04☯ 私と彼(女)の懐抱
「それにしても浬桜くん、本当に変わったもんだね」
「そうかな?」
浬桜くんの事情を聞いた後私たちはまだ登校の坂道の途中で、話し合いは続いていく。
「うん、あの時男だった浬桜くんはこんなに女の子らしくなったなんて。ね、これから『浬桜ちゃん』って呼んだ方がいいかな?」
今の可愛い姿はどう見ても元男だとは思えない。学校制服のセーラー服と赤いスカートを着用しているし。どう見ても普通の女子高生だ。
「いや、結構だ! いつも通りの呼び方でいいよ」
「でもこんな可愛いのに。ね~」
そう言いながら、私は浬桜くん……浬桜ちゃんを抱き締めた。
「なんでいきなり!?」
「可愛い。浬桜ちゃん~」
私の腕の中で恥ずかしがって抵抗しようとしている浬桜ちゃんも可愛い。それに体がぽかぽかして柔らかくて抱き心地がいい。
「いや、だからその呼び方止めろって言ってたのに!」
どうやらこの呼び方はあまり好きじゃないみたい。私もちょっと慣れないかも。やっぱり今まで通り『浬桜くん』でいいか。
「わかったよ。でも浬桜くんって、昔はあんなに大きかったのに、今こんなにちっちゃくなって」
「オレは別にちっちゃくなんかないし。150センチくらいはあるよ。お前の方こそ大きくなりすぎだよ」
「確かにそうね。私は最近背がどんどん伸びてきたしね。最後に測ったのは164センチらしい」
別に浬桜くんはあの時より小さいってわけじゃない。むしろそれなりにちょっと成長した。今こんなにちっちゃく見えるのは私の方が大きくなったおかげだ。だから立場逆転みたいな感じでなんか不思議だ。
「てか、いつまで抱いているつもり?」
「駄目なの?」
今浬桜くんは私の腕の中にいる。さっき無意識に腕が勝手に行ってしまった。だってちっちゃくて可愛いからつい……。
「別に。ただいきなり女の子に抱かれるのはやっぱりなんか……」
浬桜くん、まさか照れているの? 今更だな。
「でも今浬桜くんも女の子だよ。しかもさっきも一度後ろから私に抱いてもらったよね?」
最初に会った時のことだよ。あの時事故とはいえ確かに私は浬桜くんを抱いた。
「あ、あれもお前が勝手に」
「じゃ、あのまま助けずに転んでしまえばいいってこと?」
「いや、それは……。あの時助かったけど……。とにかくあれはただの事故だ! 仕方ないだろう」
浬桜くんは私の腕から脱出しようとして抵抗しているようだが、どうやら今は見た目通りただのか弱い女の子で、私の方が力ある。
「浬桜くんは私に抱かれるのがあんなに嫌なの?」
もしそうだとしたら私はショックかも。
「べ、別にそんなことない。むしろ……」
「え?」
今浬桜くん、何か言おうとしていない?
「何でもない! とにかく、今は登校中だぞ。早く歩かないと遅刻しちゃうよ」
「わかった。ごめんね」
確かに今抱き合っている間に足は止まっているから前へ進んでいないよね。
仕方なく私は浬桜くんを自分の腕から解放して、学校への徒歩を続けた。
「やっぱり今こんなオレを見てお前は笑っちゃいたいよね?」
浬桜くんは困ったような顔で言った。
「え? もしかして気にしてるの?」
「まあね。今なんかオレの方が子供扱いされているし」
子供扱いされるのは嫌なようだ。でもそんな態度こそ子供っぽくて更に子供扱いして困らせたいよね。でもそうしたら嫌われちゃいそうだから、程々にしておこう。
「あ、ごめん。だって今の浬桜くんは可愛すぎてつい……」
「またそんな……。もう可愛いとか言うな! オレは男……のつもりだった。別に可愛いなんて。こんな姿になりたくてなったわけじゃない」
「……そうか」
やっぱり気になっているようだね。浬桜くんは別に女になりたくてなったわけじゃないし。もしかして実はまた男に戻りたいのか? こんなに可愛くなったのに勿体ない気もするけど。
浬桜くんは昔からいつも自分が男で大人だとアピールして、ずっと背伸びしようとしていた。あの時は本当に私より大人だったからあまり違和感なく、私も浬桜くんが頼れるお兄さんだと認識していた。
まあ、実際に浬桜くんはあの時から意外と子供っぽかったけどね。ドジっ子で、不器用なところも多くて、時々なんか無理していて困らせる場合も少なくない。でも別にそれが悪いと思わない。むしろ私はこんな浬桜くんのことが好き。
そして今の浬桜くんもなんかあまり昔から変わらない。だからやっぱり今でも私は浬桜くんのことが好きだよね。大好き……。
好き……好きって……。そういえば、結局これはどんな好き?
私はずっと浬桜くんのことを一人の男として好きだと思っていた。だけど、今実は浬桜くんは女の子だと知ってしまった……。
これってつまり、私は女の子を好きになってしまったってこと? そんな……。
「お前、急にどうしたの? 何か思いつめているみたい」
「いや、ちょっとね」
私はつい考えすぎて、黙り込んでしまったね。今浬桜くんと会話中なのに。
「着いたぞ。学校」
「あ、そうだね」
ずっと話しながら歩いていたらいつの間にか学校まで着いた。ということは、私たちの会話はこれで一旦終わりになるのか。ちょっと残念。学年も違うからそれぞれのクラスに入らないとね。
「じゃここで。あ、でもその前に。えーと……、陽依ちゃん」
「ふん? どうしたの?」
浬桜くんはなんかまだ言いたいことがあるようだ。
「その……。放課後、時間あるかな?」
「そうね。私は特に用事はないはずだけど」
「なら、ちょっと一緒に、いいかな? まだいろいろ話したいことがあるだろうし。町でも一緒に散歩したり夕飯を食べたりしようか。紹介したい美味しい店もあるし」
「あ、そうか。そうね。うん、もちろん」
私だって浬桜くんと話したいことはまだたくさんあるしね。浬桜くんから誘われるなんて嬉しい。
「それじゃね」
「うん、また放課後」
私は浬桜くんとラインのIDを交換してから別れて、自分の教室に入った。
こうやって私の初日の授業が始まった。
2022/12/31 今年は今日で終わりですね。いい年を。