4 宝剣
「ロイド様、これを」
そう言って文官が出した書類を見たロイドは驚きを隠せなかった。
「なんだ?この予算の使い方は・・・」
この部屋で予算の確認をしている全員が立ち上がってこちらを見ている。
ロイドはその書類を壁に用意してあった黒板に貼り付けた。
その横に問題のある予算の項目を抜き書きしていく。
書かれていく項目を見ていた文官たちだけではなく、女官や侍女、護衛達も驚いている。
「え?第2王子殿下って未成年だよな?」
「なのに酒を注文されている?」
「えっと、何故宝飾剣を?」
「ドレスに靴?誰の?」
「宝飾品って、なんで王子の予算に?」
本来、王子の予算として渡された分は、王子の為に使われなければならない。
王子の衣食、教育係への謝礼、公務で出かけるときに増えた護衛への食事代や宿代、王子主催のお茶会の費用、付き合いのある貴族への贈り物など、学院に入学前とはいえ、それなりに予算は使われる。
だが、第2王子の予算の使われ方は明らかにおかしかった。
ロイドの依頼で3年分の予算を確認していた文官たちは、その使われ方にため息をついた。
明らかに王子の物ではない購入品の記載などがたくさんあり、しかも、毎年予算を使い切っている、という始末である。
ロイドたちは購入リストを作成し、まずは第2王子の部屋から確認作業に当たった。
「こちらにはありません」
「こちらにもありません」
「これは・・・確認しないとわかりませんね」
「すぐに確認を」
作業はサクサク進んだ。
何しろ、王子予算で購入したはずの物がないのだ。
「無いな」
「ありませんね・・・」
「さて、それでは第2段階に移ろうか」
ロイドたちは、第2王子の側近、護衛、従者を集め、聞き取り調査を開始した。
集められたのは、騎士団が聴取を行う部屋だ。
「何故我々がこのような場所に集められるのだ?」
サミュエルがイラついた様子を隠すことなく、ロイドに詰め寄った。
「監察ですから、聞き取りの為に来てもらいました」
「聞き取り?」
「はい、過去3年分の第2王子の予算の使い方を確認しております」
「なっ!!第2王子に対してその様なことを!誰がそんな事を許した!」
「ですから、監察、と申し上げているでしょう。王命ですよ?おわかりか?」
「うう・・・」
「まずはこちらから、グリッド頼む」
「では、宝剣から、ユークス様達護衛候補の皆様の腰の剣をお見せください」
「何だと!われらの魂ともいえる剣を文官ごときに渡せるか!」
「そうだ!剣を持ったこともないものが触れるなど、許されん」
護衛候補達はそう言ってかたくなに剣を見せようとはしない。
「ロイド様、どうしますか?」
「うん、想定内だ。近衛騎士の皆さま、打ち合わせ通りにお願いできますか?」
「「「「「了解した」」」」」
近衛騎士の一人が外に出ていった。
しばらくして戻ってきた近衛騎士の後ろからは、騎士団の騎士たちがぞろぞろとついてきた。
「第1騎士団副団長?」
「第3騎士団の記章もあるぞ??」
「第2騎士団もいる・・」
騎士団から無作為に数名を選出して連れてきたのだ。
もちろん、事前に各騎士団に協力してもらえるように話し済み。
彼らは側妃やローゼン公爵に忖度することなく、忠実に任務を果たしていく。
それは、護衛候補達を拘束し、腰に佩いている剣を検分することだ。
騎士団はそれぞれに支給された剣を佩いている。
それぞれの記章がつき、番号で誰がどの剣を使用しているかを知ることができるようになっている。
それを確認していく。
「これは支給された剣ではない」
「こちらもだ」
「それにしても、柄に宝石が付いているとは・・・護衛の剣ではないな」
どの剣も宝剣、と呼ばれるような柄に宝石が埋め込まれ、さやの装飾もかなり凝ったものである。
王子の護衛をするならば、そのような剣を佩いているのはおかしい、騎士を名乗るなら誰もが思うことだろう。
「支給された剣はどうした?」
「「「・・・」」」
「返事をしろ」
「家に・・・、多分置いてあるかと」
「は?王家より支給された剣であるぞ?それを家に置いてあるかどうかも不明?
貴様らは騎士として普段何をしておったのだ!」
第1騎士団副団長が大声で護衛候補達を叱り飛ばす。
その迫力に、部屋にいた全員が思わず背筋を伸ばすのだった。
「ロイド殿、このようなものが王子殿下の護衛とは、騎士団として恥ずかしい」
「副団長殿、お気持ちはわかりますが、今は監察中ですので、まずはそれぞれの剣の購入時期と予算と合わせていかなくてはいけませんので、とりあえずは収めてください」
「ああ、しかし、確認後は各団長、副団長と協議のうえ、護衛候補の実力テストを行います。
このような剣を佩いて護衛などと・・・」
第1副団長は悔しそうにこぶしを握り締めていた。
宝石の付いた剣を便宜上 宝剣、というふうに表現しています。
もっとしっくりくる名前があれば変更予定です。