12 結婚
「ロイド、ただいま」
「お帰りなさいませ」
「どう?」
「連絡しておりました通り、滞りなく」
クリスフォード達が外交を終えて帰国してきた。
伝令でその都度報告はしていたのだが、やはり直接話が聞きたい、ということで、執務室にクリスフォードを始め、側近達全員が集まった。
「殿下、お疲れさまでした」
「ああ、ロイドがいない中、それなりに起こったりもしたが、皆それなりに対応してくれたな、著しく成長してくれたと思うよ」
「それは良かったです」
「で?お前の話を聞かせてくれ」
そう言われてロイドは資料を配った。
「これは?」
「すべてを思い出しながら話すのは効率が悪いですし、このように資料を見ながら説明させてもらいます」
「流石ロイド」「こんな風に準備してるとは」「すごいな」
側近たちはロイドの準備の良さに尊敬のまなざしを送る。
ロイドは資料を見せながら淡々と話をしていく。
護衛候補、側近候補達の話になると、クリスフォードは深いため息をついた。
「私は教育をし直して欲しかったんだけど、それ以前の問題だな」
「はい、あそこまでとはさすがに監察部隊の皆も呆れていました」
「父上と相談して、新たな側近候補達を探してやらないといけないな」
「その方がよろしいかと、現在に至るまでの再教育はあまり進んでいませんから」
「で、ギルバートは?」
「王室典範にのっとったカリキュラムを順調にこなされています」
「おとなしく勉強しているんだな」
「教育係が厳しいですからね」
「誰が教育係を?」
「クリス殿下の筆頭教育係をされておられました、マイルズ殿です。後、メイド頭としてサミー殿が付いておられます」
「げ」「!!」「うわ」「・・・」「それはそれは・・・」
皆がそれぞれ声をあげた。
マイルズはクリスフォードの教育をはじめ、側近たちの教育も請け負っていた。
その厳しさは身をもって知っている。
サミーと言われるメイドは、伝説のメイドと呼ばれ、王族といえども臆することなくマナーを叩きこむことで有名な女性だ。
どちらもすでに引退を決め込んでいたのだが、ロイドが再び表舞台に引っ張り出したのだ。
ギルバートの置かれていた状況を聞き、二人はがぜんやる気を出し、自分たちが選んだ従者やメイドを連れて、再教育に臨んでいる。
「あの二人が付いていてくれるなら、大丈夫だな。よかった」
クリスフォードは安心したように笑った。
母親が違っていても弟なのだ。
処分するよりも、自分の治世で力をふるってもらいたいと思っていたのだ。
「さて、以上が報告です」
ロイドが眼鏡をくいっとあげてた。
「ご苦労だった、ゆっくり休んでくれ「ところで、外交中の会計報告と報告書がまだ出ておりませんが?」
「「「え?」」」
クリスフォードのねぎらいの言葉にかぶせるように、ロイドがそう言って皆を見つめる。
「あの、かえって来たばかり・・「道中でも報告書は作成できますよ。まあ、明日までに監察部に提出してください」
「はい??なんで??」
「身内が内部調査をするなどおかしいでしょう?それと、私は明日からお休みをいただきますので」
「「「なんで???」」」
「結婚を控えておりますので、その準備です」
「「「「「「はぁあああああ??」」」」」
全員が驚きの声をあげた。
「ああああ、相手は?」
クリスフォードが動揺しながら聞くと、
「ヴァイオレット嬢ですよ」
「あの才女!」「めちゃくちゃ美人で有名な?」「伯爵家のバラと呼ばれる?」
「なんでロイドと?」「どうやって知り合った??」
ヴァイオレット嬢は学園でも高嶺の花として有名な伯爵家の令嬢だった。
婚約者がおらず、皆が狙っていた女性だ。
実は才媛でもあるヴァイオレットは今回の監察でロイドが立ち上げた監察部隊の一員だったのだ。
監察部隊は家族構成から趣味嗜好、友人関係まで調べつくされている。
もちろん才能がなければ書類選考で落とされているという徹底ぶりだ。
そんな激戦を勝ち抜き、監察部隊に入ったヴァイオレットは、すべてを把握し、的確に指示を与えるロイドに協力していくうちに、お互いを意識し始めた、ということらしい。
優秀な二人は監察の仕事をしながらも、結婚準備を着々と進め、すべてが片付いた今、休みを取ることになったそうだ。
「もちろん結婚式には皆様をご招待しますので」
そう言ったロイドは珍しく満面の笑みを浮かべていた。
本編はこれで完結です。
番外編を投稿予定です。