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気を失っていた

 大魔法料理対決の当日がやってきた。

 会場となる闘技場には多くの観客が詰め掛け、客席はほぼ全てが埋まっている。外まで人で溢れ、周りには出店が連なっており、祭りのような様相を呈している。


 大魔法料理対決はビナー魔法学園において、文化祭、体育祭と並ぶ一大イベントなのだ。その伝統と、輩出した料理人の実績が大会に威勢を与えている。


 客の中には各国の料理人達や、王室の要人などが多数紛れ込んでおり、有望な参加者を探し出そうと目を光らせている。これは大魔法料理対決に参加する生徒達の戦いであるのと同時に、それをスカウトする大人達の戦いでもあるのだ。


 才能のある生徒は他のどの国を出し抜いてでも獲得したい。大金を叩く国も多い。決勝まで進んだ生徒達は競合して値段が吊り上がるのが常だ。



 さまざまな思惑が渦巻き、闘技場は赤く、異様な熱気に包まれている。



 それぞれがそれぞれの想いも胸にこの日を迎える。

 どうにか予選だけは突破したいと周りの評価を気にする者もいれば、中にはさっさと敗退してサボろうと考えている者もいる。


 だがこの熱気を作り出しているのは彼らではない。

 たった一つの栄冠。誉。栄誉を欲する者。

 そう、優勝を勝ち取るために、これまで血の滲むような努力を重ねてきた者達がこの空気を醸成しているのだ。


 自分の味に圧倒的な自信を持っており、それを証明するために参加した者。ライバルに勝つため死ぬ気で修行に明け暮れていた者。

 優勝賞金で豪遊しようと企む者、そして借金のかたに取られそうになっている父親を助けるために参加した者……。


 富、名誉、誇りを賭けて、大陸随一の料理大会が今、幕を開けようとしている。




 ***


 まどろみの中にあった俺の意識は一気に覚醒した。目を覚ましたは良いが、この時の俺は全く状況を把握できていなかった。

 目の前が真っ暗でよく見えない。目を開けているはずなのに見えない状況で、俺は軽いパニックに陥っていた。

 暗い! 真っ暗! まるで俺の人生のようだ!


 少しでも多くの情報を得ようと上半身を起き上がらせる……出来ない。目の前の何かが俺の頭を押し返していて、うまく立ち上がれないのだ。

 視界が閉ざされていること、そして身動きが取れないことで俺は半ばパニックになっていた。もしかして俺はどこかに閉じ込められているのでは? と思うと焦燥感と恐怖に身体を支配されそうになる。

 俺は両手で必死に目の前の「何か」を退かせようと持ち上げてみた。感触から言ってとても柔らかい物だから、鷲掴みにして必死に動かせば退かせるはずだ。

 しかし重い。これは骨が折れそうだ。


「あっ」


 俺が「何か」を必死に持ち上げていると、その更に上から女の吐息が漏れた。まさか俺の他にも誰かが閉じ込められているのか!? 尚更早く脱出しなければ!

 俺は更に力を込めてそれを押そうとした時、急に視界が開けた。


 暗い場所に慣れていたため、最初はよく見えなかったが、やがて目の前に女の顔があることが分かった。

 次にその顔の主がジャンヌであること。次に周りにニックやルナ、そしてメランドリ先生がいること。ここが闘技場の観客席であること。

 そして、周りの人たちがドン引きした目で俺をみていること。

 ジャンヌが人殺しの目をして俺を見ていること。


「あんた……何してんのよ……!」


 周りの様子とブチギレジャンヌさんの目を見た俺は、さっきまで何が起こっていたのかようやく気付いた。

 恐らく俺は何らかの原因により意識を失っていて、ジャンヌに膝枕をしてもらっていたのだ。

 するとジャンヌは巨大な胸の持ち主であるので、俺の眼前までそのおっぱいが迫り出しているわけだ。その状態で俺が目を覚ますと、あたかも暗闇に閉じ込められたかのような感覚に陥って、俺は必死に胸をあわわわあわわわわわ。


「ごめんなさい!」


 俺は柔らかい感触に引っ張られながらも、すぐさま土下座の体制に入った。今度は胸ではなく、両腕で俺の頭が押し潰されかねないと思ったからだ。


「クラウス、顔を上げて」


 俺の土下座に周りがどよめく中、ジャンヌの幾らか落ち着いた声が聞こえた。おや、意外と早く許してくれるのか、と思って上げた顔を万力の如く締め上げられた。


「いたたたたたた! 折れる! 折れりゅうううう!」

「おいよせジャンヌ。そのままだとクラウスがトイレットペーパーになっちまうぞ」

「流せば良いでしょ」

「いやもったいねえから俺が使ってやるぜ!」


 何なんだこのサイコ野郎しかいない会話!

 結局、メランドリ先生が仲裁に入ってくれたので何とかジャンヌも気を納めてくれた。


「それで、我はどうして闘技場にいる? 大魔法料理対決はまだ先だろう」


 それを聞いてジャンヌ達は顔を見合わせた。


「あんた、もしかして何も覚えていないの?」

「覚えていないとは?」

「大魔法料理対決は今日だぜ」

「……え?」

「そんで、もう準決勝まで終わったぞ」


 え?

 え?

 えええええええええええええええええええええええええ!!!!!!


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