第十三話 決着
ジャックは手に隠し持っていた毒針をメリーに向かって投げた。
「あら、複製したのね、私の技術なのに」
「持ってけと言ったのはそっちだろ?」
「そうだね」
メリーはその毒針を綺麗にかわした。
「やっぱり流石サンダー、この毒と全く同じものを複製してくれた」
ジャックはナイフを手にし、メリーに向かって走った。
メリーはジャックの攻撃を受け止め、少し離れた所へと移動した。ジャックはそれを確認すると自分が持っていた銃のスライドを引っ張った。
「………スライドが引けないってことはないよね?」
「うっさい!!」
メリーはジャックの事を少し心配するが攻撃をやめない。メリーは銃を持っているジャックに向かって走り、ジャックの首筋に向かってナイフを振るった。
「…ありがとう」
ジャックはスピードを差し出し、メリーの振るったナイフによってスライドが開いた。中からは二つの薬莢が飛び出して来た。
メリーはジャックの腹に蹴りを放った。ジャックはそれを後退して避けた。
「いやー、ただの弾詰まりでよかった………動かしてないのになんで弾が詰まったんだろう……?」
ジャックは体勢を立て直し、手に持っていたスピードに新たなマガジンを入れた。弾が残っているマガジンは腰のどこかへと収納した。
「そんなやり方してたら銃が痛みそうね」
メリーがそう言う。
「私がそんな細かい事気にしてると思ってるの?」
「……いいえ、全く思ってないわ」
メリーは背後にある警官三人の死体に向かって後ずさりし、近づいた。それを見たジャックはメリーの背後の道に向かってスピードを放った。乾いた発砲音と共に飛び出した銃弾はメリーの足元に着弾した。
「それ以上は近づけさせない」
ジャックは煙が昇るスピードの銃口をメリーに向けて言った。
「……どうして?」
「さぁね、けど私の神経が近づけさせるなって言ってる」
「………」
ジャックはメリーに向かってスピードを放った。メリーはそれを当然のように避け、姿を消した。
ジャックは動揺せず、目の前に伸びる路地の細い道を走りだし、警官三人の死体の上に向かってナイフを振るった。
「………流石にこんな単純じゃないか」
ジャックは周りを見渡した。
おそらくメリーが歩いているであろうカツカツとした足音が鳴り響く。しかしその音は路地の中を反響して方向は掴めない。
「……………」
ジャックはスピードを一発地面に向かって放った。乾いた発砲音が路地に響き渡る。その音の反響により、ジャックは足音が鳴る方向を掴んだ。
「そっちね」
ジャックは後ろを振り向き、広がる道を見た。すると突然目の前にメリーが現れた。殆どキスをするような距離だ。
「!?」
メリーはジャックが手に持っていた銃に向かってナイフを振るった。ジャックはそれに反応できず、銃は空中へと舞い上がった。
「あぇ!?」
ジャックは空に飛んだ拳銃を見た。
「判断が遅れたわね」
メリーは死体に触れていた。
ジャックは急いでメリーの腕に向かって蹴りを放ったがもう遅かった。メリーはジャックから少し離れた。
ジャックは空中から落ちて来た銃を頭からキャッチした。「いてっ」とジャックが言う。
「よくあの距離に来るまで気づかなかったわね」
「いや、近いよ…近すぎるよ」
ジャックは銃に傷がないか確認するとその銃をホルスターに戻した。
「ま、いいわ」
メリーはそう言い、ジャックの目を睨みつけました。メリーの柔らかい目線はまるでジャックを包み込むようだった。
「……………あー、そういうことか」
☆☆☆
メリーさんとジャックの周りはどんどんと暗くなっていきました。
「………やっぱり全部つながったよ」
ジャックはそう言いました。
「何の話かは知らないけど、まぁここから本番みたいなものよ」
