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痴情のもつれ

 異常な明るさに包まれ、生徒たちの悲鳴が轟音にかき消される。

 そして、その離れていても伝わる熱量が魔法の主を明白にしていた。


「紅花!」


 俺は思わず口に出していた。

 その声に反応して振り向いた紅花はたちまち笑顔になる。その無邪気の表情からは、オーバーパワーの魔法をぶちかましている姿は想像出来ない。


「あ、クラウスー! 死んで償うヨー!」

「何を?!」


 俺のタマを取りに来ただと……?


「冗談ヨー。こんな所で会えるなんて思わなかったから嬉しいネー」


 紅花は笑顔のままこちらに歩み寄ってきた。何だか犬の人懐こい表情に似ている。人に恵まれて育ったんだろうな、と思わせる表情だった。


「それはこっちの台詞だ。紅花よ、何故魔道士学科の校舎に居る?」

「アイヨー。私、炎まだ制御出来ないヨー。だからここで制御するために練習してるヨ」

「炎魔法を?」


 俺は冷静に返答したが、内心ではかなり驚いていた。


 紅花は精霊を使役しているし、準決勝まで上がるにしても、炎魔法を使う必要は無い。しかし大会が近い今、紅花が炎魔法を制御しようとしているというのはつまり、彼女が決勝に勝ち上がること、ひいては本気で優勝を狙っていることの証左に他ならない。

 アーサーから無理だ無理だと言われ続けても、あれだけ致死量の炎をぶっ放しても、ニックをパイ●ンにしても尚、紅花は当初の目標を変えるつもりは一切無いらしい。


 意志が強い。確かにそうなのだが、何故そこまで無謀な目標を抱き続け、そして努力を続けていられているのだろう。単純に興味を惹かれていた。


「どうして」


 俺は思わず口にしていた。


「どうして諦めていないのだ? 言いにくい事だが紅花よ、貴様の今の実力では決勝は愚か準決勝に進出出来るかどうかも怪しい。今年はもう優勝のことは諦めて、予選を突破出来るような練習に集中した方が良いのではないか?」


 紅花の笑顔が一気に引っ込む。その次に見せた表情は俺が今まで見たことのないものだった。悲しそうな、切羽詰まっているような、俺が考える紅花という少女が今までの人生で決して見せることのないであろう必死の形相だった。


「それじゃ駄目ヨ! クラウスは何も分かってないヨ! 私、家族のため絶対この大会で優勝しないといけないヨ! 命が掛かってるヨ」


 紅花の張り詰めた表情と叫びは俺を狼狽えさせるには十分だった。


「お、落ち着け紅花!」

「落ち着かないヨ! 私、折角頑張ってるのにどうして油差すのよ!!」


 水だろ。滑り良くなってんじゃねえか。


 動揺しているのは俺だけではない。野次馬として集まった生徒達もざわつき始めた。

 ひそひそと俺と紅花の間にあるであろう痴情のもつれについて、盛んに意見が交わされている。完全に誤解されてるよ。


「ち、違う! 我は貴様の戦意を削ごうと思ったわけでは無いのだ!」

「じゃあ何ヨ! 私の助手になったのは私の身体目当てなノ!?」


 紅花はヒートアップしてわけの分からないことを口走り始めた。周りの生徒達も「やっぱりな」という目で俺を見てくる。そんな目で俺を見るなあ!


「それともアーサーみたいに鶏なノ!?」


 いや鶏にしたのはお前だろ。途方に暮れてしまう。俺じゃ紅花の気を抑えられない。

 その時、ジャンヌが俺とクラウスの間に割って入った。


「落ち着いて、ここじゃ目立つ。目立たないところに行こう」

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