第十話 ヘイダーとマーヴィリーのすれ違い
(注意・今話はマーヴィリー視点がありません。ヘイダー目線です。)
「やっぱりマーヴィリーとアマイラねぇ様はいじわるだよぉ。」
この領を紹介し終わって、食事が終わった頃。
アマイラねぇ様と、僕、第五王子フォレスト・ヘイダーは楽しく談笑中だ。
「こら、ヘイダー。マーヴィリー姉さまを呼び捨てにしない!!」
ちえっ、本気で怒ってるや。
でも、僕は表面上は謝っても、絶対に直しはしない。
あんなマーヴィリーねえ……と、間違えた。いまになっても、あの頃の癖は抜けないらしい。マーヴィリーのことを言い間違えるなんて。
昔は、マーヴィリーもやさしかった。
お菓子を分けてくれたり、母様に怒られたときは一緒に謝ってくれたり、逆に母様に話をつけてくれたり。
とても優しい、自慢の姉さまだった。
でも、変わってしまった。
他の兄様や姉さまのように、城で働く人達にきつく当たるようになった。
キンキンとうるさい声を上げたことすらあった。
だけど、それ以上に変わったことは、笑わなくなったことだった。
日に日に笑わなくなって、他の人にきつく当たるようになったマーヴィリー姉さまが、怖くなった。
だから、マーヴィリー姉さまとあまり話さなくなったし、会うことがあっても、姉さまから目を合わせてくることはなかった。
決定的な出来事は、あの事件だった。
母様が主催したお茶会でのこと。僕の飲んだ紅茶に毒が入っていた事があった。
こういう事が起きたのは初めてで、苦しくて、怖かった。
アマイラねぇ様がマーヴィリー姉さまの侍女を動かしてくれなかったら、僕は死んでいただろう。
そう、マーヴィリー姉さまは自身の侍女―――治癒魔術師を動かすことすらしなかったのだった。
もうすでに、僕の知るマーヴィリー姉さまではなかった。
「……マーヴィリーが、僕に何をしたのか、知ってるでしょう?」
「ええ。害することは何もしていない、そして、逆に助けていたってことは知っているわ。」
僕を助けていた?
そんなわけないじゃないか。
「……そんなわけ、ないじゃないか。
マーヴィリー姉さまは、僕に関心がなくって、自分の侍女を動かすことすらしなかったんだよ?
直ぐ側にいたのに。」
そうだ、そんなわけない。
「……あのときは、「しなかった」のではなくて、「できなかった」のだけどね。
ちなみに、ヘイダー。あなたは、あのお茶会のあと、数日くらい、姉さまを見かけたかしら?」
そういえば……見かけていない。
その他の日は、毎日と言えるほど見かけていたのに。
「姉さまはね、自身の治療をそっちのけにして、あなたに治療術師を向かわせたのよ。」
え?
「マーヴィリー姉さまの、治療?」
「……知らなかったのね。
姉さまは、自身の体にも毒が回っているにも関わらず、侍女をあなたに向かわせたのよ。
己は四人分の殺意を受けていたがゆえに丈夫だし、あの子のほうが幼いから、と言って。」
自身の体に毒が回っていた?
四人分の殺意を受けていた?
どう、いうことだ?
「その反応、姉さまが四人分の殺意を背負っていることも知らなかったのね?」
まだ混乱の残る頭だが、素直に、こくんと肯定した。
「姉さまは、自身の分はもちろん、私と、あなた。そして、イネッセのぶんも、全部。
暗殺者とか、毒とか。そういう物を受けていたのよ。」
うそ、だろう?
あの、冷たいと、他の兄弟たちと一緒になってしまったと思っていた姉さまが?
僕は、あのお茶会のあと、姉さまにあったとき、なんて言った?
『お姉さまのバカ! だいっきらい!! 気持ちが悪くなるから近づかないで!!』
あんな、幼い子供の癇癪、聞かなければいいのに。
あのあと、姉さまは僕に極力近づかなくなったし、話しかけもしなくなった。
それすらも、僕は姉さまが僕に無関心なせいだって、決めつけて。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
うそだ、うそだ。
「……………少し、一人で考えたいこともあるでしょうし、私はこれで失礼するわね。」
僕に、気を使って、アマイラねぇ様が部屋から出ていった。