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マッシュオーク

 

「どうしたニック、用事は終わったのか……」


 俺は声がした方を振り返ったところで、大口を開けて静止してしまった。

 そこに見えたのはニックではなく、巨大なキノコだった。いや、正確にはニックの担いでいるものが巨大なキノコで、それがあまりにも大きいのでニックの姿が隠れてしまっていたのだ。


 俺が驚いた理由はそれだけではない。その物体からは、まるで蜂蜜のような甘い香りが漂ってきており、しかも太太しい「」の部分からは、これまたモリモリに筋肉の発達した手らしきものが見えたからだ。


「に、ニック……、それは……?」

「おう、これか!」


 ニックは背負ったそれを床に下ろす。ずしん、と響きがこちらまで伝わってきた。手の生えたキノコはピクリとも動かないので、これが動物だとしても、もう死んでいるのだろう。


「こいつなんだけどよお! さっき裏の林でエロ本探してたら急に襲って来てよお!」

「お、襲われた!?」


 後ニックの言ってた用事ってエロ本探すことだったのかよ。


「おう、すげえ力でぶん殴ってきやがったぜ。ガハハ!」

「アイヤー。ニックは大丈夫だったノ?」


 紅花が心配げに言う。


「おう! こんなキノコ野郎の力なんて俺様の前じゃカスだぜ! まあメチャクチャ硬かったけどな!」

「それで、どうしてそれを持ってきたのだ?」

「いや、こいつ面白ぇ形してっから、クラウスの部屋に置いてビビらしてやろうと思ってよお!」

「おい! 絶対やめろよ!」


「まあ話は最後まで聞け。で、こいつを男子寮に運んでたら、ツレに呼び止められてよ、どうやらこいつ、食えるらしいんだわ」

「このキノコがか? だがニック、貴様が殴ったらすごく硬かったんだろう? 硬いなら食用に向いているとは思えないが」

「おう、こいつ実はキノコじゃなくて『マッシュオーク』っつうモンスターなんだってよ! 皮膚は硬いし火もほぼ通さねえから、ほとんど流通してねえ! でもツレが言うにゃ、中の肉はめっちゃくちゃ美味くて、調理さえ出来りゃ、とんでもねえ高値が付くらしいぜ!! だからどうにか料理して食おう!」

「ほう……」


 床に転がるマッシュオークの口は半開きになっており、中から鋭い牙が覗いている。この風貌からは、あまり美味そうな料理になる未来は見えないが……。

 ん? マッシュオーク? どこかで聞いたようが気が……。


「あ」


 俺の頭をアーサーが過った。鶏のように首を前後に動かしながら過った。

 そう言えば、アーサーが捨て台詞のように言っていた。


「お前なんかマッシュオークだけ料理しとけば良いんだ!」


 あいつは死を覚悟して手料理を食うくらい紅花のことが好きだったようだし、素直になれない彼が何かを伝えるために、あの言葉を発していたのだとしたら……?


 だとすると、マッシュオークを使えってことか? いや、調理するのは難しいってさっき……。


 その時、脳裏を電光が走った。電光の後ろでは首を前後に動かしながらアーサーが過った。

 待てよ。大魔法料理対決の決勝戦のお題は「肉料理」。

 こいつもモンスターなら肉料理の材料に使えるぞ。


 巨大な体、硬い皮膚、その内にある未知の肉。


 俺の頭の中で、今までの記憶が手繰り寄せられ、一つになっていく。


「クラウスー? 何で笑ってるヨー?」


 俺は無意識のうちに笑ってしまっていたらしい。


「でかしたぞ、ニック」

「ん? エロ本なら無かったぞ?」


 そっちじゃねえ。


「紅花、これはもしかすると優勝出来るかもしれないぞ」


 俺は紅花の両肩に手を置き、力強く言った。


「セクハラヨ」

「ごめんなさい」


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