赤フキンちゃん
どうなんですかね、よろしくお願いいたします。
でも、あんまし良い話ではないかも。
そう遠くない昔か未来、とある村に赤フキンという、適当にかわいいかそうでもない女の子がいた。
赤フキンは、白いスカートに赤の短いエプロンをして、エプロンに
は「ふ」の字の刺繍があった。
赤フキンは、このふの字エプロンがダサいとは思っていたものの、他にインパクトがなかったので、目立ちたい彼女は、このエプロンをいつもしていた。
ある日、お母さんに赤フキンは、森のおばあちゃんちへ相続の書類を持って行って、印かんと署名をしてもらうよう頼まれた。
赤フキンは、かったるい用事だなとは思ったが、良い子と思われたいから、
「良いわよ喜んでパシリするわ。でもあの欲深な婆さん、ただじゃハンコなんて無理よ」
と下心がありそうな笑顔を見せた。
「わかってますよ。だから、スーパーの安売りで買ったカステラを、高級デパートの包み紙でくるんだから、これをお土産にしてね」
お母さんは、シワだらけになった高級デパートの包み紙で包装したカステラを赤フキンに持たせた。
赤フキンは、おばあちゃんちまでの電車賃をお母さんから貰ったが、表向き健康のためと言いながらも、この金で缶ビールを買って飲みながら、歩いて行こうと決めた。
赤フキンは、缶ビールをちびちび飲みながら歩いていると、小腹がすいてきた。柿の種でも欲しいところだったが、買う金がもったいなかったので、カステラを一切れ食べた。切れ目が入っていたので良かった。
おばあちゃんちに着くと、コトコト鍋で何か煮ている音が聞こえた。
「まぁ、赤フキンちゃん、珍しい。どんな魂胆があって来たのかね。今ね、スープを作っているところなんだ」
と、派手な悪趣味のワンピースを着た婆さんに言われた。
「魂胆なんて、私に似合わない言葉は使わないで。私はかわいい童話の国の女の子、赤フキンちゃんよ。著作権の関係で頭巾といえないのが玉に傷なの」
赤フキンは、さすが婆さんで図星を言われたとは思ったが、スラスラこんな言葉が出た。
「で、なんで来たんだ」
「お母さんから、この書類におばあちゃんのハンコと署名が欲しいんだって」赤フキンは、書類を婆さんに渡す。
「ついに来たか。どれどれ」
婆さんは、首から下げていた眼鏡をかけて署名を読み終えて、
「まぁ、なんて虫の良い話だろ。金目の物だけ自分で相続して、面倒なことは他の兄弟に押し付けるって書いてある」
「まぁ良いいじゃないの。ただでとは言わないわ。ハイ、これお土産。高級デパートのカステラよ」
「珍しく高級なお土産ね。ありがとう」
婆さんは、しばらくカステラを見ていて、あれ、と包装紙が不自然になっているところに目を止めて、
「これ、お店で買ってきたまんまじゃないね。もしかして安いカステラをデパートの包装紙で包んだ、とか」
赤フキンは、婆さんスルドイと思ったが、
「まさかそんなことしないでしょ。私はお母さんに渡されただけで知らないわ」と平気で言えた。
そうかいと言いながら、婆さんはカステラを包み紙から出して、
「アラ、中の袋が開いている。さては赤フキン、お前、食べたね」
赤フキンは、婆さん恐るべし推理力と思ったが、
「知らないわ。私はただ、お母さんから渡されたカステラを、そのまま持って来ただけよ。私はかわいい赤フキン、そんなキャラを潰すようなこと言わないで」
「そうかい」と、婆さんは口の中で含み笑いをして、
「なんで私が、森でひとりで暮らしているか分かるかい、赤フキン」
「きっとそういう設定の方が、婆さんらしくて良いんじゃないの」
「アハハ、違うよ。ーー私は人間が怖くて仕方ないからさ」
「えっ」赤フキンは、婆さんをじっと見つめた。
「地震だって火事だって怖いよ。だけど人間はウソをついたり、気に入らない奴を平気でいじめる。そりゃたまには良い人もいるけど、だいたいは面倒くさい人間ばかりさ。もうウンザリだ」
「そんなネガティブなこと言うと、嫌われるよ。私はおばあちゃん好きだから長生きしてよ」
「ありがとう。でも、もういつお迎えが来ても良いんだ。赤フキン、私を天国へ送ってよ」
「そんな寂しいこと言わないで。とりあえず相続の書類を書いてね」
その時、料理していた鍋から激しく水蒸気が上がり始めた。
「スープが煮えてきたね。植物ばかりて動物が入ると美味くなるだけど、あいにく今は何のお肉もなくてね」
それから数分後、赤フキンは肉がたっぷり入ったスープを平らげ、下腹を軽くなでた。
婆さんの希望をかなえたことだし、ハンコを探すべく満足げな顔をして
赤フキンは立ち上がった。
悪ふざけが過ぎたかな。