12☯ 私と彼(女)の邪魔
「着いたぞ。ここはこの町で一番大きいゲームセンターだよ」
浬桜くんは私を連れてゲームセンターの入口まで歩いてきた。
周りを見たら、なんか男の人の方が多いよね。女の子もいるけど、大体男の人と一緒にカップルで来ているようで、女だけで来ている人はあまりいないみたい。
やっぱり私たちって変かな? ここは女の子2人で来ていい場所なのかな?
「ね、キミたち。2人で来たのか?」
「「……っ!」」
ある金髪の男の子がこっちに近づいて私たちに声をかけてきた。見た目では私たちより年上のようで、高校生か大学生くらいかな? 彼の隣には地味そうな眼鏡の男が立っている。男2人で来たようだ。二人共私より背が10センチ以上高い。
「何の用?」
浬桜くんは私の前に立って、あの男に向かって質問をした。私を庇おうとしているようだ。
「俺たちと一緒に遊ばない?」
あ、これはナンパだな。中学生の頃もこういうの遭遇したことはある。私はそういうのあまり好きじゃないんだよね。
「結構だ」
「女だけで遊んでも楽しくないと思うぞ」
「余計なお世話だ。オレは男に興味ない!」
「今『オレ』って? 何それ、これは受けるぞ」
浬桜くんの一人称を聞いて、金髪の男はくすくす笑った。この人、なんかムカつく。やっぱり嫌なやつだ。
「あの、君たちってさ」
今いきなり介入してきたのは地味そうな眼鏡の男だった。彼はさっきから金髪の男と一緒にいるけど、声を出すのは今初めてだ。なぜか私たちを見てニヤニヤしている。
「2人もしかして恋人同士なのか?」
「「……っ!」」
いきなりの彼の言葉で私も浬桜くんも驚いた。何この人? なんでわかる……じゃなく、なんでそう思うの? 私たちは、べ……別にまだそんな関係じゃ……。
「は? お前何馬鹿なこと言ってんだ?」
と、金髪の男が言った。さすがに彼も呆れたそうな目で眼鏡の男を見た。この2人は仲間同士じゃないのか?
「百合だよ。リアル百合。尊いものだぞ! だから邪魔しては駄目だ」
「は? お前はどっちの味方だよ!?」
「僕は百合の味方だ! 百合は素敵で無敵だぞ! 女の子2人はイチャイチャして自分だけの楽園を作る。こんな場面に僕ら男が介入するべきではないよ。百合の尊い付き合いに水をさす男は罰が当たるぞ。万死に値する!」
そ、そこまでのものなの?
「お前の妄想に付き合う暇はないぞ! 百合なんてそんなの漫画でしかないんだ。女は男と一緒に来るものだ。女だけでは何ができる?」
「お前は全然わかってないな。仕方ないやつだ。もう……」
眼鏡の男は溜息をしながら呆れそうな顔をした。
「これはこっちの台詞だ! この百合馬鹿! お前なんか精神科に行け!」
「百合は病気ではない。生き様だ」
「こいつ……」
情熱を語った眼鏡の男の言い分に、金髪の男は愕然とした。
何この茶番? もしかして仲間割れ?
「ね、君たちは付き合ってるだろう?」
「……」
眼鏡の男はこっちの方に訊いてきた。今の状況、私たちどう答えればいいの?
「そうだよ」
「え?」
私がもじもじしている間に、浬桜くんは彼らに返事をした。
「もうバレてしまったら仕方ない。そうだよ。彼女はオレの恋人だよ。だから彼女に手を出すな!」
「……っ!」
浬桜くん……!? 今何を言ったの? 私が恋人だなんて……。
今はなんか予想外な展開だ。私がどう反応すればいいかよくわからなくなってきた。
「やっぱりそうだよね! 正に素晴らしい」
眼鏡の男はなんか益々興奮してきたようだ。
「おい、勝手に写真撮るな。この変態眼鏡。通報するぞ」
眼鏡の男がスマホを取り出して私たちに向かって写真を撮ろうとしたら、浬桜くんはすぐ彼を止めようとした。
「あ、ごめん。あまりにも尊すぎて、つい……。百合は観るだけのもので、介入するのは下衆のやることだよね」
何それ? この人にとって私たちは見世物かよ?
「わかっていたら、オレたちの邪魔をするな! さっさと失せろ!」
「はい、もうお邪魔はしません。百合の神様ごめんなさい」
浬桜くんにそう言われて、彼は素直に写真を撮ることを諦めてくれたようだ。そして空に向かって謝罪した。
「ほら、僕たちはもう行こう」
「は? お前なんで勝手に?」
金髪の男はすごく不満そうだ。彼は全然納得していないみたい。
「この2人の邪魔をするなら、僕もお前の敵だぞ! 百合の間に挟まる男の末路を見せてやろうじゃないか。純粋な百合を僕は守って見せる!」
「何この裏切ら物! わかったよ。しっ……!」
結局眼鏡の男は金髪の男を連れてゲームセンターに奥に入って去っていった。
これで助かったの? あまりにも巫山戯た状況なので、私の頭はまだついていけていない。
「あの、浬桜くん……」
とりあえず私は浬桜くんに声をかけてみた……が。
「あ、陽依ちゃん。今のはね……」
浬桜くんは私の顔を見てすぐ顔が赤くなって目を逸らした。
「ごめん。オレ、いきなりあんなこと言っちゃって。嫌だよね?」
「え? 何のこと?」
なんで浬桜くんは謝っているの? 私を助けてくれたのに。
「あれだよ。その……。いきなりこ、恋人だとか言って……」
「あ、それか」
確かにいきなりそう言われてびっくりしたよ。でもよく考えてみるとあれは眼鏡の男を騙すためだよね?
「やっぱり嫌だよね。オレは弱いし。結局役に立たないし。かっこ悪いし。いきなりオレなんかの恋人だと思われて」
「は?」
なんでそうなる? 浬桜くん、私を助けてくれたのに、また自分のことを悪く言っている。私が嫌なわけないのに。なんでいつもこうやって自分のことを馬鹿にするの? もうじれったい……。
「そんなことないってば! 嫌なわけないだろう! 好きな人の恋人になるのは……あ」
と、私はそう言って……そしてすぐ自分が余計なことまで口に出してしまったことに気づいた。
どうやら今話の流れで私はつい『好き』って言ってしまった。