いつの間にか周囲は真っ黒になっていました。暗い空間にはジャックの水色の目とメリーさんの黄緑色の瞳が輝いていました。
ジャックは少しの間目を閉じました。次に目が開くと目の水色は一層濃くなっており、ジャックの髪の毛の一部は濃い青色に変色していました。
「ま、何に気付いたのかはこれが終わってから話すよ」
「気になるわね………けど関係ない。本気で殺しにかかるわよ、決着をつけようと言ったのはジャックのほうだし」
「………なんかジャック呼び気持ち悪いな……」
「そんなこと気にしない」
メリーさんは暗闇と共に消えました。左右上下もわからないような空間をメリーさんは自由に移動し、ジャックに向かってナイフを振るいました。
ジャックはメリーさんが振るうナイフを全てギリギリで避けていました。
「うわっと、あぶない」
メリーは次々とジャックに向かってナイフを振るいます。しかしそれは全てギリギリで避けられ、一つも当たりませんでした。
「ここってどういう空間なの?」
ジャックが周りを見渡し、メリーさんを警戒しながら言いました。
「………球体みたいな?」
「……説明へたなんだな」
「知られちゃっても困るし」
ジャックはそこら辺に向かって銃を放ちました。
パン、という音はよく響き、ジャックの耳に帰ってきました。
「なるほどねぇ」
メリーさんはジャックが何かしていても構わずジャックにナイフを振るったり、毒針を飛ばしたりしました。しかしそれが当たることはありませんでした。
「ここの空間、切り裂けるね」
メリーさんはジャックのその言葉に危機を感じました。
メリーさんは足を止め、ジャックの前へと立ちました。
「何を思いついたかは分からないけど………絶対にやらせないわ」
メリーさんはジャックを睨みつけながら言いました。
「ところでメリー、君にずっとナイフを刺してるんだけど気づいてないの?」
メリーは自分の腹を見ました。しかしそこに傷なんか一つもありませんでした。
「嘘だよ」
メリーさんは視線をジャックに戻しました。ジャックはナイフを構えていました。
「ダメ!!!」
メリーさんは急いでジャックに向かって走りました。
ジャックは走ってくるメリーさんを全く見ず、暗い謎の空間に向かって突進しました。無限に続くように思えたその暗い空間は着々と崩壊していきました。
「待ちなさい!!!」
「待つバカがどこにいる!!」
ジャックは暗い空間の崩壊し始めている部分に向かってナイフを振るいました。
☆☆☆
暗い空間はジャックの振るったナイフによって切り裂かれた。暗い空間は外から見るとただの少し大きな黒いボールのように見えた。
その黒いボールは割れた風船のように消えていった。
「うっ………」
黒いボールの中からはメリーが地面に膝を付きながら出てきた。
「やっぱり読み通り、たった三人程度の魂じゃ強い結界は作れない………まず結界ってなんだ?」
ジャックは少し頭を悩ませたが考えるのをやめた。
ジャックはメリーに向かって歩いた。メリーは息を切らしていた。
「さ、これで決着……」
メリーはジャックに向かってナイフを振るった。
「おっと!?」
ジャックはナイフをギリギリで避け、メリーから離れた。
「………自分でも知らなかったわ……あの空間は崩壊するのね………」
メリーはふらふらと起き上がり、帽子を被りなおした。
「……ジャック、新しいことを学べたわ……今度戦うときは気を付けないとね」
「……また戦う時が来るの?」
「嫌じゃないでしょ?」
「……………まぁ」
メリーは自身の崩れた髪の毛をバサッと広げ、毛並みを整えた。メリーの髪の毛は黒色のように見えていたが、しっかりと光が当たるとメリーの髪の毛には少し緑色が入っていることが分かった。
