婚約破棄による二次被害
婚約破棄ってやつは高位貴族のボンボンの道楽だ。
婚約者が既にいる勝ち組連中で、なおかつ、別の令嬢も侍らせている二股野郎。
「リナリー・ゲッスイドー侯爵令嬢、君との婚約を破棄する!」
今日も今日とて婚約破棄。
ここ最近の夜会では見慣れた光景になりつつある。
ダンスの曲を演奏する音楽家達も慣れたもので、全員が楽器を下ろし、早い者は音を立てずに譜面を片付け始めた。
「婚約破棄って何でそんな人気があるんかねぇー」
隣にいた騎士団の同僚が俺にだけ聞こえるくらいの声量で独りごちた。
今まではそうした場面に遭遇しても「またやってらー」くらいの感覚で眺めていた。
今回、全然オモンナイ。
笑えねぇー。
笑えねぇー。
全然笑えねぇー。
婚約破棄を突きつけた公爵令息の口上に、突きつけられた側の侯爵令嬢が反論している。
公爵令息は聞く耳を持つ気などまるで無いようだ。
そんな公爵令息の傍らには、よく見慣れた伯爵令嬢の姿が。
伯爵令嬢はうっとりとした表情で、公爵令息を見つめている。
「あれ? あの子、お前の婚約者じゃね?」
「おー、俺の婚約者」
公爵令息曰く、リナリー・ゲッスイドー侯爵令嬢との婚約を破棄して、ナタリア・ジョシィード伯爵令嬢を新たな婚約者とするそうな。
ナタリア、俺の婚約者だけれど。
つい最近決まった、家が選んだ婚約者。
今日の夜会、正式に婚約したからにはと思い、手紙で誘ってみたが、都合が悪いと断られていた……さもありなん。
リナリー侯爵令嬢は、とうとう婚約破棄を受け入れる様子だ。
毅然とした態度をとっているが、握り締めた手も、ドレスから出た肩も、細く、白く、俺には弱々しく見えて、今にも倒れてしまいそうだ。
「俺、ちょいと行ってくるわ」
「え、なになに? ヒール役?それともヒーロー?」
「さあな」
俺も婚約破棄されたも同然。
婚約破棄される側同士がくっついて、ハッピーエンドになってもいいんじゃね?