂き、飛んできた炎を避けた。


「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」


 苦しむ麗矢の声が響く。

 ジャックは麗矢に近づいた。

 麗矢はショットガンを手放し、体を押さえていた。しかし押さえても出血が止まるわけない。


「……あ"あ"ぁ"………」


 麗矢は声すら出さなくなった。

「この毒、ちょっと試させてもらうね」

 ジャックは静かに麗矢の腕に毒針を刺した。


「………はぁ……毒が無くても………もう時期死ぬ……あぁ…………こんな仕事………引き受けなければ……よかった………」


 麗矢は最後の発言をするかのように大きく息を吸い込んだ。


「あああぁぁぁ!!!!死ぬのが怖いんだよおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」


 ジャックは麗矢の喉にナイフを刺した。


「が"あ"ぁ"!!!!」

「ちょっとだまっててよ」


 数秒後、麗矢は体に毒が回ってきたようで赤い涙を流し、ナイフで体と遮断されているはずの口から赤い泡を吹き出した。

「アハハ……こんな凶悪性が高い毒ができちゃったや………自分に間違えて刺したら絶望……」


 ジャックは一応と麗矢の胸にナイフを刺した。麗矢はそんなことしなくてももう死んでいた。


「ふぅ……無線が壊れてるからリッパーと会話できないや」

 ジャックはリッパーが居るはずのビルの屋上に目をやる。



「……………リッパー?」



 リッパーはそこにいなかった。



「リッパー!?」

 ジャックは急いでそのビルの屋上に上った。そこにリッパーは居なかった。


「嘘!?うそうそうそうそ!!!!」


 ジャックは辺りを見渡す。


「リッパー!!聞こえるなら返事してぇぇ!!!」


 リッパーからの返事は無い。

「………………リッパー………」

 ジャックは肩を落とした。その時ビルを上るためにある梯子に血の跡が続いているのを見た。


「………分った………今すぐアリスを殺す……」

 ジャックは路地の中を駆け出した。

「ニャー……(アイツ、無線機また壊してる……)」


 リッパーはビルの屋上から麗矢とジャックの戦いを見ていた。


「………ニャー(………まぁいいや、どうせ勝つしな)」


 リッパーは地面に座った。


 その時、背後から梯子を上る音が聞こえる。


「……ニャー?(……誰だ?)」

「………まさか……あの殺人鬼に………飼い猫が……居るとはね………」

「………ニャー?(………アリス?言葉は通じない人間のようだな)」

「この猫を……殺せば………奴も………動揺するはず………」

「ニャー(とりあえず命を狙われてるって事は分かった。逃げよう)」


 リッパーは四階程度のビルから飛び降り、路地の中を駆け出した。アリスは逃げるリッパーを狂気じみた目をしながら追いかけた。


「アハハハハ!!!!待てぇぇ!!!!!!」

 リッパーはひたすら走った。


「ニャー?(あれ?これ自分ヤバいってヤツ?)」


 リッパーは本気で走り始めた。


「待ってよぉぉぉ!!!!!」

「ニャー!!!(待つかよ!!!)」


 アリスはマスケット銃を放った。


「ニャー(あらよっと)」


 リッパーは小さい体でそれを簡単に避けた。



「ニャー!!!(ジャック!!!助けてくれ!!!)」



 夜の街に悲鳴が響き渡った。

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