「やっぱり正々堂々戦った方が勝てそうだわ。ジャック、あなたも私ももうズルは無しよ」
「………ねぇメリー」
ジャックはメリーが言った言葉を無視して話し始めた。
「……あなた、"死神"でしょ?」
メリーは動揺した様子を見せた。
「…………………………ええ、そうよ」
メリーは長い沈黙のあとに言った。
「けど正確には死神じゃないわ」
「じゃぁなに?」
「……幽霊と死神と人間のハーフ?」
「……………は?」
「なんでもないわ」
ジャックは自分が着ていたフードを外した。月光に反射したジャックの髪の毛は輝いていた。
「まぁ、だから私はあんたを殺すことはできない。存在しない存在を殺せるわけないし………」
ジャックがそう言う。
「正確に言えば私も死ぬことはあるわ」
「けど私には無理だろ?」
「……………そうだね」
「あ、嘘ついたね」
「……………まぁね」
「まぁ、だから………」
「だから?」
ジャックは空気を多く吸い込み、目を閉じながら言った。
「……今は殺人鬼同士で休戦しないか?自分自身で頭がおかしいことだと分かってる」
「何言ってるの?あなたは今私を殺すことができなくても私はあなたを殺せるのよ?」
「じゃぁさっさと私を殺したら?」
「できたら簡単ね」
メリーはナイフを構えた。ジャックは目を閉じたままだった。
「じゃ、行かせてもらうわ」
「ご自由に」
メリーはジャックに向かって走った。そしてジャックの胴体目掛けてナイフを振るった。
「おそい」
ジャックはいつのまにかメリーの後ろにいた。ジャックの目の水色はほぼ青と言ってもいいほど濃くなっていた。
ジャックはメリーに向かってナイフを振るった。メリーはそれをギリギリで避けた。被害は髪の毛を大量に切られたくらいだ。
ジャックはメリーの背中に蹴りを入れ、それを土台にしてバク転をした。そして空中でスピードの狙いを定め、撃った。
メリーは一瞬のうちに起こった出来事に反応できず、銃弾を右肩に食らった。
「どう?RIP弾、痛いでしょ?」
メリーは右肩を左手で押さえながら、ジャックの居る方向を振り向いた。
メリーの髪の毛は乱雑に切られたショートカットのようになっていたが、髪の毛は伸び始め、いつのまにか普段の長さまで戻った。
「………髪の毛すら再生できるなんて……」
メリーの右肩からはR.I.P弾の破片が数個出てきた。
「ジャック、あなたも再生能力があるらしいわね」
「まぁ、アンタには到底及ばない速さだけど」
「けど骨折を数時間で直せるのは常人としては凄いわ」
「………なんで骨折したこと知ってんの?」
「さぁね」
メリーは傷が完全に塞がり、衣服の傷すら直った右肩を擦った。
「服すらも再生できるんだね」
「ええ、そうよ。ところで話に乗ってくれてありがとう。傷が完全に回復するほどの時間稼ぎができたわ」
「あっ!!」
ジャックは自分の失態に驚いた。
「ふぅ………すこし油断してたわ……じゃ、そろそろ本気で私も行かせてもらうわ」
「ご自由………あれ?さっきも同じ事言ったような……」
メリーは姿を消した。
メリーの足音は狭い路地を響きまわった。ジャックは一歩も動かず、四方に道が伸びる所に立っていた。
そしてしばらくして、突然メリーはジャックに飛び掛かった。
「見えてるよ」
ジャックはメリーが振るったナイフを右手に付けているナイフで防ぎ、メリーの頭に向け、左足で蹴りを放った。
メリーはジャックの空気を切り裂くような蹴りをなんとか避け、ジャックに銃を向けた。そしてそれを撃った。銃から出てきたのは毒針だった。
毒針はジャックに簡単に避けられた。そしてジャックはメリーに左腕を向け、水平五連ショットガンを撃ち放った。放たれたのはバードショット弾だった。
(まずい!!)
