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3 演技


 「陛下、本当によろしいのですか?」

「よい、そなたの好きな場所に好きなものを建てるように、その調査を頼む」

「夢みたいですわ、ローゼン公爵家も全面的に協力してくださるそうですし、公爵と一緒に調査に向かいますわ」

「うむ、ローゼン公爵、よろしく頼む」

「はい、我が公爵家も最善を尽くします」


執務室から側妃とローゼン公爵が立ち去った後、国王はそっと本棚に近寄ると、そのまま一部をそっとずらした。

そこにはパカリと空洞があり、人一人通れるくらいの穴が広がっていた。

何の戸惑いもなく、国王はその穴に入って行き、慣れた様子で進んでいく。


到着した場所でそっとノックをすると、扉が開いた。

「あら、早いのね」

出迎えたのは最愛の妻である王妃である。


「ああ、精神的にものすご~く疲れた」

「フフ、そう思ってハーブティーを準備していたわ」

「助かるよ」

そう言って王はソファにどさりと腰を掛けた。


「あのお方は完全に寵愛を奪ったと思ってらっしゃるのね」

「そうだな、頭に花でも咲いておるのかもしれん」

「ふふふ、まあ、私の演技が素晴らしかったからですわ」



王宮内である噂が流れていた。


王妃が何かしでかして王が愛想をつかし始めている

王が王妃を遠ざけようとしている 等々、王と王妃の仲が悪くなっている、というような噂だ。


そんなある日、王の部屋から大きな音がした。

扉の前を守っている衛兵が驚くほどの大きな音で、何かを叩いているような、ばしーんばしーんという音だった。

その音とともに、

「あなた!おやめください、やめて・・・もうやめて・・・」

王妃の悲痛な叫び声がした。

最後の方は泣いているかのような震え声で、中で何がおこっているのか、待機していた侍女が扉をノックして、王妃の安全を確認しようとしていた。


侍女がノックをしたが、中からは返事がない。

返事がなければ王の部屋へ入ることができない。

どうしようかと、衛兵と侍女が迷っているうちに、扉が開き、顔を両手で覆った王妃が部屋から飛び出してきた。

そのまま王妃は小走りに走り去っていく。

淑女と名高い王妃のそんな取り乱した姿に、侍女と、近くに待機していた護衛も慌てて追いかけた。

部屋の中には怫然とした顔の王が残されていた。

衛兵と護衛の姿を見ると、

「大事ない」

それだけを言って部屋に戻って行った。


噂は真実だった?

仲の良い王と王妃が?

そう疑問に思っていた者たちは、その姿に噂が真実だと信じた。

それは側妃とその実家、ローゼン公爵にもチャンスに見えてしまった。

今までどんな誘いをかけても断ってきた王が、3回に1回は側妃マリアベルに付き合うようになったのだ。

周囲の者たちは寵愛が側妃に移ったように思えた。

実際は、3回に1回お茶や散歩といったあまりたいした事のない誘いに乗っているだけだったのだが、思い込みは真実を曇らせる。

夜の誘い、夜会への同伴、公爵家への招待などはすべて断っているのだが、これまでの態度とは違う姿に、マリアベルは勘違いをしてしまった。

寵愛は自分に移っている、と。


そのうえ、王太子と目されていた第1王子の外遊、もしかしたら、とローゼン公爵たちが色めき立ったのも無理はない。

ただし、水面下では、第1王子の立太子に向けての準備が着々と、内密に進められているのだった。




「あの日、いきなりあんなことをなさるから・・・」

王妃が笑いながら王にハーブティーをふるまった。


そう、作戦開始の為に噂を流し始め、頃合いを見て、二人の不仲を目撃させる作戦だったのだ。


王の部屋で二人きりになったとたん、王は何と、シャツをまくり上げ、その裸の腹を叩き始めたのだ。

ばしーんばしーんと響く腹太鼓。

王妃はあまりの滑稽な姿に笑いがこらえきれない。

だが、ここで笑ってはいけない。

そう我慢したのが、あの震え声だった。

その笑いをこらえたまま、急いで自分の部屋へと戻るため、王妃は小走りになったのだ。


「よき案だったろう?」

「部屋に戻ってからシーツを被って枕に顔を押し付けながら大笑いしましたわ」

「ふふん」


これが、あの日の真相であった。

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