第十八話 イネッセ奪還作戦 第一段階
―――ガタンッ
「おーい、つきやしたぜー。」
野太い御者の声がする。
もう南都についたのか。
――あの後。
なぜかまたたくさん仕事をして、アマイラと私、それに私の侍女、ティングス・アレンジ、ギブ・ホープ、アマイラの侍女、ナナリー・ミールさんで南都にいくことになった。
私の侍女が二人なのは、身の安全のためと、変装のためだ。
ギブ・ホープは前に説明した通り、治癒担当。
ティングス・アレンジは、変装のために連れてきた。
アレンジは、「整える」事ができるため、私達双子のすごいくせっけも、ストレートにすることができたりするのだ。
私はともかく、アマイラは顔がわれてしまっているからね。
――閉話休題。
「ありがとうございましたー!」
御者に向かって淑女にあるまじき大きな声で感謝を伝えるアマイラ。
まぁ、下位貴族くらいの教養を身に着けた新規の商家の娘っていう設定だしね。
しょうがないか。
でも、その設定のせいで、王家の馬車が使えなくて、おしりが痛いんですけど……。
文句を言ってる場合でもないか。
『まず、商家の娘として南都に入り込んで、他の商家と繋がり、奴隷に興味があることを示す。
それが第一段階。』
アマイラの言葉を思い出す。
奴隷を扱っていると思われる商会の大体の目星がついてたから、割り出しやすかったかな。
商会の目星をつけてくれたアマイラに感謝だね。
本当にこういう時、社交界などの情報が役に立つ。
私も少しは社交界に出ようかな………。
ん、いいや。
そういう面倒くさいことは全部アマイラにお願いするとしよう。
それが私達双子の役割分担だしね。
「まず、インジャスディス商会だね。」
馬車を降りると、アマイラが話しかけてくる。
「……たしか、ジャスディス商会の店主の息子さんが経営してるんだっけ。」
そんな相槌をうっていると、アマイラの侍女、ナナリーが入ってきた。
「惜しいですね、マーヴィリー様。
ジャスディス商会の店主の弟の息子ですよ。つまり、甥っ子ですね。」
おおう、そこまで見下したような態度で言うか?
私一応王女よ? 今は商家の娘って設定だけど。
「ナナリー、姉さんを見下す態度はやめてください。」
アマイラは優しいわね。不慣れな口調のアマイラもかわいいわ。
ごめんね、いつも面倒くさいこと押し付けちゃって。
「申し訳ございません。」
ああ、ちなみに侍女三人は護衛中の冒険者という設定だから、鎧を着ていたり、ローブを羽織っていたりしている。
「ここじゃなかったですっけ、お嬢。」
アレンジが少し粗暴な言葉を使って話しかけながら、右の建物を指差している。
古ぼけた煉瓦の壁、それに扉についてる古ぼけたベル。
うん、ここで合ってるね。
「…此処ですね、行きましょう、アイ。」
「はい、マイ姉さん。」
私の偽名は「マイ」、アマイラは「アイ」だ。
偽名にはまだなれないね。
―――ガランガラン……
扉についたベルが鳴る。
奴隷に手を出している暇があったら、ベルを新しいのに取り替えたほうがいいんじゃないかしら。
……おっと、つい嫌味が出てしまったわね。
気をつけないと。
商会本店に入った私達はまっすぐ受付へと向かい、話しかける。
「あのすいません。午後三時からのアポイントを取っていたジークレット商会と申しますが――」
交渉はあくまでアマイラの仕事。私が出る幕はない。
「ジークレット商会様、ですか。では、確認しますので少々お待ち下さい。」
んー、新興商会っていうのが仇になったか。
舐められちゃったのかな。
そして待つこと数分。
受付のお姉さんが戻ってきて、申し訳なさそうな顔になる。
「……申し訳ございません。
商会長はお客様のお相手をしておりまして……。」
お客様のお相手、ね。
貴族の客が来たか、もしくは舐められてるのか。
「数刻しましたら大丈夫かと……。」
うん、貴族の客が来ている可能性が高いね。
周りに商人が多い。
おそらく何時間か前から相手をしているのだろう、四、五人はいるね。
貴族が来ているならしょうがないか。
「どうします? マイ姉さん。」
アマイラ――アイが小声で話しかけてくる。
「…貴族の客が来ている可能性が高い。
一時間のみ、私とアイで待ってよう。一時間が過ぎて、次に向かわなくてはならなくなったら此処は私に任せて。」
「姉さん、それだと商会としての挨拶なのに、代表がいなくなってしまうではないですか。
一時間だけ二人で待って、一時間過ぎたら言付けだけ残して次に行く、とか。」
うん。気づいてくれたね。
「…うん、それがいいと思う。」
よしよし、これでいい。
アイ――アマイラに正しい策を自力で見つけてもらう練習にさせてもらうよ。
というか、私が代表なんだよね、この商会の。
アイのほうが良かったんじゃない?
そんな感じで一時間待ち、予想したとおり終わらなかったので言付けだけ残して次の商会に向かった。
後は、目星をつけていたオリゴ商会、カバップ商会を周り(この2つの商会に関しては順調)、最後にまた戻ってきた。
商会に入って最初に聞こえてきたのは男の怒号だった。
「この商品がないとは、どういうことだ!!」
身なりがいいからおそらく、貴族の男が、一人の男性に詰め寄っていた。
あれから二時間位経ったけど、まだやってるのか。
「で、ですから、私達は――」
詰め寄られている男性は商会長かな。
小太りにちょびヒゲ、それに履き潰した茶色い皮の靴。
うん。情報と合致しているね。
そして相手は……。
去年子爵から男爵に爵位が下がった、男爵家のフィオー男爵だろう。
何かあったのか?
「です……私達…奴隷商売…辞める……にした…です。」
とぎれとぎれにしか聞こえないね。
普通の人だったら何も聞こえないだろう。
私がちょっと耳が良いからわかるだけで。
話している内容から、奴隷商売をやめたってことだろうか。
だけど、これでフィオー男爵とインジャスティス商会が奴隷商売に関わっていたことはわかった。
情報を探らせてもらうよ?
♢
「―――遅くなってきたから、言付けだけ残して宿へ向かおうよ。」
アイが提案してくる。
時計を見ると、午後八時。
いつものなら、夕食も終わり、風呂も終わり、布団で寝っ転がっている時間だ。
だからこんなに疲労感があるのか……。
「…そうしたほうが良さそうだね。」
私達は言付けを残して宿へと向かったのだった。
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