13☯ 私と彼(女)の決着
「陽依ちゃん、お前今何を?」
「あの……。それは……」
今のやり取りってなんかデジャヴュっぽい。何か誤魔化……って、なんでだよ!?
なんでまた誤魔化そうとか考えてしまうの? そもそも私は告白するつもりじゃないか。もうこれで終わらせよう。もう逃げない。このまま進もう。
「す……好きだよ。浬桜くん、ずっと前から好きでした。私と付き合って!」
やった! 私はやっと言えたよ。言おうとしたら意外とあっさりとできちゃうじゃないか。
「え? 陽依ちゃん……?」
私の告白を聞いて浬桜くんは困った顔をしている。
「いきなりこんなこと言って困るんだよね? わかってる。でも本当のことだよ。私は小学生の頃出会って浬桜くんに助けてもらった時からずっと浬桜くんのことが好きで。だからいきなりいなくなってすごく寂しかった。でもここでまた再会できてすごく嬉しかった。浬桜くんは女の子になったと知ってすごくショックを受けていろいろ迷っていたけど、結局私の気持ちは変わらない。変わらずにいるつもりだ。浬桜くんが男の子に告白されたと知った時はすごく不安に感じたけど、浬桜くんが告白を断ると決めた時に、私はすごく嬉しかった。だって私にもチャンスがあるってことになるんだもん。そしてあれから私も浬桜くんに告白してみようかなと思っていて機会を模索していたけど、なかなか言えなくて。でもやっと今日こうやって言えたね。好きだよ。大好きです。愛している。浬桜くん、私の恋人になってください」
私は浬桜くんを抱いたままいっぱい言いたいことを言い出してしまった。なんかめちゃくちゃでどう思われるかわからなくて不安だけど、今やっと私の気持ちを大体伝えたと思う。
「えーと……」
浬桜くんはあまり信じたくなく困ったような声を出した。随分戸惑っているようだ。
「もしかして、オレ、夢とか見ているのかな?」
と、浬桜くんから初めて出た言葉はこれだった。
そう聞いて私は浬桜くんを腕から解放して、ちゃんと面と向かって顔を見つめた。
「なんでそうなるのよ?」
「だって、陽依ちゃんがオレのこと『好き』って。そんなこと……。あ、痛いっ! 何をする!?」
私は浬桜くんの顔をつねった。浬桜くん、痛そう。力を入れすぎたかな?
「ほら、現実だろう」
「そのようだけど……」
「だから私の今の告白も夢でも幻でもなく、本当に本物だよ」
「そうなの?」
「まで信じないの?」
どうやったら信じるの? もう……。
「でもオレは半陰陽だよ?」
「それはとっくに知ってる」
むしろそれがいいかも。こんな不思議そうな存在は自分の恋人だなんて。自慢できることだよ。
「オレは女の子だよ?」
「それももちろんわかっているよ」
女の子同士で何が問題なの? 私は百合でも構わない。あの台湾人のお姉さんたちみたいに好きな人と付き合って、堂々とカミングアウトしたい。
「お前に迷惑かけちゃうよ?」
「そんなことないの」
迷惑になるのはいつものことだから慣れているし。
「お前を幸せにできるかどうかわからないよ?」
「そんなことない。一緒にいるだけで幸せだよ」
私の幸せは私が決めるから。
「さっきみたいに変な目で見られるかもしれないよ?」
「そんなの構わない。見たいと言って褒めてくれる人もいるし」
さっきの地味眼鏡百合馬鹿みたいにね?
「結婚もできないかもしれないよ」
「別に結婚は全てじゃないし。でももしどうしても私と結婚したいのなら、その時一緒に同性婚できる台湾にでも引っ越ししよう」
日本人は台湾で婚姻届できるかどうかよくわからないけどね。今はただ適当に言っただけ。後であの台湾人のお姉さんたちに相談してみよう。
「本当にオレなんかでいいの?」
「もちろんよ」
何度も言わせるな。もう……。
「よかった。本当に……」
そう言って浬桜くんは涙目になった。もしかして私は浬桜くんを泣かせてしまった? 浬桜くんって高校生になっても子供の頃みたいに涙脆いんだよね。
「オレも、実はずっと前からお前のことが好き」
涙を流しながら浬桜くんはそう返事して、私に抱きついた。
「浬桜くんが、私を? 本当に?」
ってことは、最初から私たちは両思いだったね。お互い相手の気持を知らなくてずっと不安を抱えて自分の気持ちを伝えないまま擦れ違っていた。
浬桜くんも私と同じで何度も迷って、何度も自分の気持ちを伝えようとしていたが、なかなかできなくて悩んでいたのね。
あのお姉さんたちの台湾料理の店に誘ったことも、今日一緒に映画を観ることも。これは全部浬桜くんなりの努力ってこと?
「うん、好きだよ。オレの彼女になってくれないか?」
「はい、喜んで。でも私は彼氏の方がいいかも」
「それは駄目! 彼氏はオレの方だ! 絶対譲れない」
「でも私の方が大きいよ?」
そう言って私は浬桜くんの頭を撫で撫でした。
「べ、別に身長なんて関係ないし。『彼氏が彼女より高い』って誰が決めるの? 最近『逆身長差カップル』も人気あるし」
「そうなのか?」
まあ、別に2人とも『彼女』でいいんじゃないか。どうせ今女同士だし。
「ところで、浬桜くん、今の状況はなんかちょっとまずくない?」
気づいたら周りの人は私たちを見ている。そういえばさっきから私たちはずっとゲームセンターの前に立って話しているのね。
話に夢中で2人の世界に入っちゃったから気づかなかったけど、私たちって随分目立っているようだ。さっきの告白しているところも、抱き合っているところも、そして今浬桜くんが私の腕の中で泣いているところも、全部見られている。そう考えると、なんかものすごく恥ずかしくなってきた。
「とりあえず、ゲームセンターに入って何かゲームをしよう。って、おい、放してよ」
浬桜くんは私に抱きついたまま放す気配はない。
「嫌だよ。放したくない」
「見られてるから。ね……」
「別に見られてもいい」
「でも……」
もう、浬桜くんって甘えん坊なんだから。なんでこういう時は恥ずかしくないのよ?
私はすごく恥ずかしい……。けど気持ちいい。それにさっきからずっとこんな感じだから今更放してももう遅いか。ならまあいいか。しばらくこのままで……。
こうやって私と幼馴染の半陰陽は恋人同士になって、私たちの止まっていた関係はまた動く始めて、これから青春を謳歌していくだろう。
ちなみにその後私たちは一緒にゲームをやって、浬桜くんは意外と下手くそで私があっさりと勝ってしまったから、約束通り一緒に服の店に行って浬桜くんは私の『着せ替え人形』になってくれたけど、これはまた別の話である。
- 終わり -
お読みいただきありがとうございます。
物語はこうやって終わりですが、これから後日談を書く可能性があります。