とメリーが思うがもう遅い。メリーはバードショット弾をほぼゼロ距離で食らった。
ジャックは反動によって吹き飛ばされ、メリーは後ろに倒れた。
「いたっ!」
ジャックは後方に背中を付いて倒れた。顔にはビッシリとメリーの返り血が付いていた。
メリーは全く動かない。と思われた。
「あ……あはは………」
メリーは顔が血まみれになった状態で立ち上がった。
「そのショットガンの存在……忘れてたわ……」
「………痛み感じないのか?」
ジャックは起き上がりながら言う。
「いいえ、感じるわ……とっても痛いわ……」
メリーの顔は着々と再生していった。ジャックの顔に付いていた返り血はいつの間にか消えており、メリーの体の中に取り込まれていった。
「まぁ………もうすぐかな?」
ジャックがそう言った。
メリーは体の異変に気付いた。
手を見てみると震えている。筋肉も上手く動かない。メリーはまたもや地面に倒れた。
「RIP弾に毒を仕込んでいた。君が作ったあの毒をね」
メリーは動かなくなった。しかし口は動くようだ。
「………フグが自分の毒で死ぬことがある?」
「……どういうこと?」
「私は自分の毒に耐性を持ってるわ………だからこれで死ぬことはない」
「なるほどね………けど麻痺毒は効いてるんだね」
「ええ、そうよ」
ジャックはメリーに歩み寄った。
「じゃ、降参してもらおうか」
ジャックはメリーに向けてナイフを突き立てた。
「………殺せばいいじゃない」
「だから殺すことができないんだよ」
「そうだったわ」
メリーの顔はいつの間にか再生されており、メリーの白い肌には血は一つもついてなかった。
ジャックはメリーのそばに座った。
「………まぁ休戦成立よ」
メリーがそう言った。
「けど戦いとしては私の勝ち、すこし条件を付けさせて」
「いいけど……条件って?」
ジャックはメリーの隣に座りながら銃の整備を始めた。
「一つ、私に襲い掛かってもいいけど他人と戦っている時には襲い掛からないで。それは正々堂々じゃない」
「やった、正式に襲い掛かってもいい宣言をもらったわ」
ジャックはメリーの言葉を無視した。
「二つ、戦いから三日間は私に襲い掛からないで、毎日来てたら流石に面倒」
「わかったわ」
「三つ、私の飼い猫、リッパーには襲い掛からな…」
「無理」
メリーは即答した。
「私は依頼された命あるものを殺す、それが指名よ。だからあなたの飼い猫……リッパーに殺人依頼が来たら殺すわ」
「………なるほど」
ジャックは銃の整備を一瞬で終え、銃をホルスターに戻した。
「ま、条件はそんくらいかな?」
ジャックは倒れているメリーを見た。
「なんだか楽しそうな顔してるわね」
メリーが言う。ジャックはその言葉を無視して立ち上がった。
メリーもまた立ち上がった。
「………この神経麻痺毒少なくても三十分は効くはずだぞ?」
「さぁ、効き目が弱かったんじゃない?」
メリーは立ち上がってすぐジャックに向かってナイフを振るった。
ジャックはメリーの振るうナイフを回し蹴りで蹴飛ばした。
「さっそく条件を破ったね」
「細かいことは気にしない」
ジャックは腰の機械を作動させた。するとワイヤーが伸び、そのワイヤーは壁に突き刺さった。
「じゃ、私はもう帰る。ここにこれ以上いてもなにもないし」
ジャックはそう言った。
「じゃ、私も帰らせてもらうわ」
「帰る家があるのか?」
「さぁね」
ジャックはワイヤーを巻き上げ、体を宙に浮かせた。そして建物の屋上に着地した。
「久しぶりに楽しい戦いができた。ありがとう」
ジャックはそう言い残し、メリーから離れていった。
「………ツンデレさん………いつか殺してあげるわ……」
メリーは深く帽子を被り、ジャックとは反対の方向へと歩き出した。
「ジャックザリッパーを発見した」
高い建物の屋上から金髪の女が望遠鏡を覗きながらそう言う。
女性の身長は161cm程度、髪は後方で結ばれており、解けば腰まで伸びるような毛量だ。スラッとしたモデルのような体格で、黒い服と黒いズボンを着ており、それらは体のサイズにピッタリと合っていた。そのため体のラインがしっかり出ている。
目の色は金色に輝いていた。
「追跡を開始する」
女は建物から降り、暗い街へと降り立った。




